第3話 砂漠での戦闘
その女は笑みを浮かべながら言う。
「さて……あなたには死んでもらうわ」
「よほど自信があるみてえだな。いいねえ。おもしれえよ! かかってきな!」
ズシュッ!
その時、俺の頬を光の槍がかすった。流れる血を眺めながら、俺はそいつの考えを読む。
ちっ。これも魔法か……。どいつもこいつも魔法を使いやがって。面倒くせえなあ。
女は俺の方に接近してくる。それに応じて、俺も女に近づき、殴りかかる。
「おらあ!」
だが、なぜか当たると思っていた拳は女には当たらなかった。その時、女は小さくなった気がした。
「ぐっ」
女は拳を赤く発光させ、俺の腹に殴る。その衝撃で俺の足は地面を削り滑る。『軽くする能力』で、ある程度は弱くできた。
「なんだ……こいつは……」
小さくなる能力……というわけではなさそうだ。そうであれば、俺の能力が発動し、盾の短冊に書き込まれるはずだ。
相変わらず女の顔の笑みは消えない。
「なにか……見逃してる気がするなあ……。俺は……」
あいつの能力は……いったい何だ……。
「あら? どうしたの? ずいぶんと悩んでいるようね」
「クククッ。だとしてら何だってんだ? てめえをぶち殺すことには変わりはねえよ」
俺はその女に近づく。だが、また女は小さくなりやがった。
「くっ」
再び女の拳が向かってくる。それを俺は両腕で防御する。
「ぐおっ!」
俺は再度吹っ飛ばされる。その時、ベガが俺の視界に入った。
「アルタイル!」
「……っ!」
ベガが俺に何かを訴えていた。その言葉はよく聞こえなかったが、表情から見る限り、異常なことが起こっているようだった。
地面に足をつき体勢を立て直すと、俺は冷静に状況を分析する。
「……なるほど、そういうことか……」
俺は思いっきり笑みを浮かべる。その表情に女は戸惑う。
「あなた……大丈夫? もしかして、暑さで頭がおかしくなっちゃったとか?」
「かもな……。普通こんな答えにたどり着かねえよ。……だが、お前みたいなやつが考えたトリックなんざ俺には通用しねえよ」
「なんですって!」
女に向かって、俺は走る。それを見ると女はかまえる。
「くひゃははは! 残念だが、ここでお前はゲームオーバーだ!」
「くっ!」
すると、視界の中の女がまた小さくなる。そんなことはさっきと同じだからわかっている。
ここからが違う展開だった。
「なにっ!」
女は驚く。それは俺がしっかりと拳を顔面に向かっているからだ。
そして、女は剣の形をした短冊に『小さくなる能力』と書かれているのに気づく。
「それは!」
「てめえの特殊能力は『大きくする能力』だったんだ! お前が小さくなっているんじゃなくて、俺が大きくなっていたんだな!」
拳が女の顔面にぶち当たる。そのまま、砂の上に飛んでいく。
「がはっ!」
地面に倒れ込んだ女を見て、俺は言う。
「どうやら……砂漠の風景を使ってわかりにくくしていたみたいだな。だが……まあ自然にあんなでけえサソリがいるわけねえよ……。異世界だからか気がつかなかったがなあ……」
その時。
「ああ?」
俺の周りにサソリが襲いかかる。だが……。
キイイイン!
サソリのハサミと、目の前の薄い紫色の板がぶつかり、音が反響する。
俺がベガの方を見ると地面に手を触れ魔法を発動していた。そして、「借りは返したぞ……」と言うかのような笑顔を送っていた。
「……バカ。サソリが来るなんて気づいてたわ」
すると、ベガは俺に近づくやいなや、頬を膨らませていた。
「……バカじゃないもん……」
「……そうだな。バカではないな。天才だな。……これで満足か?」
「天才でもないもん……」
……どっちなんだい。
「……ほめるなら、ちゃんとほめてよ」
面倒くせえなあ。なんでそこにこだわるんだ?
まあ……こいつのおかげで毒を浄化することもできたし、結果的に役に立ったのかもな……。
「そうだな……。よく頑張ったな……」
俺はそいつの頭を撫でる。
「……うん!」
そいつは俺に笑顔を送る。だが、妙に嫌な気持ちが芽生えた。
なんだ……。これは……。
そんなことを考えていると、サソリの女はこっちに向かってくる。
「……まだ……私は……負けてない!」
「……やめとけ。ろくに歩けるわけがねえ」
「……あっ」
案の定、女は再び地面に倒れ込む。そいつのもとにベガが近づく。
「おい! あぶねえぞ!」
「大丈夫だよ。任せて」
ベガは女に回復魔法をかけていた。
「あの? 少しいいですか?」
「……あんた。バカなんじゃないの? 私を治そうとするなんて……正気の沙汰じゃないよ」
「ガーン……」
ベガは、俺以外からもバカと言われたことにショックを受けている。まあ、実際バカだから仕方がない。
「そうですね。……私、あなたがサソリを使って人を襲うのは何か理由があるんじゃないかって思ったんです」
……確かにそうだ。こいつらにも人を襲う理由があるはずだ。
パチンッ。
女はベガの言ったことを理解すると、指を鳴らす。すると、サソリたちは次第に本来の大きさに戻っていった。
「私や、この子たちは砂漠の外から来たの。理由は人間から嫌われているから。……当然よ。尻尾にこんな凶器をかかえているんだからね……」
「で? それが村の人間を襲うのと、どう関係があるんだ?」
俺はその女に問いかける。
「私たちは砂漠で飢えていた。なんせ食料が取れないから……。そこで見つけたのがあの村だったの。だけど、私たちが人間に関わると、またひどい目に合う。だから、村には入らずに村人が持っていた食料を奪っていたの」
なるほど……人と関わるのは嫌だが、生きるためには仕方なかったってことか……。
だが……。
「村の人だって頑張って手に入れた食料だ。それを奪うなんてずいぶん虫のいい話じゃねえか? それに、そんなことしたら余計人から嫌われるぞ……」
「うん。わかってるわ。それでも私たちは生きたかった……生きて幸せになりたかった……」
その話を聞くと、ベガがこちらを見る。
「ねえ。どうにかできないかな? アルタイル」
「……ああ?」
俺は頭をポリポリとかく。まったく面倒なことになったな。
とりあえず、まずはサソリたちが無害であることを証明しなければ村の人たちは受け入れてくれねえ。それをするには……。
「おい。サソリ女。ちょっとついてこい。他のサソリは置いてな……。それと尻尾は隠しとけよ……」
「えっ? ……うん」
そして、俺たちは砂漠を歩き、一度村に戻った。




