第二話:ダチョウ肉のステーキ2
腰に落とし差した刀が一閃し。駝鳥は僅かに走ってくる軌道を変えて老婆の横を通り過ぎた。
通り過ぎてから雨が降り始めたときのような音が響き始める。
遙か彼方に走り去った駝鳥の首がいつの間にか切り落とされ、その切り口からようやく血が噴き出しているのだ。
やがて、二十間ほどをひた走り、ようやく駝鳥はぱたりと横倒しになって倒れた。
「痛みは無かったはずだ」
老婆の前に出た影はそう言って、足下に落ちているものに優しく語りかけた。
「お前も怖かったろう、安らかに眠れ」
そういってかがみ込むと、影……素浪人はそう言って自分がすれ違いざまに斬り落とした駝鳥の首、その目を閉じさせてやった。
ややあって。
「だ、駝鳥様はどこだ、どこだっ!」
押っ取り刀で駝鳥牧場の方から若い役人が小物数名を引き連れて走ってきた。
まだ二十歳そこそこだというのに貧相な、疲れ果てた顔の男である。
幕臣らしく羽織には家紋ではなく、御殿場の駝鳥牧場を管轄する駱駝奉行の紋である「駝」のひと文字が染められていた。
「おおう、役人殿、どうなさった」
その頃には素浪人、すでに首無しになった駝鳥の側で羽根をむしり始めている。
「な……」
かくん、と役人の顎が落ちた。