第6話 幻影が街を包み込む
「…………」
すっかり髪や身なりを整えられてしまい、俺は本当に自分が女にしか見えなかった。
「どうしましたか? カゲロウ?」
サクラザカは後ろの髪が結わせてあり、めちゃくちゃ美人だった。
ありがとうございます。
ゴツンっ
俺は壁に頭を打ち付ける。
「……本当に大丈夫ですか?」
頭がおかしくなってきた。
俺は自分の姿を鏡で確認する。髪止めでまとめられた前髪が可愛かった!
ゴツンっ
俺は再び頭を壁に打ち付ける。それが俺の正気を保つ唯一の方法だった。
「あっ! サクラザカさんたち!」
ジェナとコハルがやってくる。
「ずいぶんと様子が変わりましたね。さすがは美容院です」
「……そうだな」
能力を受けた時に服も同時に変わっていたのだが、さすがに顔とかは手入れが必要だ。
だが、なんだか逆に目立つような……。
すると、ニヤニヤ笑みを浮かべこちらを見つめるコハルがいた。
「男なのに結構女らしくなっちゃったじゃないですか? カゲロウさん」
「少なくとも、お前よりは女らしい自信があるぞ」
コハルが俺の頭をつかんで握り潰そうとしている。
痛い痛い……。
「さて……では、そろそろ街を回りましょうか。あの鎧と、その能力者をなるべく早く見つけないと……」
俺たちはサクラザカの指示に従う。なんだかんだ言って、そこを抑えなければ手がかりはゼロのままだ。
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「……兄さん?」
タクトの横をメルメルは心配そうに歩く。やがて、タクトは後ろに着いてくる人物に気づく。
「……少し隠れてろ」
「……?」
言われるとおり、メルメルは街灯の陰に隠れる。
タクトは小石を持ち、息を整える。そして、精神を落ち着かせると、小石を投げつける。
能力が与えられた小石はいとも簡単に建物の壁や街灯を破壊する。
「……急に危ないですね」
その空間の中からいきなりその女は現れた。その女性は茶色と黒が混ざった長い髪を持っていた。
「てめえ。もとから女だよな? 街の外からわざわざやってきたってところか?」
「……フフフッ」
「……あ?」
その瞬間だった。
ドゴっ!
「がはっ!」
腹に衝撃が走る。
いつの間にか、その女はタクトの目の前に移動し腹に蹴りを入れていた。
「くっ! これは!」
タクトは再び距離を取る。腹の痛みが抜けずに口から血が出てくる。
「…………てめえ。まさか、帝国の騎士団か?」
「そうです。私は帝国騎士団メンバーのアデルです。どうぞよろしくお願いします」
「帝国が一体俺ら財団に何の用だ? 殺されるような問題行動をしているようには思えねえんだが?」
タクトがアデルにその質問をすると、アデルはニヤリと笑みを浮かべながら答える。
「そうですね。言うなれば、あなた方が裏で麻薬のルートを潰しているとか……ですかね?」
「麻薬だあ?」
確かに財団は帝国の許可を取らずに麻薬の取引を潰す役割を担っている。
それがなぜ帝国側に不利益になるのか?
答えは簡単だ。
「麻薬中毒者は我々帝国の重要な資金源なんですよ。勝手に数を減らされたら困ります」
帝都以外の街はだいたい麻薬が出回っている。これには簡単に帝国が管理をしやすくするために、マトモな社会を作らせないという目的もある。
「……つまり、俺たちに麻薬により崩壊する家族を見捨てろと?」
「はい。理解が早くて助かります」
――理解が早くて助かる……か――
――ちげえよ。どいつもこいつも同じことばかり言いやがって……――
「やっぱりなあ。てめえら帝国騎士団はてめえら自身のことしか考えていねえ。そんな奴らに話し合いなんて通用しねえ」
タクトは深呼吸をし、アデルを睨む。
「だがよお。話し合いはできなくてもせめて殺し合いぐらいはできてくれよなあ?」
「……なんですって?」
タクトはメルメルと目を合わせ、意思を伝える。
そして、地面を蹴り飛ばし一気に女の前まで近寄る。
「おらあっ!」
タクトの蹴りが女に炸裂した。
そのように思えた。
「……あ?」
突然、その女は後ろに回り込んでいた。
「なっ!」
ドグっ!
タクトは背中を思いっきり蹴り飛ばされる。そして、弾き飛ばされた位置にまたあの女がいるのに気づく。
「くっ!」
タクトは自らに能力をかけ、別の方向に自分の体を移動させることでその攻撃を回避する。
「兄さん!」
メルメルはその女に斬りかかる。だが、女は一瞬で剣を出現させ、その攻撃を防ぐ。
攻撃を防がれたメルメルは俺の近くまで戻ってくる。
「……おかしい……」
「マジでそうだな」
「……普通……能力……簡単にわかる。なのに……まったく……読めない」
その女は明らかに群を抜いて強い能力を扱っている。……そのはずなのだ。
「だが、何か秘密があるはずだ。弱点だってある」
その弱点とは何か?
「……兄さん……どうする? いったん……距離……取って、再度……奇襲……しかける?」
「何言ってんだ?」
タクトはメルメルの頭を撫で、女の方に向かう。
「戦って、能力を暴いて、叩き潰す。ただそれだけだ」
「……りょーかい……」
メルメルはタクトの向かう方向とは垂直の向きへ走り出す。メルメルは建物の陰に隠れた。
「おらあっ!」
「フフっ」
タクトの蹴りを女は避けていく。そして、その避けた先にメルメルが斬りかかる。
「甘いわね。お嬢ちゃん」
「……!?」
女はメルメルの後ろを取っていた。それも突然のことだった。
「これで終わりよ!」
だが……。
「……ちっ……」
タクトが蹴った小石が女の方向に飛んでいく。女はそれを避け、タクトたちから離れる。
「大丈夫か? メルメル」
「……うん。なんとか……」
タクトはメルメルが無事だとわかると、ひとまず安心した。
「だが……肝心の能力がいまだにわからねえな」
「……それでも……私たちは……戦い続ける」
「ククっ。……だな!」
タクトは笑みを見せながら、女をにらみつける。
「勝負はこっからだ!」




