第11話 少年は歩く
あの遺跡での戦いが終わってから、4日が経った。俺が……アルタイルがこの村に戻ってから、一週間といったところだ。
改めて集会所に向かうと、建物の前で何かをやっている。
「いやあ。やっぱりパメラちゃんはよく働くねえ」
「そんなこと無いですよお」
どうやら、依頼を大量にこなしたため、村長から表彰をされているようだ。あのサソリ女はだいぶこの村に慣れているようだった。
その裏を通り、俺は建物の扉に向かう。
ガチャっ
「あ?」
なにやら受付の前が騒がしい。そこには青と白のメッシュの髪を持つ女がいた。
バンッ!
その女が受付の壁を手で叩き、訴える。
「どうして! どうしてこの村に仕事が無いのよ! 他の村だったら、ちゃんと依頼状の一枚や二枚あるっていうのに!」
「はあ……。残念ですが、今は依頼がまったく無いんです。諦めて、どこか就職先でも見つけますか?」
「それは嫌だ」
「は?」
あの受付嬢が面倒くさくしている。どうやら、なかなかしつこい客らしい。
「おい」
「ん?」
俺はその女に声をかける。
「金を使って何をしたいんだ?」
「ああ。大したことじゃないんだけどね。友達のアリアちゃんって子にこの村でのお土産を買ってあげようかと思って……」
「はあ……。そんなに高い物は買わないんだろ……」
それを聞くと俺はポケットに入れてある札束を取り出す。
「いいの?」
「ああ。次会った時にでも返しに来い」
「ありがとう!」
その女は札束を握り締めながら、集会所を出ていく。
受付は俺に話しかける。
「……いいんですか? ただでさえ少ないお金を……」
「あ? どうせあんまり使わねえしな……」
「……そうですか……。まあ、無くなったら助けてあげますよ」
「……ああ。たぶんそんな時は無いけどな……」
俺は受付に笑みを送る。
「……なんていうか。アルタイルさん。笑うことが多くなりましたね」
「まあな。そんなもんだろ。それじゃあな」
俺は適当に返事をすると、集会所を出ていく。
そういえば、あの女……アリアって名前を口にしてたな。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
俺は改めて遺跡を調べに行った。まあ、あまり目立った物は無かったが、やはり昨日のあいつの言ったことが気になった。
「……『ゼロズ』……異世界の人間……。結局、これがわかったところで、どうなるんだか……」
俺のような異世界から来た人間は、ゼロズなんて呼ばれていなかった。単純に知られていないだけかも知らないが、俺とあいつらは違いがあるのかも知れない。
ところで、あいつは特殊能力についてはほとんど話さなかった。それについてはまた別の出来事が絡んでくるのだろうか。
そんなことを考えながら、遺跡の外へ出る。
バタッ。
「…………あ?」
近くで誰かが倒れる音がした。俺は音の方向へ向かう。
「……なんだ? こいつは……」
そこには頭に皿をつけた少年がいた。
「……が……水…………くだ……さい」
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
「いやあ。助かったのです。本当にアルタイルさんには感謝しなくては……」
どうやら、こいつはカッパの亜人らしく、頭の皿が乾いて倒れていたらしい。
一度集会所に連れていき、水をかけると、さっきまで倒れていたのが嘘のように元気になった。
「ははっ。申し遅れたのです。私はジローといいます。以後お見知り置きを……。あっ、これどうぞ読んでください」
そいつは新聞を差し出してくる。俺はそれを受け取る。
「いやあ。実は私は商人をしていて、砂漠を渡ってフレインタリアまで行こうとしてたら、水が無くなってしまって……。それでたどり着いたのがこの村だったのですよ」
「商人ねえ」
あのメッシュの女にも共通することだが、この村に他の人間が来ることはあまり良いこととは言えない。
この村自体、見つかってほしくはないのだ。
だが、ジローの様子を見る限り、その心配は無さそうだ。こいつは言えば、きっと村のことは秘密にしてくれる。
「なあ。ジロー。外の街はどんな様子なんだ?」
「はい? 外の街ですか?」
これは俺の勝手な事情だが、フランチェスカという名前の女は見つけたいと考えている。だから、外の街のことも把握しておきたい。
「そうですね……。では、私と行ってみませんか?」
「お前と? フレインタリアにか?」
「はい。実際、私も今のフレインタリアがどうなっているかはわからないんです。だから、一緒に行くのが一番良いと思ったのですが……」
確かにこいつの言っていることはもっともだ。だが、俺がいなくなった時、ベガやこの村の人間に危険があったらまずい。
そんな時、集会所の扉からエリンが入ってくる。
「いいんじゃない」
「……お前」
「外の様子に興味があるんでしょ? なら行ってくればいいじゃない」
「……だが」
「村のことなら、私に任せてちょうだい。あなたはあなたのやりたいことをやりなさい」
俺は考え込む。考えた末に結論を出す。
「……任せていいのか?」
「ええ。もちろんよ」
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
俺とジローは砂漠を歩いている。そんな時、後ろから声が聞こえてきた。
「待ってよお!」
「ベガ。なんで来てんだ?」
ベガは笑顔でこちらを見ながら、言う。
「私だってアルタイルの役に立ちたいんだよ!」
「…………」
俺はこいつを連れていきたくなかった。こいつは帝国に特に狙われている存在だ。フレインタリアは監視が厳しいし、見つかった時、うまく対処できるだろうか……。
「……ああ! くそっ!」
こいつにそれを伝える勇気が無かった。俺は問題を自分の中にしまいこんでしまった。
「わかった。連れてってやるよ」
「本当! やった!」
そいつは俺に着いてくる。そんな俺にジローは話しかける。
「良かったんですか? 連れてって……」
「……ああ」
ベガだってずっとあの村にいるのは退屈していたのだろう。それに……。
「何かあっても、俺がこいつを守る。それが俺のやるべきことだ」
砂漠の空気が皮膚を焼く。
同時に俺の闘志も熱く燃やした。




