第47話 決戦の日
ロックリザード、ロックゴーレムといった鉱石系の魔物たちを倒しながら、3人は素材を順調に集めていく。それなりにあるいたとき、ウォーダンが後ろの二人を制止させる。
「この先にはクリスタルゴーレムがいる。そいつの身体から採れる鉱石が貴重でな、俺のバスターブレードを作る上では欠かせない素材となっている」
「どれどれ……透き通っていて綺麗です」
「アクセサリーにもよさそうね」
「倒さないようにはぎ取るんだ。倒さなければ、元に戻ってくれるからな。いくぞ!」
手本を見せるかのようにウォーダンが飛び出し、全身から棘のように出ている水晶の人型ゴーレムの大ぶりのパンチを引きつけてから飛び移る。馬乗りになった彼が身体から生えている水晶を切り落としていく。地面に落ちた素材を壊されないようにしながら、適当にあしらうと、勝てないと判断したのかさらに奥へと逃げ込んだ。
「まあ、こんな感じだ。それなりに知性があるのか、ある程度戦うと撤退してくれる。明日は君たちだけで戦うことになると思う」
「手は考えておきますわ」
「では、ガエンさんのところに持って帰りましょう」
落ちている水晶を拾い集めた三人はずっしりと入った素材袋を持って、ダンジョンの外へと出ていく。ダンジョン内では時間の経過がよくわからなかったが、すでに日は落ちており、夜になっていた。
ウォーダンを見失わないように後をついていくと、カモフラージュ用の簡素な小屋ではなくしっかりとした大きな家が建っていた。
「「きたなっ!?」」
「爺さん、さっそく飲んでいたな」
家の中には、土産物のお酒の他に自前で持っていたであろう酒瓶がテーブルの上だけでなく床にもゴロゴロと転がっていた。そして、いかにも高そうな酒瓶を抱きかかえながら、ガエンがいびきをかきながら寝ていた。
「使われていない客室が上にあるから……どうかしたか?」
「どうしたもこうしたも!」
「まずは掃除です!」
「これは見るに堪えませんわ。普段は家政婦たちにやらせていますが、この汚さは私直々に掃除するレベルですわ」
「掃除道具はどこにあるか教えてください」
「ああ、外の物置においてあるが」
女子二人が物置からバケツとモップを持ってきて、家の大掃除を始める。こんな騒ぎの中でも寝ているガエンを自室に運んだ後、ウォーダンも女子二人の手伝いをし始め、夕食は深夜遅くとなってしまう。
翌朝、ガエンは寝ぼけながらよたよたとした足取りで下へと降りていく。あれだけの量のお酒を飲んで二日酔いになっていないのはウワバミのドワーフらしい。
「ふぁ~、飲みすぎたわい。なんか適当に肉でも焼いて……うひょ!?」
なんということでしょう。そんな彼の目に飛び込んだのは匠、もとい女子によって鏡のようにピカピカに磨き上げられた床には塵1つ残っていない。テーブルの上には酒瓶の姿は消え失せ、焼き立てのパンとスープにサラダが置かれている。
台所では女子二人がベーコンエッグを作っているようだ。
「ガエンさん、おはようございます。冷蔵庫のお肉と横の畑の野菜、使わせてもらいました」
「鶏の卵もね。掃除代だと思ってくれると助かるわ」
「別にそれは構わんのじゃがな……ちっ~と落ち着かん」
「美味しそうなにおいだ。誰かに作ってもらうのは久しぶりだな」
ウォーダンもそろったところで、4人が朝食を食べ始める。モグモグと食べながら、ガエンがウォーダンにこれまでの冒険を聞き始める。オリヴィアも少しの間だけはいたが、彼についてはほとんど知らないため、興味津々といったようだ。
「竜が現れたと聞いたらワイバーンだったり、ゴブリンに剣を奪われたりしたことも今となっては良い笑い話だが……」
「何盗まれておるんじゃ!?」
「……目を離した時に盗まれたんだ」
「まったく。そんなんでは親父さんも浮かばれないわい」
「ウォーダンさんの父親って何をしているんですか?」
「……俺と同じハンターだ。20年くらい前に出かけたきり戻ってこないがな」
「あっ、すみません」
「いや、別に構わない。ハンターの道を選んだ以上、いつかはこうなると親父も覚悟の上さ」
ウォーダンが気にしないような素振りで食べるで食べるのを見て、少し安堵する。
朝食後、昨日採った鉱石を鑑定したガエンが三人を集めて、話し出す。
「ロックリザードの質が悪いのう。クズが多すぎる。というわけでロックリザードを中心に狩ってくれ。クリスタルゴーレムはあと1回狩れば十分じゃろ」
「なら、オリヴィアたちはロックリザードを、俺はクリスタルゴーレムを狩れば……」
「何を言っておるんじゃ。小僧はこっちを手伝え。今日はみっちりとしごいてやるぞい」
「しかし、彼女たちはまだ……」
「大丈夫です。きっとお姉さまも必死になって頑張っているはずです」
「そうね。少しでも早くできるなら、それにこしたことはないわ」
「わかった。君たちを信じよう。だが、危ないと思ったらすぐに撤退してくれ。ゴーレム1体程度ならさほど時間はかからん」
「はい。頑張ります」
女子二人が地下ダンジョンのある山小屋に向かっていくのを見届けた後、男二人も鍛冶の準備に取り掛かる。
腹部を突かざるを得ないロックリザードをマリアンヌが、ロックゴーレムをオリヴィアが互いに担当することで、疲弊しつつもクリスタルゴーレムが居る部屋の近くまで到達する。
「昨日はウォーダンさんが倒してくれましたけど、今日はどうしましょう?」
「エアームーブがあるから飛び移るだけなら問題ありませんが、私だけだと火力不足の可能性が……」
「では、こうしましょう」
オリヴィアがよいしょとマリアンヌをお姫様抱っこする。レオナとの日々のブートキャンプもとい訓練で培ってきた筋肉は無駄ではないのだ。少しは強化系の魔法を使ってはいるが。
一方、急にお姫様抱っこされたというと水が沸騰するのではないかというくらい顔が真っ赤になっている。
「マリアンヌさんと一緒に飛んで、私が水圧で切り落とします。これで出来なさそうならウォーダンさんに頼みましょう」
「そ、そそそそうね。それがいいわ。エアームーブ」
ドキドキが止まらないまま、二人は空高く飛び上がり、警戒すらしていなかったクリスタルゴーレムの頭上に着地する。そして、高水圧のカッターによりゆっくりと、だが着実に生えている水晶を切り落としていく。
そして、昨日と丸裸になったクリスタルゴーレムが撤退するのをみて、オリヴィアがそれらを拾っていくが、マリアンヌは放心状態になっている。オリヴィアが散乱した水晶を拾い終わり、話しかけるまで彼女の心は戻ってくることはなかった。
翌日、2人が1日かけて集めた鉱石をガエンが鑑定する。ぽいぽいと捨てられるクズの鉱石と、かごにようやく一杯となった仕分けられた鉱石をみて、ガエンが納得するような表情をする。
「量は十分じゃな。これらの鉱石をこのるつぼの中に入れてくれ」
「ああ、そうだ。大半は市場に流したが、とっておいたリヴァイアサンの鱗もある。これも使えないか」
「ほう……なかなかの上物じゃな。入れておけば、なにかしらの効果くらいはつくかもしれん」
「ならば入れさせてもらう」
「ではやるぞ。手順は昨日教えた通りじゃ」
「それはいいが、彼女たちはどうする?」
「素材集めはもういい。メシでも作って、風呂の準備でもしておけ」
「はい。頑張ります」
「う~ん、家政婦の気持ちがわかった気がしますわ。これからはちょっといたわりましょう」
男二人が熱い鉄を撃っている間、女子たちが家事をする。役割分担に異を唱えず、彼らは竜を退治するための剣を鍛え上げていく。トンテンカンと鳴り響く音は漆黒のとばりが下りるまで途切れることはなかった。
鍛造を始めてから2日目の深夜。女子たちが寝静まってもガエンとウォーダンは約束の日に間に合わせるため、鍛え続けていた。そして、今、一振りの剣がウォーダンの手に握られる。
火に照らされ、青白く光る刃。ドラゴンを退治するために作られた大剣は前の剣よりもずっしりと重い。それは重量がというだけではない。彼らに込められた願いの差のためだろう。
2人は出来上がった剣を携え、少し登った先にある石碑の前に着く。名も書かれていない石碑にガエンが酒をかけたのち、二人は黙とうをささげる。
「親父、見ていてくれ。この討伐が終わったら、俺はあんたの二つ名を貰うよ」
「あの小さかった小僧が今や、都市伝説となって名だけが一人歩きしておるその名を継ごうとしている。どこをほっつき歩いているかは知らんが、近くにいるなら見守ってくれんか、マルスよ」
「…………親父にも話したことだし、明日に向けて寝るよ。爺さんは?」
「ワシはもう少しここで話しとくわい。酒は持ってきておるしのう」
「そうか。最近の風邪は年寄りに辛いと聞く。そこで寝ないようにしろよ」
「ふん。ワシはまだまだ若いわい」
酒をあおるかのようにグビグビと飲み始める。それを見たウォーダンはガエンに任せれば、親父も寂しくないだろうと思い、家へと戻る。
そして、翌日の朝、大空を埋めるかのようなワイバーンの群れがリンドブルムに向かって襲来していく。
ドラゴンとの決戦の火蓋がたった今、切られた。




