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第48話 ドラゴンスレイヤー

 見張り台から警鐘の鐘の音が町中に鳴り響く。街にいた人々は逃げまどいながら、自分の家へと戻り、鍵を閉めるが、それが果たしてドラゴンの前にいかなる障壁になるだろうか。

 街の入り口に築き上げられたバリケードの前で、勇気を振り絞ったハンターたちが各々の武器を手にワイバーンたちを待ち構える。


 そんな彼らの負担を減らそうと、アーシャは空を飛んでいるワイバーンを光さえとおらぬ深い森の中から狙いを定めていた。


「あんたたちには見えなくても、こっちはねぇ……森があんたらの居場所を教えてくれるのよ!」


 森の中から放たれる矢が正確にワイバーンの胸や頭を射抜き、撃ち落していく。進路を変更しても、落とされていくことにじらされ、矢が飛んでくる方に戦力を分散させていく。


「こっちにたくさん来てくれたけど、この数全部撃ち落せないって。もう一つの方はともかく例のアレ、使う?」


「アレはまだ早いわ。せめてドラゴンが来るまで温存しないと。私が迎え撃つわ。エアームーブ!」


 森の中からシャルロットが飛び出していくのを捉えたワイバーンの1頭が、群れから抜き出し、噛みつこうと襲い掛かる。


「おとなしく餌になるつもりはないわ。たっぷりと味わいなさい!」


 大きく口を開けたワイバーンの口内にたっぷりと電撃を浴びさせて、落としていく。そして、眼前に広がったワイバーンの群れを電撃の網で文字通り一網打尽に絡み取り、森の中へと墜落させる。


「アーシャ、着地任せた」


「任せなさい」


 墜落した先には針のように尖った硬い木が急速に生え、ワイバーンを串刺しにしていく。その一方で、シャルロットの着地先には木の枝がクッションのように生え、衝撃を和らげていく。


「森の近くならどこでも聞こえて、見えるってとんでもないわね。しかも木を急成長させることができるから罠を事前に仕掛けなくても、罠を用意できる。正直、まともに戦いたくないわ」


「ただ寿命が長いだけじゃないってわかった?」


「ええ。私の常識がどれでけ狭いか、改めて知ったわ。さてと、狙撃場所を変えてもう一度やりましょう」


「了解」


 街のハンターたちが、盾を構え、剣を振るい、後方から呪文を放って応戦している中、二人は後続のワイバーンを撃ち落としていく。膠着状態に陥った戦況の中、ついにドラゴンが重い腰を上げて空へと舞い上がる。


 台風でも来たかのような暴風、大気をびりびりと震わす咆哮は人間だけでなくワイバーンの動きすら一瞬止めさせてしまうほどだ。破壊の権化たる黒いドラゴンが威圧感たっぷりにゆっくりとリンドブルムの街へと向かう。


「来たわ、中心部まで1000!予定よりも遅いペースで侵攻中」


「アーシャは作戦通り、私の護衛。魔法陣展開準備!遠隔プログラム起動!」


 シャルロットが呪文をつぶやくと、足元に青白く光る魔法陣が展開していく。膨大な魔力の渦は近くで戦っていたワイバーンに直感的に「止めないとまずい」と思わせる。シャルロットに目掛けて襲い掛かるワイバーンを一頭ずつ確実に矢が射抜いていく。


「おっと、私を無視しないでくださる? それとも数で押せばいいだなんて思っていたら大間違いよ!」


 アーシャの後ろから木の実がはじけ飛び、弾丸のようにワイバーンに襲い掛かる。致命傷にならずとも、痛みはある。それを無視して力づくで突破する度胸などワイバーンにあるはずもない。一時的に撤退するワイバーンを見て、シャルロットは呪文の詠唱を終える。


「顕現せよ!サンダー・ジェイル!」


 ドラゴンや周囲にいたワイバーンを取り囲むかのように雷撃の柱が雲を突き破り、雷の鳥かごを形成していく。その籠の目から抜け出そうとしたワイバーンが籠から雷撃を浴びせられ、真っ黒こげになって墜落していく。


 迂闊な行動をとれなくなったワイバーンたちがその場にとどまっていると、籠の中心部からドラゴンやワイバーンに向かって雷が落ちてくる。その雷から逃れるため、ワイバーンがドラゴンの下に逃げようとすると、その態度が気に食わないのか、ブレスを放ち焼き殺し、喰らいつき始める。

 そうなれば、ワイバーンも生き残るためにドラゴンに襲い掛かる。


「なになに、仲間割れ?」


「今までワイバーンとドラゴンが一緒にいたこと自体おかしいのよ。おそらくだけど、ワイバーンが餌となるハンターを誘導して、餌から身を守ってくれて安全に食べる場を提供したドラゴンという構図があったからこそ協力しあえた関係。それが無ければ、生存競争の敵になるだけよ」


「ドラゴンにはダメージなさそうだけど、ワイバーンの攻撃なら通るかも」


「檻の中のワイバーンを倒すまで時間は稼げるから、それまでに帰ってくれたらいいんだけど」


「予定通りなら、もう戻ってきてもいい頃合いよね」


 不安な表情をしながら二人は雷撃を浴び続けているドラゴンとワイバーンの死闘を見守る。

 血肉を喰らいつくすまでワイバーンを蹂躙したドラゴンは檻の中から、見えないはずの術者であるシャルロットを睨めつける。咆哮を放ち、勢いよく檻にぶつかる。


 大気が揺れる。それほどの爆発音とともに、檻が消滅し、煙の中から、ノーダメージとはいかなくても傷ついたドラゴンが健在であった。先ほどまでのお返しとまでに森に炎をまき散らし、辺り一面を火の海に変えていく。延焼を防ぐため、アーシャが周りの木をわざと枯らす。


「エルフに森を枯らせるなんてとんでもない罰当たりね、あのドラゴンは!こっちに向かってきてるけど、どうする?」


「私が出るけど、稼げる時間はたかが知れているわ。ウォーダンが戻ってくると信じて、最後の賭けにでるわ。アーシャは街に行って残りの人たちを避難誘導。三人に会ったら、例の場所に連れて行って。そこまでの誘導なら私だけでもやれるわ」


「了解。気を付けてね」


「貴女もね。次会う時は宴会の場にしましょう」


 アーシャが走り去っていくと同時に、シャルロットが上空へと出る。あの時の人間だとドラゴンは怒りをあらわにする。


「さあ、来なさい、ドラゴン!私()()が勝つか、勝負よ!」


 雷撃を放ちながら、ドラゴンへと向かっていく。人とドラゴンの空中戦という前代未聞の戦いは雷鳴と共に、着実にだが街へと近づいていく。



 その様子をみながら、オリヴィアたちはようやく街にたどり着く。彼女にとって雷撃を操る魔術師は愛する人以外に存在しない。それゆえ、急いで帰った三人は予定よりも少し早く到達した。街から非難する住人とすれ違いながら、森の方へと向かおうとするとアーシャに出会う。


「ラッキー。ウォーダンはあの子がコロシアムに誘導しているから、そっちに行って」


「コロシアム? なぜ、そっちに?」


「話はあと。二人も一緒についてあげて」


「はい、わかりました」


「コロシアムですわね」


「あとは任せたわ」


 アーシャが出遅れた住民が居ないか一軒一軒訪問している。あの様子だと、ドラゴンが来るまでに住民を全員逃がすことは難しいだろう。もはや一刻の猶予もない彼らは、急いでコロシアムの方へと向かう。


 コロシアムに着くや否や、上空からシャルロットが降りてくる。ドラゴンと戦っていたこともあり、服のあちこちが斬り裂かれているが、致命傷になりうる攻撃は受けていないようだ。

 迫ってくるドラゴンをコロシアム付近に仕掛けておいた魔法陣から放たれた巨大な鎖で雁字搦めにし、その動きを封じる。


「これもいつまで持つやら。みんな、無事?」


「お姉さま!」


「うわ、もう!感動の再会はあと。ちょっと準備があるから、ウォーダンはコロシアムの中で待機。二人はドラゴンをコロシアム内に入れるよう誘導をお願い」


「何か策があるんだな」


「ええ、もちろんよ」


「わかった。行くぞ!」


 シャルロットはコロシアム内の階段を下り、スタッフ以外立ち入り禁止の札がかかっているドアを魔法で吹き飛ばす。後で、ドラゴンが暴れた衝撃で壊れたと誤魔化せばいいし、バレてもシャルロットには修繕費を払うだけの財力はある。壊れたドアを気に留めず、コロシアムの最深部へと入っていく。


 修繕作業を終え、保存作業に取り掛かろうとしている区域内に入り、中央にある魔法陣の中へと入っていく。


「パンフレットに近日公開予定なんて書いてあったから、調べてみたけどサマのためとはいえ、大掛かりな魔法陣よね」


 かつて賭博場も兼ねていたコロシアムでは、目に見えている勝負を大波乱にするため、もしくは実力が劣るものを勝たせるために地下に設置された魔法陣を使い、特定の一人だけを観客に気づかれずに強化させていた。要はイカサマだ。


「イカサマだろうと何だろうと、使えるものは使わないと。10に対抗するために1を10にしたのなら、10を100にすることだってできるはず。古代魔法起動!対象はウォーダン!」


 魔法陣が青白く光り輝き、地上にいる剣士のパラメーターを増大させる。傍からはわからないが、ウォーダンは自身に力がみなぎるのを感じ、これならば行けると確信する。

 そんなことを知らずに、ドラゴンが二人に誘導されて、コロシアム内に入場する。観客こそいないが、それはまるで、かつての闘技場そのものと同じ光景だ。


「さあ、来い!俺が相手だ!」


 ドラゴンが雄たけびを上げると同時に、ドラゴンが羽を羽ばたかせウォーダンの足を止めようとする。以前はじわりじわりと進むしかなかった突風も、身体強化を得ている今ではそよ風に等しい。勢いが衰えない彼を見て、慌てて右手でガードする。


「まずはその腕、切り落とさせてもらう!」


「GYAAAAA!」


 右腕が宙に舞い、今までに経験のしたことの無い痛みがドラゴンに襲い掛かる。尻尾を乱暴に振り回し、ウォーダンを下がらせると、慌てて空へと逃げようとする。だが、剣から放たれたソニックブームによって片翼が切り落とされ、地上へと墜落する。


 逃げ場を失ったドラゴンが怒り狂い、ブレスをウォーダンに向かって放とうとする。逃げる隙こそ多いが、ウォーダンの背後には民が暮らす街がある。ここで仕留めようと、ウォーダンが飛び上がる。

 隠れ兵が居たとしても、今の彼には仲間がいる。よって、不意打ちされる心配もなく、その剣を振るうことができる。


「ドラゴン・スラッシュ!」


「GYAOOOOOO!!」


 特大のブレスと巨大な剣がぶつかり合い、大気の振動によってコロシアムの外壁がガラガラと崩れていく。生き埋めになるわけにはいかないため、オリヴィアとマリアンヌは崩れてくる壁を魔法で撃ち落としていく。


 2人が必死になって魔法を撃ち終わり、観客席からその身を乗り出して、ウォーダンとドラゴンの方を見る。そこには真っ二つになったドラゴンと剣を頭上に掲げているウォーダンの姿があった。


「俺が……俺たちが、ドラゴンスレイヤーだ!」


 古のコロシアムから聞こえないはずの喝采を浴びながら、ウォーダンは勝利の雄たけびをあげる。

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