第31話 人ならざる者の救い
「……どこだ」
先ほどの少女を追って、フレインタリアの街を歩いていたアルタイルだが……人混みをさまよううちに見失ってしまった。
「……ったく」
せっかくの手がかりを失い、アルタイルは歯を噛み締める。
……その時だった。
「あ?」
建物の間の路地から、誰かが歩いているのが見えたのは。
「……なんだ?」
その人物というのは、暗くてよく見えなかったが、確かに金属で覆われた服を着ていたのはわかった。
……おそらく、鎧のような。
「…………」
アルタイルはその路地に入っていく。
薄暗い場所だったが、今度こそアルタイルは見失わないようにその人物の後を追う。
追い続けると……。
「……なんだ……ここ」
路地の先には小さな広場のようなものがあった。
水が無い噴水が中央にあるだけの質素な広場が……。
「…………?」
広場には日差しが差し込んでいて、ようやくその人物の正体が明らかになる。
「……なん……だと……」
鎧……首無しの鎧だった。
「っ!」
異様な見た目のその人物を目にし、アルタイルは警戒する。
しかし、それとは対照的に鎧にはまったく戦う気配が無かった。
鎧はアルタイルの方を向き、明らかに彼の存在に気づいているはずなのだが。
『……あなた……』
「……あ?」
鎧は喋った。首が無く……喋る口も無いのにおかしいが、とにかく声がしたのだ。
『……そうなのね』
声からして、その鎧は女性だった。彼女は一定のアクセントを保ったまま、話し続ける。
『あなたは……もう大丈夫なのね』
「…………」
その言葉を聞いて、アルタイルは黙っていた。
「……あ?」
やがて、意味がわからないという事実にやっと気づき……声を漏らす。
「なに言ってんだ?」
『……別に』
彼女は噴水に手をかざし、言う。
『知らなくて……いいこと』
「……あ?」
曖昧な返答が……余計アルタイルの気持ちを苛立たせる。
「ふざけてんのか」
『……フランチェスカ』
「……!」
突如、彼女が発したその名前が……さっきまでの苛立ちがどうでもいいと思わせるほど、アルタイルを驚かせた。
「……て……めえ」
『彼女はもう……死んでいる』
「……!」
アルタイルの理解が追いつかなかった。
『だけど……彼女が伝えたことは決して滅びない。だって、ちゃんと受け継がれているから……』
「だから……」
置いていかれている事実を、アルタイルは再び苛立ちでごまかす。
「何言ってんだ。お前は……」
『あなたは……知らなくていい。だって、もう救われているもの……』
「……は?」
その瞬間。
彼女の触れていた噴水が……形を変え、白鳥に変わる。
「なっ!」
白鳥はアルタイルに向かって飛び立つ。思わず、アルタイルは瞳を閉じ、腕を前につき出す。
しかし、その白鳥はアルタイルに何もせず、空を飛び立っていった。
そして……。
「……!」
鎧はその場から姿を消した。
まるで、幽霊のような存在の彼女はアルタイルに不可解な思いを与え……何も手がかりを与えないまま消えてしまった。
それにも関わらず……。
「……そうか」
なぜかアルタイルは納得していた。
「俺は……」
それを言いかけたが……彼は言葉に出せなかった。
言葉に出してしまったら、自分が何をすればいいのかわからなくなってしまうから……。
「……ちっ」
舌打ちをしながら、彼は再び路地に向かう。
ただその光が差し込む小さな広場が、少し美しいと……アルタイルはひそかに思っていた。
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「……あ?」
路地を抜けたあと、アルタイルは走る兵士達を目にする。
その兵士達の向かう先を彼は眺める。
「……!」
その先には、さっき見失った腕に穴の空いた少女がいた。
ガシっ。
「……きゃっ!」
気がついた時……アルタイルは目の前の兵士の一人の首を掴んでいた。
「……おい」
その兵士の兜を取る。すると、なかなかの美女だった。金髪で、緑色の瞳が特徴的だった。
見た目からして、おそらく女優になれるレベルの美女である。
鎧を着ている。つまりは美人の女騎士である。
しかし、そんなことはアルタイルにとってどうでもよかった。
「何やってるんだ?」
「えっ……ええ!?」
女兵士は動揺する。突然、任務の途中に知らない男に絡まれれば当然である。
「いや……いやいや!」
彼女は気持ちを落ち着かせようと試み、アルタイルに返答する。
「なんで、あんたみたいな見知らぬ変態に話さなくちゃいけないのよ!?」
「あ?」
変態という言葉がどうも気になったが、そんなことよりももっと重要なことを彼女に聞く。
「なんであんなガキを大人が多勢で追いかけてやがる」
「はあ!? ……あんた、もしかして知らないわけ!?」
「……は?」
アルタイルは彼女の言うアルタイルの知らないことについて疑問を抱く。
そのことを彼女は口にする。
「今、フレインタリアの東地区と南地区の人間の性別が入れ替わっちゃってるのよ。結構、混乱してるんだからね!」
「……それで?」
アルタイルは話を本筋を元に戻そうとする。
「それが、一人のガキを追うこととどう繋がるんだ?」
「……だから……」
彼女は額に手を添え、言う。
「あの子がその能力……『反転させる能力』の使い手なのよ」




