第5話 隣の美少女
ちょっと待て!
俺はこの状況の危険さを感じた。
「…………」
隣で寝ているサクラザカの顔を見る。
「…………可愛い」
ゴンっ!
俺は膝に自分の頭をぶつける。
何考えてやがる! こいつはもともと男だぞ!
「……落ち着け。俺。ひとまず自分の体で我慢しろ」
モミュ……。
モミュ……モミュ……。
……なんか……自分の体なのに、罪悪感がある。
何か……何か別の物はないのか!?
「あっ……」
俺の頭の中で、ある物が浮かんだ。
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「……ん?」
突然、隣からの物音でサクラザカは目を覚ます。
「カゲロウ。どうかしたのですか?」
ブツブツ……
「……カゲロウ?」
「……黄色いパンツが23枚……黄色いパンツが24枚……」
「…………おやすみなさい……」
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「ねえ? ジェナはどう感じているんですか?」
「え? 何が?」
ベッドでふとんに潜りながらコハルはジェナに問いかける。
「男の体になってですよ。どう考えているんですか?」
「まあ……なんだか落ち着かないけど、特に考えたりしないなあ」
「見たり触ったりはしないんですか?」
「え?」
「おりゃっ!」
突然、コハルがジェナの体にしがみつく。
「えっ! 何するの!?」
「憧れのサクラザカさんの体が……同じような形なんですよ? この機会を逃していいんですか?」
「それは……その……」
ジェナは顔が赤くなり、恥ずかしくなる。
すると、コハルはジェナの服を少しずつ脱がしていった。
「ちょっと! 何をやって!」
「さあ! まだまだ夜は長いですよ!」
「ひっ……ぎやああああああああああああああああああ」
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結局、昨日は一睡もできなかった。だが、俺がサクラザカを襲うことは無かった。
「ありがとう、ベル。俺に力をくれて……」
すると、ジェナが同じように隈を見せながら、こちらにやってくる。
「……カゲロウさん……」
「……どうした?」
「……人間って……何でしょうね……」
「何があった?」
サクラザカとコハルは普通にこちらにやってくる。こいつらは幸せそうだなあ。
皆が揃ったところでサクラザカは宿を出ようとする。
「さて……そろそろ行きましょうか」
「ちょっと待ってください!」
ジェナは俺たちをにらみつける。
「どうして、サクラザカさんもカゲロウさんも髪がボサボサなままなんですか!?」
「あ?」
そりゃあ、男だからなあ。……あっ、今は女か……。
「悪いですけど、そういうところは注意してくださいよ!」
「注意すると言っても、僕らは女性というのがあまりわかりませんし……」
「……んん。まあ、私も自分に合うと思うファッションぐらいしか知らないんですが……」
そこで、ジェナは閃いたかのように言う。
「じゃあ、美容院に行きましょう!」
「…………え?」
俺とサクラザカは困惑していた。なんせ、美容院など行ったことが無い。
しかし、サクラザカは考えた末に、言葉を放つ。
「……確かに、こういった状況で身だしなみを整えないのは、逆に注目を集め、敵に見つかりやすくなってしまうかもしれませんね」
「……仕方ねえか」
俺もサクラザカの考えに賛成だった。
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私たちはサクラザカさんとカゲロウさんが来るまで、ベンチで待っていた。
すると、横にキャスケット帽を被った幼い少年が座ってきた。その手にはソフトクリームを持っていた。
「……ソフトクリーム、好きなの?」
「……うん……」
きっとこの子も、もとは女の子だったのだろう。その子が私たちに質問する。
「二人とも……もともと……女?」
「え? なぜボクが今、男だと勘違いされてるか、質問していいですか?」
コハルちゃんが眉間にシワを寄せながら、問いかけている。ちょっと怖い。
「もしかして、あなたも誰かと一緒にここの美容院に来たの?」
「……うん……」
少女は目を細めながら、呆れたように言う。
「……兄さん……おしゃれとか……しないって……。……なんていうか……デリカシー……無さすぎる」
「ああ。なんかわかる……」
同じような方々がうちにもいる。
「……それでも……私のたった一人の……兄さん……」
「お兄さんのことが大好きなんだね」
「……うん……」
すると、髪にサングラスをかけた綺麗な女性がやってきた。
「おい。メルメル。終わったぞ」
「……うん……兄さん……」
女性はこちらに気づく。
「俺の妹が世話になったな。何か迷惑はかけてねえか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「……そうか?」
その女性は歩き出す。話していた子はその女性に着いていく。
「バイバイ……お姉ちゃんたち……」
「うん。バイバイ」
私たちはその子に手を振る。
「……あれ?」
その時、私の頭の中である疑問が浮かんできた。
「……メルメルって名前、どこかで聞いたことがあったような……」
「どうかしましたか? ジェナ」
コハルちゃんの問いかけは何か心配そうな雰囲気を含んでいた。
「ううん。大丈夫だよ。少し考え事をしてただけ。それより、そろそろサクラザカさんたち来るんじゃないかな」
「……そうですね。少し様子を見に行きましょうか」
私たちは美容院の中に入っていった。




