第7話 確立していく存在
…………。
…………。
…………は?
気がつくと、そこは暗い場所だった。
「なんだ……。ここは……」
ふと、俺は今までのことを思い出す。
「確か……あの男に心臓を貫かれたんじゃ……。なんでこんなところにいるんだ?」
俺は歩き続けた。だが、進んでいる感覚がしない。それどころか、逆に遠ざかっているような……。
「…………ごめんね……」
「ああ?」
その時、誰かの声が聞こえた。その声がどこから聞こえたかはわからなかった。
「誰か……いるのか……?」
「……うう…………」
そいつは声からして、泣いているようだった。
ポタッ……ポタッ……。
「……あ?」
俺は自分の顔を触る。すると、水滴がついているのに気づく。
「なんで……俺も泣いているんだ?」
「それは…………君が僕だからだよ」
「……お前は……俺……?」
その問いかけにそいつは答える。
「僕はアルタイル……君もアルタイルさ。……でも、君は*****でもある」
「…………は?」
その名前を俺は聞いたことがあった。なぜ、聞いたことがあったのか。
俺にはそれがわからなかった。
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*****は、小さい頃に両親を亡くした。
そのため、遠い親戚のもとで暮らすことになった。両親や歳が近い兄弟もいる。それは彼にとって、理想の暮らしだった。
彼は新しくできた両親に認められるように努力した。勉強や運動などさまざまな分野で力をつけていった。
だが、その両親が彼をほめることなど無かった。当時の彼はそこまで何もできない人間ではなく、むしろ努力の結果多くの面で素質があった。
彼はやがて、自分が認められないのは一番になれていないのが原因だと考えた。だから……彼は努力をやめなかった。どれだけ苦しくても、人に認められたかったのだ。
それから彼は優秀な高校に通い、充実した生活を送っていた。ただ優秀すぎるがゆえに、恋人や友人は一人もいなかった。
それでも彼は良かった。自分が努力をして、強くなって両親に認められるならそれで良かったのだ。
ある日、その両親に呼び出された。普段はあまり会話をしてくれない彼らだが、それでも話してくれるだけ嬉しかった。
「どうしたの? 母さん。父さん。俺に何か用?」
すると、母親はある部屋を指さし言った。
「あの子に勉強を教えてあげてくれない? 最近、成績があまり良くないの……」
あの子……というのは、両親の本当の息子。つまり、彼の兄弟にあたる人物だった。
彼は自分について話さないことに少し落ち込んだが、それでもお願いをされるのは嬉しかった。
それから、彼はその兄弟に勉強を教えた。兄弟の態度はひどいものだったが、それでも両親のお願いだったからか、彼は耐えられた。
その後、彼は再び両親に呼び出される。
「ねえ。あなたが教えたあの子の成績だけど……」
「うん。どうだった?」
「全然伸びてないわよ。あなた、本当にちゃんと教えてるの?」
「え?」
そんなことは無いはずだ。だって教えてるの時は、しっかりできていたはずだ。
「あなたの教え方が悪いから、あの子が苦しむことになるんでしょ。どうしてちゃんと教えてあげないの? 学校の先生からは行ける大学が無いって言われているのよ! 早くどうにかしないと……」
「なんで……」
――……なんで、俺が怒られているんだ――
「あなたは少し成績が良いからって調子に乗ってるんじゃないの? そんなことしないで、さっさとあの子を頭良くしてよ! なんで周りも見てあげないの? どうして自分だけ良い思いをしようとしてるの?」
――なんで……どうして……俺は認められたくて頑張ったのに……――
その時、彼は悟った。母親は兄弟のことしか見ていないと……。きっと父親も、彼のことに興味など無いと……。
彼は耐えきれずに外へ飛び出した。ただひたすらに走り続けた。
どれだけ努力しても、どれだけ力をつけても……。
無駄だったのだ。
誰も彼のことなど見てくれないのだ。
「あああああああああああああああああああああああああ!」
彼は発狂した。そして、暗闇の中へ消えていった。
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道を歩いた先に……白髪の女性がいた。彼女は目から血を流していたが、こちらに気づいていた。
「あなた……どこの子? お母さんとお父さんは?」
自分は首を横に振った。
「……わからない……か……。行くところが無いの?」
「…………うん」
そう言うと、その女性は微笑み、手を差し出す。
「……じゃあ、一緒に行こう」
そのまま、手を引かれていく。
その人はまるで母さんのような存在だった。
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「……クククッ。……今も昔も……やってることは変わらねえのか……」
思えば、どうして最強を目指しているのか、俺にはわからなかった。
きっと、いまだに誰かに認められたかったのだ。
徐々に記憶を取り戻す俺に、そいつは言葉を放つ。
「……改めて、君の名前を教えてくれないかい?」
「…………俺の……名前だあ?」
よみがえる記憶の中にそれはあった。だが、俺がその名前を使うのは違和感があった。
俺はすでにその名前だけの人物ではない。異世界に飛ばされ、ある少年に食われて……。
俺はその少年でもあるのだ。俺はアルタイルでもあるのだ。
そんな俺に……かつての名前を使う権利があるのだろうか……。
「……いいんだと思うよ。それは……まぎれもなく、本当に君を見てくれた両親がつけた名前だから……」
俺はそんな当たり前のことを言われ気がつく。自分を確実に認めてくれていた存在に……。
「ああ。そうだな」
俺は親指を自分に突き出し、名乗る。
「俺は……大鷲ナツキだ。これから永遠によろしくな。アルタイル」
「ははっ。そうだね。僕からも……よろしく頼むよ…………」
やがて、その声は消えていった。
「……さて……」
俺はここで終わるわけにはいかねえ。
「最強になって……他人に認められる存在になってやる」
結局、無駄だとわかっていても、俺はやめられない。
それが……俺という名の……。大鷲ナツキという名の人間だからだ。




