第9話 月はいまだに沈まない
俺とその男は空高くにやってきた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
男は腕を離そうと必死になる。そして、もう片方の腕で攻撃してくる。
だが、俺はシールドを展開し、その攻撃も防御する。落下までの時間は限られているため、男に連続攻撃をする余裕は無かった。
「ちきしょおおおおおおおあ!」
男は叫ぶ。だが、それに動じず、俺は足に橙色の魔石をばらまき、光線で破壊する。
それの爆発の衝撃が俺たちをさらに加速させる。
「てめえ! おいうちをかけやがって。こうなったら、お前を下敷きにして生き残ってやる」
「そううまくいくかな? 相手の攻撃を恵まれた力だけで防御するお前が、そんな器用なことができるのか?」
男は俺を下にしようとする。だが、体勢が悪いためか、なかなかうまくいかない。
「くそおおおおお!」
地面への距離は縮まる一方である。
そんな時、男の顔から焦りが消えた。その顔は何か覚悟を決めたかのようだった。
「……ああ。わかったよ。俺だって何も捨てずにはいられないってことだろ」
男は腕を振り上げる。俺はシールドを発生させ、防御する。
ビシュウッ!
「うぐっ!」
だが、その攻撃はやつ自身の固定された腕に与えられた。
「これで俺の勝ちだああああああああああああああ!」
「ッ!」
男の腕は切断された。なんとか俺は必死にやつにしがみつこうとするが、蹴り飛ばされてしまった。
「あはははははははははは。これでうまく魔法を扱える。地面に着地する時に身体強化で耐えることができそうだ。ぎゃははははははははははははははは」
だが、地面に近くなるごとに、男の顔にまた焦りが戻ってきた。
「なんだ。……なんなんだよ! 今日の俺はついてなさすぎる」
落ちる先には尖った装飾をした街灯があった。
ドブシュッ!
街灯が男の胸を貫いた。
「うっ……がっ……」
男は大量の血を吹き出しながら、街灯に固定されている。
俺は身体強化とシールドを使い、なんとか地面への衝撃を和らげた。
「がはっ! がはっ!」
俺は口から血を出した。
腹から男の腕を抜き取る。だが、血の勢いがどんどんおさまってきている。俺の体の血が無くなっているのだ。
まるで、俺にも終わりが訪れたかのように意識が遠くなる。
「ベ……ル……。サク……ラザカ」
ああ。結局、いろんなものを残したまま、死んでしまうのだなあ。
俺はそんなことを思いながら、目を閉じる。
「………ゲロウ。しっかりして! カゲロウ!」
誰かの声を聞きながら、俺は眠りにつく。
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「どうして……なんでこんなことに」
子どもたちが眠ってから、少し様子を見に来た。だが、そこで目にしたのは腹に穴をあけたカゲロウの姿だった。
「すぐに助けてあげるからね!」
私は回復魔法をかける。だが、損傷が激しく、すぐには治らない。
「このままじゃ、カゲロウが死んじゃうよ」
何度も何度も同じ魔法を繰り返す。だが、カゲロウの血は止まらない。
「嫌だよ。これじゃあ……アリスの時と……」
その時、私の中で込み上げる物を感じた。
「絶対に助ける。カゲロウを助けるんだ!」
私の耳から狐のような耳が生えてきた。それは私がキツネの亜人であることを表している。
そして、私は特殊能力を発動する。それは『一点に着目する能力』だ。これを使うことで細胞レベルの細かい物体が見えるようになる。
血をまず回復魔法で修復してから、小さな血管を回復させる。このように危険な場所から優先的に傷を治す。目に見える場所は特殊能力を使い、見えない場所は亜人の力、すなわち磁場を感じとって把握する。
正直、うまくいくかはわからない。私は医者ではないから、この修復の仕方があっているものなのかもわからない。
でもアリスの時の後悔を……もうしたくないんだ。
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「う……ん……」
俺は目を覚ますと、目の前にベルがいた。
「あれっ? ベル。お前何やってんだ?」
ベルはその質問を聞かずに俺に抱きついてきた。さすがに俺は女に抱きつかれることなどあまり無いので、照れる。
「おい!? どうしたんだ。なんで急に」
「良かった……。本当に良かったよお! もう死んじゃうかと思ったんだからね。目覚めるかすごく不安だったし……」
そうか……。こいつが俺を治してくれたのか……。
俺はてっきり自分でも助からないと思っていた。そんな俺を助けた彼女には、昔のやりたいことがあったら、どんなことでもやろうとする彼女を感じた。
アリスが死んでからは……そんなベルを俺は見なかった。
「ベル……。覚えてるか? 二人で駅の地下に初めて行った時のことを」
「……うん」
「あの時……そこで俺たちと同じ境遇のガキどもを見つけた時、俺たちは約束をした……」
「うん……約束をした」
「俺たちはこの子どもたちを守っていこうって。なのに、俺はしだいにあいつらに対し、罪悪感を感じていたんだ」
「………?」
「俺だけ外に出ていていいのかって。俺だけあの青い空を見ていいのかって。……そのうち、俺はあいつらに申し訳なくなった」
「……カゲロウ……」
「でも……くだらない考えだったんだなって、今気がついたよ。お前は俺を助けてくれた。大事なのは何をしなくちゃいけないか……よりも何をしたいかなんだって」
俺はベルの頭を撫で、微笑みながら言う。
「ありがとな。俺を助けてくれて」
ベルはそんな俺の顔を眺め、言葉を発する。
「……ううん。こちらこそ、いつも守ってくれてありがとう。カゲロウ」
俺は立ち上がり、さっきの男のところに向かう。
どうやら、まだ生きているようだった。本当に亜人の力というのは恐ろしい。
ふと、俺はたった一つ戦いの中で疑問に思ったことを問いかける。
「……お前。どうしてあの子どもを外に出した後に攻撃してきたんだ? その前にいくらでもチャンスはあっただろうに」
「……く……くっくっく……わからねえか」
男は夜の空に手をかざしながら言う。
「俺の……信念に……関わるからだ。民間人を……巻き込んで……いいはずがねえだろうが」
その手は力を失う。そして、その男から魔素が消滅していく。
「……死んだか……」
「カゲロウ……」
後ろからベルが心配そうに見つめるのに気がつく。そんな彼女に俺は笑みを見せる。
「大丈夫だ。こんなことはもう慣れてる」
そう。慣れているんだ。
さっきの廃墟の中に入り、人形のぶら下がった風船を見つける。そして、その建物の横にある路地裏にはあの少女がいた。
「……まだいたのか? お前」
「うん! ちゃんとお兄ちゃんにお礼がしたくて」
俺はその少女に風船を渡す。そして、少女からベルに視線を移すと、ベルは俺の考えを理解する。
「わかった。その子のことは任せて。カゲロウはサクラザカくんのところに行ってあげて」
「頼む。助かる」
俺は路地裏から道路に出る。その時、後ろから声がした。
「カゲロウ。がんばって!」
その言葉を理解すると、俺も微笑み言葉を返す。
「おう。行ってくる」
俺はその道を疾走する。
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「あなたはどんなお家に住んでいるの?」
「赤い屋根のお家に住んでるんだよ!」
少女は元気良く言う。ベルもそれに対し、笑顔を返す。
「もしかして、あのお家かな?」
「あっ! うん。あれだよ!」
少女は勢いよく走り出し、家に入る。やがて、家から出てきた母親に抱かれる。
「もう、どこに行ってたの? あなたの人形ならさっき見つかったわよ」
「本当!? ……あれ?」
少女は振り返る。そこにはベルの姿は無かった。




