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異世界の執行人  作者: Kyou
第4章 どんなに傷ついても……
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第28話 『運命転換』

「……メルメル」


 その名前を……大好きな人が呼んでくれただけで、嬉しかった。


 一緒に手を繋いでくれただけでも、幸せだった。


 私を幸せに導いてくれた兄さんが……私は大好きだった。


「おい……糞……ガキ」


「……兄……さん」


 兄さんは体にいくつも穴を空けながらも、笑っていた。


「しっかり……しろよ。それでも……俺の……妹か」


「兄さん! 早く! 亜人になったなら、回復魔法を!」


「……無理……だ」


 青い魔素は、兄さんのところにやってこなかった。


「俺の……体が……終わりに近づいている……んだ」


「……そんな」


 そんな現実を私は受け入れたくなかった。


「嫌だよ! なんで、兄さんが死ななくちゃいけないの!? 兄さんがいなくなったら……私は」


「まったく……今日は……よく喋るじゃねえか」


「兄さんこそ! 今日、喋らなすぎだよ!」


「……ははっ。……そう……かもな」


 兄さんは……依然として笑みを崩さなかった。


「俺はな……メルメル」


「…………」


「ずっと……寂しかったんだ。……家族を失ってから、ずっと……」


「何を……」


 兄さんはただ、私の手を握る。


「……一人で頑張って……一人で任務をこなして……それで……強くなって……気づいたんだ。俺は……どんなに強くなったとしても……守るものが無かったんだって。だから……強くなっても、まったく……嬉しくなくなったんだ。でもさ……」


「…………」


「お前に会ってから……変わり始めたんだ。それまでの糞みたいな人生は……お前と出会うまでの過程でしか無かったんだって……思えちまった」


「……どうして……それを今言うの?」


 兄さんは私の手を握る力を強め、言う。


「お前は……俺とは違う。本当は何の罪も無いんだ。人を殺したことだって……それしか方法を知らなかったんだ」


「違う! 違うよ!」


 私は、ありのまま自分の本性をぶちまける。


「私は……自分勝手だった。自分が生き残りたいがために友達をいっぱい殺した! 私は最低なんだよ!」


「くくっ……それがわかってりゃ……上出来だ。馬鹿」


「……どういう……こと?」


「俺は……自分のために、グロウブを殺しちまった。最後まで、最低なままだったんだ。……がはっ! がはっ!」


 兄さんは、その場に血を吐き出し、言う。


「でもよ。……メルメル。お前は俺とは違って……無限大の可能性を秘めてる。俺さ……嬉しかったんだ。そんなやつの兄として、生きれたことがすごく……誇りになったんだ」


 彼は……初めて、私の前で涙を流した。


「だからさ……メルメル」


「……兄……さん」


「ありがとう。俺の……妹になってくれて……」


 彼は満面の笑みをむけたまま、瞳を閉じる。


「…………」


 私はしばらく兄さんの顔を見つめていた。


「……兄さん?」


 呼びかけてみるが、兄さんからはまったく反応が無かった。


「兄さん!!」


 怖くなった。


 驚きが隠せなかった。


 冷静さを保てなかった。


「兄さん!! お願いだよ! 起きて!」


 ……ああ。神様。


 どうして、こんなにも優しい人をこの世から奪ってしまうの? どうして、こんなにも優しい人が……辛い人生を過ごさなければならないの?


「……違う」


 ……私は神を呪った。


「……こんなのは正しい運命なんかじゃない!」


 もしも……。


「もしも、そんなものが運命なら! そんな運命、私がぶち壊してやる! それで……兄さんを助ける!!」



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……なんだ?」


 サクラザカとカゲロウが言い争っていると……メルメルとタクトの方から、何か光が発していた。


「なあ。サクラザカ。……これってなんだ?」


「……わかりません」


 そこには、天使のような光輪が頭の上に浮かんでいるメルメルがいた。


「ただ……彼女の体には少し違和感がありました」


「それは……俺も感じていた」


 カゲロウは言う。


「……魔素吸収レベルが0。つまりは()()()()()だ。だが……この世界出身で純粋な人間だなんて……確率的にあり得ないぞ」


「ええ。ですが、そのほぼあり得ない存在が彼女なのでしょう」


 まさに奇跡の子。そういった表現が正しいのだろう。


 純粋な人間……ということは、強力な特殊能力を持つ可能性が高いはずである。


 しかし……。


「なんですか……これは」


 強力な特殊能力……という考えでは、表現のしようがないほど凄まじいオーラがメルメルから溢れ出ていた。


 彼女の被っていた帽子が飛んでいく。


 そこからは長く、薄い桃色の髪が露になった。


「……あなたたちの名前」


「……?」


「確か……サクラザカとカゲロウ……だったっけ』


 少女はじっと彼らを見つめながら言う。


「よくも……私の大切な人を傷つけたな。糞野郎ども」


 瞬間。


 バギイインっ!


 サクラザカは何が起こったのか、わからなかった。


「……カゲロウ?」


 ついさっきまで横にいたはずのカゲロウが、すでにその場にいなかった。


 そして、サクラザカは後ろを向く。


「……っ!」


 そこには、既に攻撃を受けていて、遠くに吹き飛ばされていたカゲロウがいた。


「……何……が!?」


 サクラザカの理解はいまだに追いつかない。


 メルメルの能力は動いている物体を『回転に保存する能力』。ただそれだけしかないはずだった。


 すると……メルメルは先ほど、サクラザカが彼女の体につけた人形を取り出す。


「……がはっ!」


 その人形はその場から消え、代わりに傷だらけのカゲロウがそこにいた。


「……なん……だって……」


 完全にカゲロウの特殊能力は、カゲロウの制御から離れていた。


 ふと、サクラザカは直感で、すぐにメルメルを殺さなければいけないことを感じ取る。


「……っ!」


 しかし……脚がまったく動かなかった。


「……これは!」


 脚が真っ黒に変色していた。サクラザカ自身、能力を発動する気はまったく無かった。


「まさか……能力を暴走させているのか。この少女は!」


 サクラザカは左手に噛みつき、メルメルの様子を伺う。


 その次の瞬間だった。


「……っ!」


 空気が……弾丸の如くサクラザカの方向に向かっていたのだ。


「この空気弾……タクトさんの能力か」


 しかし、それは一発では無かった。


 複数の空気弾がサクラザカの方に向かっていた。


「ちっ!」


 サクラザカはそれらから距離を取り、走る。


 一気に向かい、落ちていた氷の剣を拾い上げる。


「はあ!」


 その剣をそれら空気弾に向かって振るう。すると、その空気弾はすべて消えた。


「……これなら行ける」


 サクラザカは剣を片手に握り、メルメルのもとに向かう。


 ……だが。


「うっ!」


 メルメルに近づくと、さらに脚が重くなった。


 サクラザカは身動きが取れなくなってしまう。


「……これ……いらない」


 そんな彼にメルメルは掴んでいたカゲロウの体を投げる。それにはタクトの能力がかけられていて、勢いが凄まじかった。


「うぐっ……」


 サクラザカとカゲロウはともに地面にぶつかりながら、吹き飛ばされる。


 そして、二人して地面に倒れ込む。


「……くっ……そっ」


 サクラザカは再び立ち上がり、メルメルに向かって走ろうとする。


 しかし……。


「……『極限(きょくげん)輪廻(りんね)』!」


 少女がそう言うと、サクラザカの体が黒く変色するのがわかった。


 『極限輪廻』……おそらく、それは能力を暴走させる能力。


「……まさか、これがファーストさんの言っていた……カルマの先……」


 サクラザカは焦った。


 もしも、それが本当だとしたら、このまま戦い続ければ間違いなくサクラザカたちに勝機が無いからだ。


「……くっ!」


 サクラザカはダメ元でいくつもの光線をメルメルに向かわせた。


 もちろん、それらの光線はメルメルが暴走させたタクトの能力でかき消されてしまう。


 もう……メルメルに対してなす術は無い。


 ……そう思っていた時だった。


 パシュっ。


「……っ!」


 その光線の一つがメルメルの頬をかすったのは。


「…………」


 サクラザカはその光景を思い出し、考える。


 考えた末に、ある結論を導き出す。


――彼女自身……まだ能力を扱いきれていない――


 それを思いついた後の行動は早かった。


「ウィンさん」


 そう呼ぶと、そのひよこは羽をパタパタ羽ばたかせながら出てくる。


「どうしたんだ? サクラザカ」


 そう問いかける彼に、サクラザカは小さなシールドを作り、渡す。


 同時に……ウィンの体に赤い魔素を集め、身体強化をする。


「サクラザカ。これで何を……」


「……このシールドを使って、カゲロウに飛んでくる攻撃を防いでおいてください」


「だが……お前は……」


「僕は大丈夫です」


 サクラザカは自らの左手に噛みつき言う。


「絶対に……彼女を殺します」

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