第27話 惑う少女、指し示す彼
私は……とある孤児院で引き取られた。
そこで、私のような子どもは皆魔法を習っていた。でも……どうも私には才能が無いみたいで……魔法はまったく使えなかった。
だから……それ以外の技術……主に剣術や射撃術を磨いて、みんなの役に立とうと思った。
だけれど……その努力があんなことに役立つとは思わなかった。
「……パパ?」
孤児院の院長……すなわち、私の父親は同い年の亜人である子どもを殺していたのだ。
それも、特別な臓器などを売るために……。
彼は……私に言った。
「メルメル。お前は利口だから、わかるよな。お前のようにここの真実を知った人間はみんな殺されていることに……。俺だって、上の連中にバレたら始末される」
彼は醜く笑いながら言った。
「だから……私の言うことを聞け」
それから……亜人の肉体の解体や、逃亡した子どもの殺害。
ありとあらゆることに協力した。
怖かったのだ。逆らって、殺されるのが。
「…………」
何も知らない子どもは臓器売買のために殺されるか、それとも奴隷として売られるか。
はたまた、その事実を知ってしまった子どもも、私に殺される他無かった。もともと技術のあった私にとった、その子どもたちを殺すことは容易なことだった。
一番仲が良かった子どもには何て言われただろうか。
……裏切り者。そう……裏切り者と言われた。
言われてしかたがなかった。実際、私は他の子どもを裏切った最低な人間なのだから。
その子は能力と体術を応用して、壁に叩きつけて殺した。今でも、その血が残っているのが嫌になる。
それから数年経った時のことだった。
どうやら孤児院での違法が世間に広まっているらしかった。だから……残った子どもも殺さなければならなかった。
もう……何も感じなかった。
殺すということが、嫌になるのを通り越してすでに何も思わなくなった。
感情というものも、その時の私には無くなっていた。
……すべての子どもを殺した後、父親のところへ向かった。
カチャリっ。
出会って最初に聞いた音は、自分に向けられた銃からのものだった。
……それから……何があったのか、よく覚えていない。
気がつくと、そこには原型を留めていない父親の姿があった。
自分がナイフやノコギリなどの刃物を大量に所持していることから、それは明白だった。
もう……どうでもいい。
すべてが嫌になって、私はその場で座った。
壊れた建物の天井から、まんまるで綺麗な月が登っているのが見えた。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
「おい、糞ガキ」
「…………」
「おい……」
バヂンっ!
私の額がその人の指で弾かれる。
「てめえ、聞きたいことがある」
……この人は誰だろうか。今まで会ったことの無い雰囲気だった。
「ここで何があった? 知ってることは全部話せ。ああ……そうだな。まずは、この男を殺したやつを教えろ?」
「…………」
帝国の人間だろうか。だと、すればきっと私が逆らったと知れば、殺してくれる。
やっと……楽になれる。
「……私」
「…………」
その人はしばらく黙っていた。
「……は?」
やがて、私の言ったことを理解したようで、喋りだす。
「おいおい。いくらなんでも、ついていい嘘と悪い嘘が……」
……そうか。
信じられないんだ。私みたいな子どもが殺したなんて……。
そんな彼はとても優しい人だな……と思った。だから……私のことを話した。
同時に、血で染まった赤い手も見せた。
「……っ!?」
それを見て、ようやく彼は私が殺したと理解した。
これで……やっと私を殺してくれる。
そう思ったのに……彼は私から距離を取った。
「どうして、逃げるの?」
そう問いかけると……。
「人殺しを相手にして、逃げずに近づくほど、お兄さんはお人好しじゃねえんだよ」
……つくづく優しい人なんだな、と思った。
ここまで聞いて、まだ私を生かそうとする選択肢が残っている。……それだけでも、彼の優しさが凄まじいものだと理解できた。
彼は迷っているようだった。自分を殺すか否を。
そんな彼の表情を、私は見たことがあった。
どこで?
「…………」
……ああ。あの時か……。
その時……私はしくじった。親友を殺さなければならないのに、地面に押し倒されてしまった。
その親友は拳銃を私に向けていた。
しかし……その拳銃から、弾丸が発せられることは無かった。
迷っていたんだ。私を殺すのを。
その一瞬の迷いを突いて、私はその人を壁に叩きつけ、頭蓋骨を割った。
「…………」
そんなことを思い出して、目の前のお兄さんに対して、殺すよう要求した。
武器も全部捨てた。あとは、殺されるのを待つだけ……。
ドゴオオオオンっ!
「……?」
ふと、空から光が落ちてきた。その光は私のもとに落ちてくる。
「…………」
私は誰かを殺すことにまったく躊躇しなかった。それなのに……生き残ってしまった。
優しい……優しい人間の犠牲の上に、私は存在しているのだと知った。こんな最低な私が……。
「……ああ」
……そうだ。あの時、死ぬのはその親友じゃなかった。
私だったのだ。
「……お前っ!」
「……えっ」
その光よりも速く、私のもとに飛び込んでくる人がいた。
その人は私を抱えて、建物の陰に飛び込んだ。
「おい! 死にてえのか!」
「……!? ……!???」
訳がわからなかった。
どうして、こんな私をこの人は助けたのだろうか。
「私、ここで死ななくちゃいけないのに」
「知るかよ。てめえの価値観なんか……」
お兄さんは私に背を向けて言う。その膝が私を抱えて飛び込んだ時に、擦りむいていたのがわかった。
「俺が嫌なんだよ! 目の前で人が死ぬのは……。だから、お前は死なせねえ。かといって、俺も死なねえ。二人で生き残るんだよ。糞が」
「……二人で……生き残る?」
そんな選択肢に……私は出会ったことは無かった。
いや……あったのに、見過ごしていたのだ。
あの時……その親友の中には、確かにその考えがあった。
「……ああ」
……そうか。
最善は……二人で逃げることだったのか。
こんな簡単な答えを……ずっと私は見落としていたのか。




