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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第10話 この世で最も悲しい少女

 少年は目を覚ます。


「…………」


 サクラザカは、周りの景色を見た。そこは見知らぬ建物の中だった。


 カゲロウがあの男を止めに行ったとすぐに予想がついた。あの男を止めている間に目的を果たせと、サクラザカにはそう伝わった。


 今いる最下層は、床にガラスが敷かれ、上に螺旋階段が繋がっていた。かなり高く続いていたため、ここが塔であることがわかる。


「ここがアイザック塔か……」


 その階段を歩き始め、サクラザカは同じ世界から来た人物について考える。


 どうも……サクラザカにはその人物の意図がわからなかった。なぜ、異世界から来た人物だけに気づくように仕向けたのか。どうして、直接会おうとしないのか。


「このアイザック塔に何があるんだ? その人がずっといるというのは考えにくい。例えば、何か……代わりに物を置いてあるとか……」


 その時、塔の入り口から誰かが入ってくるのに気づく。サクラザカは階段の陰に隠れる。


 そこには、茶髪をツインテールにまとめた少女がいた。自分よりも二歳か三歳ほど年下のように見えた。少女は何かを探しているようだった。


「……何を……しているんだ?」


 すると、少女は腕を組んで何かを考えている。


 その後、サクラザカを見て、ニヤリと笑った。そして、後ろから声がする。


「こんにちは。お兄さん」


 少年は振り返る。


 サクラザカはこの現状が信じられなかった。なんと少女が一瞬で背後に移動したのだ。


 ドシュッ!


 蹴り飛ばされ、階段から落ちる。同時にサクラザカは左手に噛みつく。


 黒い翼で空中を飛ぶ。


「やっぱり……そう簡単に殺せないよね」


「あなたは……誰ですか?」


 少女はサクラザカを見下ろす。


「私は財団のレベッカ。言っておくけどあなたは私には勝てないわ」


「……よほど自信があるようですね」


 空気を切り裂くように飛び、少女に光の槍を投げる。すると、少女は足を身体強化し、攻撃を瞬時に避ける。


 サクラザカは階段に戻る。


 少女は腕も赤く発光させ、サクラザカに殴りかかる。


「……っ!?」


 瞬間、サクラザカは自分の体に引っかかれたような傷ができているのに気づく。


「これは……爪?」


 その少女の腕に虎のような爪ができていた。


「なるほど……君はトラの亜人ということですか」


「その通りよ。さて、私の仲間をたくさん殺したあなたには罪を償ってもらうわ」


 少女はサクラザカを切りつけようとする。少年はそれを予測し、避け続ける。だが、すべて避けきれるわけではない。


 そして、攻撃の中で足首を切り飛ばされた。


「うぐっ」


 危険を感じて、空中に後退する。そして、はじき飛んだ足首を受けとめ、元の位置に戻す。


 吸血鬼の再生力で足はすぐにくっついた。


「……聞いてたとおりの化け物ね。でも!」


 それは一瞬だった。突然、少女はサクラザカの目の前に現れたのだ。


 そして、サクラザカを爪で切りつける。翼が傷つき、少年はそのまま落下する。


 サクラザカには少女の能力がわからなかった。どうして、彼女は一瞬で移動できるのか。


 まるで……さっきまで見ていたのが幻覚のように。


 …………。


「なるほど……」


 つまりはそういう能力なのだ。


「くらえ! 吸血鬼!」


 少女が攻撃をしかけようとした時、サクラザカは光の槍を作り、目を閉じる。


 サクラザカは音、空気の感触、におい。そういった視覚以外の感覚を研ぎ澄ます。


「そこか……」


 少年は光の槍を投げる。それは少女とはまったく違う方向に向かった。


 グシャッ!


「いやああああああああああああ」


 突然、何もいない位置から少女が現れる。さっきまで少女がいた場所にはもう誰もいない。


 少女の肩から血が流れていた。サクラザカは地面に受け身をとり、着地する。


「やはり、君の特殊能力は『幻覚を見せる能力』ですね。なかなか厄介な能力だ。だが、吸血鬼の五感をなめない方がいい。視覚が無くても、相手の位置はだいたいわかる」


 位置を見破られた少女は焦りと怒りの表情を見せる。


「……うう。やったわね。やりやがったわね。この私に傷をつけるなんて……。……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 少女は叫ぶ。そして、腕だけでなく脚も虎のようになった。


 瞬間。本当に高速で動いている。一部分は幻覚でカバーしているため、今度はさすがのサクラザカでも位置を把握できない。


 彼女は壁を蹴り、周りを動きまわる。そして、背後を攻撃し、サクラザカは壁に叩きつけられる。


「ああああああああああ。私は……誰よりも……強い! この世界にやってきて、誰にも負けずに戦ってきた!」


「……なんだって?」


 確かに今、この少女は「この世界にやってきた」と言っていた。まさか……。


「あなたは異世界から転移してきたんですか」


「あああああああああああああああああああああああ」


 少女は叫び続け、サクラザカに攻撃をする。その攻撃を避け、ガラスの上に乗る。


 だが、彼女は驚くべき速さで追撃してくる。その衝撃で床のガラスは割れ、サクラザカは下に落ちる。


「あなたは知っているかしら……。ここは昔、処刑場として扱われていたの……。その名残として、このガラスのしたには針の山があるのよ。翼を傷つけられて、あなたはもう飛べないはず!」


 少女は光の槍を発生させ、戻ってこようとするサクラザカにおいうちをかける。


「ぐおっ!」


 肩に槍が刺さり、力が抜ける。


「やっぱり! 勝利は私の手の中にある! 勝利が次の私をencourageしてくれているのさ!」


 サクラザカは光の槍を壁に刺し込み、へばりつく。その光景に少女は怒りを表す。


「なに抗ってんだよ! もうあなたは死ぬんだよ!」


「いいや。それは違う」


 サクラザカは男を止めに行ったカゲロウを思い出す。


「カゲロウは……僕に希望を繋げてくれたんだ! だから、今度は僕がその希望を未来に繋げる番なんだ!」


「うるせえなあ! さっさと自分が弱いことをregretしながら死んでいけよ!」


 瞬間、少女の周りにロープが出現する。それは紫と緑が混ざった不思議なロープだった。


 そのロープは少女を拘束する。


「何よ! これ!」


「それは『硬化』と『固定』、二つの力を合わせたロープだ。僕らの世界にあったワイヤーロープよりも頑丈だ」


 少女がロープに戸惑っている間にサクラザカは別のロープを作り、穴をよじ登っていた。


「ひっ。ひいいっ」


 腕を使えない少女は逃げることしかできなかった。


 グワワアーン


 サクラザカは足を黒くし、再び切断する。その足をロープで繋ぎ、少女に投げる。


「あがっ!」


 それは少女の足に巻きつき、自由を奪う。倒れた少女にもうなすすべは無かった。


 サクラザカは少女の近くに寄り、ロープに繋いであった足を取り、再び元の位置に戻す。足はしだいに治っていった。


 そして、黒い瞳が少女を見下ろす。


「……君は」


「ひっ」


「君は僕と同じだ。この世界にやってきて……亜人になった。それに関しては君には似たものを感じる」


 ブシャッ!


「いやああああああああああああ」


 少女の足に光線が刺さる。


「でもまあ……。それはそれとして……。あなたは……調子にのり過ぎた。幻を見せる程度の能力で僕を欺けると思わないでください。それがあなたの敗因だ」


 サクラザカは腰から氷の剣を取り出し、言葉を放つ。


「最後に……regretしながら死んでください」


「嫌! 嫌嫌嫌! お願い! 許して! まさか女の子を殺すわけじゃないわよね」


「はあ……。ここをどこだと思ってるんですか。ここは僕らのいた世界じゃない。そんなモラル……あると思ってるんですか?」


 サクラザカは冷たい眼光で見つめる。


「甘ったれてんじゃねえ……です」


 少女はサクラザカに狂気を感じた。どんなものも殺すことができる狂気を。


「いやああああ!」


 サクラザカは少女に剣をふりかざす。


 バキンッ!


「っ!?」


 瞬間、誰かがサクラザカの剣をつかみ止める。


「うがっ!」


 そして、サクラザカを壁に蹴り飛ばす。


 そこにはある男が立っていた。黒い紳士服を着た男だった。少女はその姿を見て、その人物が誰かを理解する。


「……団……長」

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