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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第29話 どんなに傷ついても……

 サクラザカは走り、メルメルのもとに向かう。


 しかし……そこにまたもや空気弾がやってくる。


「…………」


 無言でそれらをかわす。しかし……。


「……っ!」


 空気弾は方向を変えて、サクラザカの方へ向かってくる。


「……回転に保存して、向きを変えたのか」


 メルメルはさらに空気弾をサクラザカに撃ち込む。


 数が増えたそれらを、サクラザカは避けるので精一杯だった。


「……こんなものなのか? 僕」


 そう呟き、自らの左手に噛みつく。


――……考えるな。……ただ、あの少女を殺すだけ……――


「罪悪感は……捨てろ!」


 しだいに、彼の脚の黒く変色した部分は、元の色に戻る。そして、身体強化の魔法をかけ、脚を赤く染める。


「はあ!」


 氷の剣を振るい、向かってくる空気弾をかき消す。


 その光景を、メルメルはじっと見ていた。


「馬鹿だね。いくら打ち消したって、空気の弾丸ぐらいいくらでも作れるのに……」


 そう言って、さらにサクラザカのもとに空気弾を向かわせる。


 だが……。


「……っ!?」


 その空気弾を次々と避け続け、メルメルとの距離をつめてくる。


「……当たれ」


 さらにサクラザカに向けてそれを撃つも、すべて避けられる。


「当たれ!!」


「いいえ。無理です」


「っ!」


 サクラザカの瞳が赤くなり、もうメルメルの目の前まで来ていた。


「……あなたを殺す」


 そして、氷の剣を握り、メルメルに斬りかかる。


 そんな中、メルメルは思った。


――うん。知ってたよ――


 サクラザカの背後から空気弾が向かってくる。


――私自身……確かに能力を扱いきれてない。でも……――


 その空気弾は、サクラザカがメルメルを斬るよりも速くサクラザカに向かっていた。


――そのデメリットを囮にする! そして、最高の一発をお前に食らわせる!――


 その瞬間だった。


「……っ!」


 その空気弾が……別の方向から向かってきた弾丸に打ち消される。それは……氷結晶でできていた。そのため、弾丸は空気にかけられていた能力を無効化したのだ。


「……なん……で……」


 カゲロウが左手に拳銃を握りしめ、銃口を向けていた。


「まさか……」


――囮を使われたのは……私の方なの? あの赤髪の男が無抵抗だと思わせていたっていうの?――


「そんな――」


 バシュウウっ!


 サクラザカの剣が、メルメルの胸を大きく切り裂く。


「……あっ……」


 口から血を吹き出し……メルメルはその場で倒れた。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……兄……さん」


 メルメルは地面を這いずり、タクトのもとに向かう。


「兄さん……」


 そして、力の無いタクトの手を握り締める。


 そんな彼らを見て、カゲロウは傷ついた体とともにサクラザカのところへ歩いていく。


「なあ。サクラザカ」


「…………」


 しかし、サクラザカは何も喋らずにメルメルのもとに向かう。


「……サクラザカ。……まさか!」


 不意に、これから彼が何をしようとしていたのか悟ったカゲロウは急いで体を動かそうとする。


「がはっ!」


 しかし、あまりに体の損傷が激しかったからか、その場にうずくまってしまう。


 メルメルは依然として、タクトの手を握ったままだった。


「……兄さん」


 そして、メルメルはタクトが最後まで笑っていたのを思い出す。


 だから、彼女も……笑った。


「私ね。言い忘れてたけど……私も……兄さんと……一緒にいられて……幸せだったんだよ」


 握る自分の手の力が弱くなっていくのを感じるも、メルメルは喋るのをやめない。


「あの日、あの孤児院で……一緒に出会った時。二人で……悪い人たちをいっぱい捕まえて……街の人に褒められた時。任務中に私が疲れて寝ちゃって……兄さんが一晩ずっと……守ってくれた時。……二人で一緒に……アイスクリームを食べた時。何から何までが……すごく……幸せだったんだ」


 少女はだんだんと見えなくなっていく視界の中で、弱々しい声で言う。


「……兄さん。私の……兄さんになってくれて、ありがとう」


 そして……少女も瞳を閉じる。


「ずっと。……ずっと……一緒だよ。兄さん」


 その直後。


 サクラザカは氷の剣で、小さなメルメルの体を貫いた。


「…………」


 その光景を、カゲロウは見ていた。


「……は?」


 やがて……やっとカゲロウは声を漏らす。


 サクラザカに対する……怒りの声を。


「おい。サクラザカ」


「…………」


 カゲロウはただ無表情で、サクラザカを見つめる。


「……なんで……殺したんだ」


「…………」


 サクラザカは背中の翼を消し、カゲロウの問いに答える。


「……彼女はカルマを超える力を持っていた。財団のメンバーである彼女をこのまま生かせば……必ず僕らの脅威になる」


「違う。そんなことを言っているんじゃない」


 カゲロウは怒りを押さえられずに、その言葉を放つ。


「無抵抗な彼女を……どうして殺す必要があったんだって聞いたんだ。あの傷なら、まだ助けられたかもしれないんだぞ」


「……どうして? こっちが聞きたいですね」


 サクラザカは真っ黒な……まったく光のこもっていない瞳をカゲロウに向ける。


「どうして……敵である彼女を殺す必要があったんですか?」


「…………」


 カゲロウは口から血を流していた。そして、近くを飛んでいるウィンに言う。


「……ごめん」


「……カゲロウ?」


 ウィンは不安になり、カゲロウの顔を見つめる。


 その時……カゲロウのまぶたから涙が流れているのがわかった。


「俺には……こいつが何を言っているのか、わからない。……ともに……一緒に戦ってきたのに……こいつのことを親友だとも思っていたのに……こいつの考えがまったく理解できない」


「親友……ですか」


 サクラザカはカゲロウを見下ろして言う。


「勝手にそう思っていたんですか? そんな訳ないでしょうが」


「…………」


 瞬間。


 カゲロウは光線を作り出し、サクラザカに向かう。


「うあああああああああああああああああああ!」


「…………」


 しかし、同時にサクラザカも光線を作り出し、それらを打ち消す。


「……っ!」


 そして、すでにカゲロウの背後に回り込んでいた。


「あがっ!」


 サクラザカの肘がカゲロウの背中を強打する。


 それに耐え、サクラザカに殴りかかるが……。


「……うげっ!」


 さらに腹を蹴り飛ばされ、その場に座り込んでしまう。


 そんなカゲロウの髪をつかみ、サクラザカは言う。


「……僕は……唯一魔法の火力だけが足りていなかった」


「……っ!」


「だから……どうしても魔法に詳しい人間に仲間になってもらいたかったんだ。だから、君を誘った」


 サクラザカの瞳にはやはり光が無く、冷徹な言葉をカゲロウに放つ。


「でも、今はどう? 君の魔素吸収レベルは150。対して、僕が吸血鬼になれば、レベルは200を超える。つまりだよ」


 カゲロウは、サクラザカが何を言いたいのか理解した。そして、もう何も考えずにただ地面を見つめていた。


「もう君はいらない。ユニギリムに帰っていいよ」


「…………」


 カゲロウは自分の髪をつかむその腕をはね飛ばし、言う。


「……そうさせてもらう」


「…………」


 その言葉を聞くと、サクラザカは振り向き、カゲロウから離れていく。


 その後を着いていくウィンは、どうすればいいのかわからない表情でカゲロウとサクラザカを交互に見る。


 そうして、サクラザカとウィンはカゲロウから離れていった。


 その後ろ姿を見ていたカゲロウは……。


「……サクラザカ。……ウィン」


 先ほどよりも……より涙を流していた。


「……ジェナ。……コハル」


 そして、地面に向かって彼は絶叫した。

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