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異世界の執行人  作者: Kyou
第3章 最強は叫ぶ
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第7話 確立していく存在

 …………。


 …………。


 …………は?


 気がつくと、そこは暗い場所だった。


「なんだ……。ここは……」


 ふと、俺は今までのことを思い出す。


「確か……あの男に心臓を貫かれたんじゃ……。なんでこんなところにいるんだ?」


 俺は歩き続けた。だが、進んでいる感覚がしない。それどころか、逆に遠ざかっているような……。


「…………ごめんね……」


「ああ?」


 その時、誰かの声が聞こえた。その声がどこから聞こえたかはわからなかった。


「誰か……いるのか……?」


「……うう…………」


 そいつは声からして、泣いているようだった。


 ポタッ……ポタッ……。


「……あ?」


 俺は自分の顔を触る。すると、水滴がついているのに気づく。


「なんで……俺も泣いているんだ?」


「それは…………君が僕だからだよ」


「……お前は……俺……?」


 その問いかけにそいつは答える。


「僕はアルタイル……君もアルタイルさ。……でも、君は*****でもある」


「…………は?」


 その名前を俺は聞いたことがあった。なぜ、聞いたことがあったのか。


 俺にはそれがわからなかった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 *****は、小さい頃に両親を亡くした。


 そのため、遠い親戚のもとで暮らすことになった。両親や歳が近い兄弟もいる。それは彼にとって、理想の暮らしだった。


 彼は新しくできた両親に認められるように努力した。勉強や運動などさまざまな分野で力をつけていった。


 だが、その両親が彼をほめることなど無かった。当時の彼はそこまで何もできない人間ではなく、むしろ努力の結果多くの面で素質があった。


 彼はやがて、自分が認められないのは一番になれていないのが原因だと考えた。だから……彼は努力をやめなかった。どれだけ苦しくても、人に認められたかったのだ。


 それから彼は優秀な高校に通い、充実した生活を送っていた。ただ優秀すぎるがゆえに、恋人や友人は一人もいなかった。


 それでも彼は良かった。自分が努力をして、強くなって両親に認められるならそれで良かったのだ。


 ある日、その両親に呼び出された。普段はあまり会話をしてくれない彼らだが、それでも話してくれるだけ嬉しかった。


「どうしたの? 母さん。父さん。俺に何か用?」


 すると、母親はある部屋を指さし言った。


「あの子に勉強を教えてあげてくれない? 最近、成績があまり良くないの……」


 あの子……というのは、両親の本当の息子。つまり、彼の兄弟にあたる人物だった。


 彼は自分について話さないことに少し落ち込んだが、それでもお願いをされるのは嬉しかった。


 それから、彼はその兄弟に勉強を教えた。兄弟の態度はひどいものだったが、それでも両親のお願いだったからか、彼は耐えられた。


 その後、彼は再び両親に呼び出される。


「ねえ。あなたが教えたあの子の成績だけど……」


「うん。どうだった?」


「全然伸びてないわよ。あなた、本当にちゃんと教えてるの?」


「え?」


 そんなことは無いはずだ。だって教えてるの時は、しっかりできていたはずだ。


「あなたの教え方が悪いから、あの子が苦しむことになるんでしょ。どうしてちゃんと教えてあげないの? 学校の先生からは行ける大学が無いって言われているのよ! 早くどうにかしないと……」


「なんで……」


――……なんで、俺が怒られているんだ――


「あなたは少し成績が良いからって調子に乗ってるんじゃないの? そんなことしないで、さっさとあの子を頭良くしてよ! なんで周りも見てあげないの? どうして自分だけ良い思いをしようとしてるの?」


――なんで……どうして……俺は認められたくて頑張ったのに……――


 その時、彼は悟った。母親は兄弟のことしか見ていないと……。きっと父親も、彼のことに興味など無いと……。


 彼は耐えきれずに外へ飛び出した。ただひたすらに走り続けた。


 どれだけ努力しても、どれだけ力をつけても……。


 無駄だったのだ。


 誰も彼のことなど見てくれないのだ。


「あああああああああああああああああああああああああ!」


 彼は発狂した。そして、暗闇の中へ消えていった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 道を歩いた先に……白髪の女性がいた。彼女は目から血を流していたが、こちらに気づいていた。


「あなた……どこの子? お母さんとお父さんは?」


 自分は首を横に振った。


「……わからない……か……。行くところが無いの?」


「…………うん」


 そう言うと、その女性は微笑み、手を差し出す。


「……じゃあ、一緒に行こう」


 そのまま、手を引かれていく。


 その人はまるで母さんのような存在だった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「……クククッ。……今も昔も……やってることは変わらねえのか……」


 思えば、どうして最強を目指しているのか、俺にはわからなかった。


 きっと、いまだに誰かに認められたかったのだ。


 徐々に記憶を取り戻す俺に、そいつは言葉を放つ。


「……改めて、君の名前を教えてくれないかい?」


「…………俺の……名前だあ?」


 よみがえる記憶の中にそれはあった。だが、俺がその名前を使うのは違和感があった。


 俺はすでにその名前だけの人物ではない。異世界に飛ばされ、ある少年に食われて……。


 俺はその少年でもあるのだ。俺はアルタイルでもあるのだ。


 そんな俺に……かつての名前を使う権利があるのだろうか……。


「……いいんだと思うよ。それは……まぎれもなく、本当に君を見てくれた両親がつけた名前だから……」


 俺はそんな当たり前のことを言われ気がつく。自分を確実に認めてくれていた存在に……。


「ああ。そうだな」


 俺は親指を自分に突き出し、名乗る。


「俺は……大鷲(おおわし)ナツキだ。これから永遠によろしくな。アルタイル」


「ははっ。そうだね。僕からも……よろしく頼むよ…………」


 やがて、その声は消えていった。


「……さて……」


 俺はここで終わるわけにはいかねえ。


「最強になって……他人に認められる存在になってやる」


 結局、無駄だとわかっていても、俺はやめられない。


 それが……俺という名の……。大鷲ナツキという名の人間だからだ。

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