第6話 歴戦の王
「…………ああ?」
集会所に行くとおやじどもが酔いつぶれていた。そこにあのピンクは見当たらなかった。
受付のやつに居場所を聞いてみる。
「なあ。あのピンクはどこ行った?」
「へ? 確か説教で連れていかれたんじゃなかったでしたっけ。その後は知りませんよ。集会所に来た人の顔は覚えていますし、たぶん戻ってきてないんじゃないでしょうか?」
「…………はあ……」
俺はため息をつきながら、再び外に向かう。受付はそんな俺に問いかける。
「……ベガちゃん、なにかあったんですか?」
「ああ? どうせまた外で遊んでんだろうよ。すぐに戻ってくる」
俺はそう言い放ち、集会所の外へ出る。
扉を閉め誰にも聞こえないと理解した時、声を漏らす。
「あの野郎……どこへ行きやがった……」
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俺はあの遺跡の前に来ていた。いくらベガでも、一人でこんなところに来ないと思うが……。
「あり得ねえ話じゃあねえよな……」
俺はその遺跡に入ろうとする。だが……。
「ちっ……」
地面を蹴り、後ろに下がる。
シュバババ!
目の前に三本の光の槍が突き刺さる。
「何の真似だ? ……遺跡の番人ってところか?」
「そこまで大した者じゃない」
遺跡の丸い部分のてっぺんに、その男は立っていた。そいつは灰色の羽の髪飾りをつけていて、妙に服の装飾が奇抜だった。
その男は長い髪をかき上げ、思いもよらない言葉を放つ。
「どうやら、あの娘を連れ戻しに来た……というところか」
「なに? ピンク野郎がここに来たのか……」
いや……来たというより、連れさらわれた……という方が正しいのだろう。男の、まるで俺が来るのがわかっていたかのような表情から、そのように考えられる。
「……てめえ。何のためにあいつを連れ去った? お前は何が目的だ?」
「それは我輩にはわからない。……他のやつらがその娘を欲していたからな……。聞きたいならそいつらに聞くといい」
「くははっ。はははっ」
俺はこの状況に笑いを隠せなかった。
「そう言っておいて、お前自身は通す気は無さそうだなあ」
「当たり前だろ。我輩も久しぶりの客と戦いたいと思っていたところだ……。名乗らせていただこう。我輩の名はネロ。かつて、メディテ王国を支配していた王よ」
「王だ?」
メディテ王国? そんな物があるのか? あったとしても、その国の王がいったいなぜここにいるんだ。
…………まあ。考えても仕方ねえか……。
「おらっ!」
先手必勝だ!
俺は地面を蹴り飛ばし、その男の前に飛ぶ。『軽くする能力』で体を軽くしたため、すばやく移動できた。
そして、男に殴りかかる。
「くらいやがれ!」
「…………ふっ」
男が鼻で笑ったその時だった。
「なに!?」
俺の腕がやつの体に食い込んだ。いや、やつの体が透けていると考えた方がいいだろう。
「あまいぞ。少年」
ドボバッ!
「がはっ!」
そいつの蹴りが俺の腹に直撃した。その勢いで俺は地面に叩きつけられる。
「くっ!」
目の前に光の槍が飛んでくる。俺はすぐに体をころがし、それを避け続け、立ち上がる。
男が遺跡の上から地面に降りてくる。
「ほう……。なかなか反応はすばやいではないか」
「ちっ。何かあるな……。お前の能力は……」
透ける能力ではないようだ。俺の能力が発動しないからな……。
だとしても、なぜやつは透けるのか……。どうすれば、ダメージを与えることができるんだ?
「……考えているな。少年よ。その行動は立派だ。だが、並みの発想では我輩に勝つことはできないぞ! ……考える余裕すらも与えないがな……」
男は光の槍をまた三本作り出し、こちらに飛ばしてくる。
「ちっ」
俺はそれらを避け、あいつに近づく。すると、やつの腕が赤く発光し始める。
「……身体強化か……」
男の拳が俺の目の前にやってくる。だが、俺はそれを読んでいた。
「……能力を発動!」
俺はあいつの背後に瞬間移動する。そして、腕をふりかかる。
「食らえ!」
「……単純だな……」
やはり、その腕はやつの体に触れることができなかった。そして、やつの作り出した槍が俺の腕を貫く。
「うぐっ!」
俺は体を軽くし、勢いをつけ後ろに下がる。
いまだにやつの能力がわからなかった。完全にやつに能力を発動する余裕など無かったはずだ。
「…………ちっ。なんなんだ。あの能力は……」
あっちは触れることができるのに、こっちは触れることができない。理不尽にも程があるだろ。
…………。
あいつは本当に有利なのか?
俺は立ち尽くし、考えた。
「どうした? 少年。ついに諦めたか?」
「…………クククッ。くだらねえなあ」
「なに?」
俺はその能力の種がわかると、笑いが込み上げてきた。
バシュッ!
地面を蹴り上げ、その男へ一直線に近づく。
「なんだ? どうしたんだ? 脳死で突撃してくるだけか?」
男は光の槍を俺に撃つ。俺はそれらを避け続け、やつに近づく。
「うおおおおおおお!」
俺はやつに殴りかかる。そして、そいつの体は透け、拳は通り抜けていく。
「何度やっても同じだ! 死ぬがいい!」
男の蹴りが俺に向かってくる。
「…………そこだ!」
俺は反対側の拳をその脚に叩き込む。
ドバキッ!
「うぐっ!」
その脚は血を出し、鈍い音を発した。その男はその場にしゃがみこんだ。
「……逆だったんだな……。てめえの能力は『触れることができる能力』だったんだ。すなわち、能力を発動しなければ、お前は触れることができねえ。それを利用して、不意打ちもかわしていたんだ」
それがこいつの能力……。だが……。
「……てめえ。いったい何者だ? 明らかに普通の人間じゃあねえ。触れることができない体なんて、どうやって手にいれた?」
その疑問は確かに気になる物だった。
「……だが、それを聞く暇は無さそうだな。……10秒経過だ」
俺の近くに浮かぶ剣の短冊に『触れられないものに触れる能力』が書かれる。
「これで……終わりだ」
その男の顔面を殴った。…………その時だった。
ポスッ。
「……なんだ?」
能力が……発動しない……。俺の『硬いものほど壊しやすくなる能力』が発動しなかった。
「……ふん!」
やつは俺の脚を蹴り飛ばす。俺は体勢を崩し、その場に座り込む。
バキキッ!
そして、やつの拳が俺の顔面を殴り飛ばす。
「ぐはあっ!」
俺は吹っ飛び、砂の上に倒れる。
いったい……なんで……能力が発動しなかった。
ふと、近くの盾の短冊を見る。すると、その短冊から『硬化する能力』が消えていくのがわかる。
「なっ……まさか、この能力を持っているやつが……死にやがったのか……。ちくしょうっ。このタイミングで……」
あの男が俺に近寄ってくる。その男は俺を見下ろしながら、俺に言葉をかける。
「……どうやら、神が味方をしたのは我輩だったようだな。……安らかに眠れ。戦士よ……」
待てよ……。ふざけんなよ……。こんなところで……。
まだ、やらなくちゃいけないことがあんだよ。
あいつを……ベガをまだ……。
「助けてや」
その時、そいつの槍が俺の心臓を貫いた。




