第34話 無益の代償
…………。
……ふと、自分のいる場所が家の床でないことに気づく。
「……えっ」
あまりに突然の出来事だった。
周りの景色は自分の家から見たことも無いスラム街の地面に切り替わっていた。
「……どこ……ここ?」
暗い街並み。かすかに地面を照らす月光。
ありとあらゆるものが私を不安にさせた。
「……痛い」
不意に、景色が変わっても、自分の傷は変わっていないことに気づく。
溢れ出る血は再び地面を赤く染める。
「痛い……よお」
体にまったく力が入らなかった。
「誰か……たすけて」
「●%§■□▲◆●▼」
突然……その男は現れた。
その奇怪な笑みを持つ白髪の男は、まったく理解のできない言語を話し出す。
「たす……けて……」
「□▲%…◆●§▼■□▲%◆」
男は何かを言うと、とある薬品を取り出した。それを私の口に注ぎこんだ。
「…………」
それからしばらく経つと……。
「……うっ」
体が張り裂けるような痛みが襲った。
ただ不思議と声が出なかった。
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目を覚ますと朝になっていた。
自分の体が亜人のものになっているというのは、その時はまだ気がつかなかった。
ただ……自然と傷は治った。亜人の生命力によって。
それから、私はどうすればよいのかわからなかった。特に目的も無いし……人に近づこうにも言語がわからないため、近づけなかった。
とりあえず、街の市場で盗みを働いていた。
それしか生きる方法を知らなかった。
ただ、こんな子どもがうまく生活していけるはずもなかった。
「……ああ」
あまりの空腹に私はとうとう力尽きて、その場に倒れてしまった。
そんな時だった。……偶然通りかかったグレーという男に連れていかれたのは。
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「……あれ?」
私は病室にいた。
「よお」
「……えっ」
私の寝ていたベッドの隣に、その男は座っていた。
「気がついたみたいだな」
「…………」
私は驚いて声も出なかった。
「……ん? どうした?」
彼は私と同じ言語を喋っていたのだ。
「おら」
「……えっ?」
彼は一口サイズに切ったリンゴの乗った皿を渡してきた。
「……??」
「腹減ってんだろ。とっとと食え」
私はそれを一つ、手に取り口にする。
その瞬間だった。
「……あれ?」
口の中でリンゴから果汁が溢れるのと同時に、私の目元から熱い何かが流れてきた。
「……どう……して?」
「……ん?」
私はなぜ涙が流れ出るのかを言ったのだが、男はそれをどうして私と同じ言語を喋れるのかと勘違いをした。
「昔、お前と同じような異世界からやってきた人間と友達になったことがあってな。少しそっちの言語を教えてもらったんだよ。まあ、同じ言語で助かった。まあ、なんて言うかな」
男は優しく微笑んだ。
その笑みは……私に父のことを思い出させた。だからか、涙が止まらなくなってしまった。
「今まで、寂しかっただろう。辛かっただろう。よく耐え抜いてきた。これからは私が……いや、私たち財団が一緒だ。もう心配することは無い」
その言葉を聞いた途端、気づくと私はその男にしがみついていた。
ずっと……人の温もりというものを欲していたのだろう。
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私は財団のために……ブラック団長のために戦った。
言語だって覚えたし、財団で最強と言われるウヌクさんに鍛えてもらったりもした。
それから、私は再び私が異世界にやってきた時、最初にいたスラム街にやってきた。そこはアルジェプトと呼ばれる街だった。
「……ん?」
ふと、同じぐらいの歳の少女が小さなパンを二つほど抱えて歩いているのが見えた。
その頃はもうこの世界にやってきて何年も経っていたため、私は自信にあふれていた。
だから、気軽に人に話しかけられた。
「ちょっとあんた」
「……えっ」
水色の髪を持つ少女は突然話しかけられ、驚いているようだった。
しかし、私はそんなことはお構い無しで話し始める。
「こんなところで何をしてるの!? ……ふっふっふ、困っているなら助けてあげてもいいわ!」
「……へ?」
少女は唖然としていた。
反応が薄かったため、私はだんだん恥ずかしくなってきた。
「……いや、なんか一人でいるから……困っていることとかないかなあって……。私……暇だから……」
ぶっちゃけたところ、この街にやってきたのは本当に暇だからである。
他の財団の人間は今も任務に取り組んでいるが、私はなかなか危険な任務に参加させてもらえなかった。
というのも、団長は私のことを子ども扱いし過ぎなのである。
「んで? なんか困っていること無いの?」
「困っていること……そう言われてもなあ……」
少女は頬に指を置き、しばらく考え込んでいた。
すると、何かひらめいたかのように目を開く。
「そうだ! 今、家にもう一人いるんだけれど、その子とお話してあげて! 一人ぼっちでいさせるのもかわいそうだから」
「……えっ。そんなことでいいの?」
「うん!」
少女はパッと明るく微笑み、言う。
「私、リズ。この街では生まれた時から暮らしてるんだ」
「へえ……」
私は……なんだか妙に心が高ぶった。思えば、こんな風に同年代の人間と話すことは実に久しぶりだった。
「私はレベッカ。これからよろしくね」




