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異世界の執行人  作者: Kyou
第2章 ユニギリムでの、トウソウ
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第9話 月はいまだに沈まない

 俺とその男は空高くにやってきた。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 男は腕を離そうと必死になる。そして、もう片方の腕で攻撃してくる。


 だが、俺はシールドを展開し、その攻撃も防御する。落下までの時間は限られているため、男に連続攻撃をする余裕は無かった。


「ちきしょおおおおおおおあ!」


 男は叫ぶ。だが、それに動じず、俺は足に橙色の魔石をばらまき、光線で破壊する。


 それの爆発の衝撃が俺たちをさらに加速させる。


「てめえ! おいうちをかけやがって。こうなったら、お前を下敷きにして生き残ってやる」


「そううまくいくかな? 相手の攻撃を恵まれた力だけで防御するお前が、そんな器用なことができるのか?」


 男は俺を下にしようとする。だが、体勢が悪いためか、なかなかうまくいかない。


「くそおおおおお!」


 地面への距離は縮まる一方である。


 そんな時、男の顔から焦りが消えた。その顔は何か覚悟を決めたかのようだった。


「……ああ。わかったよ。俺だって何も捨てずにはいられないってことだろ」


 男は腕を振り上げる。俺はシールドを発生させ、防御する。


 ビシュウッ!


「うぐっ!」


 だが、その攻撃はやつ自身の固定された腕に与えられた。


「これで俺の勝ちだああああああああああああああ!」


「ッ!」


 男の腕は切断された。なんとか俺は必死にやつにしがみつこうとするが、蹴り飛ばされてしまった。


「あはははははははははは。これでうまく魔法を扱える。地面に着地する時に身体強化で耐えることができそうだ。ぎゃははははははははははははははは」


 だが、地面に近くなるごとに、男の顔にまた焦りが戻ってきた。


「なんだ。……なんなんだよ! 今日の俺はついてなさすぎる」


 落ちる先には尖った装飾をした街灯があった。


 ドブシュッ!


 街灯が男の胸を貫いた。


「うっ……がっ……」


 男は大量の血を吹き出しながら、街灯に固定されている。


 俺は身体強化とシールドを使い、なんとか地面への衝撃を和らげた。


「がはっ! がはっ!」


 俺は口から血を出した。


 腹から男の腕を抜き取る。だが、血の勢いがどんどんおさまってきている。俺の体の血が無くなっているのだ。


 まるで、俺にも終わりが訪れたかのように意識が遠くなる。


「ベ……ル……。サク……ラザカ」


 ああ。結局、いろんなものを残したまま、死んでしまうのだなあ。


 俺はそんなことを思いながら、目を閉じる。


「………ゲロウ。しっかりして! カゲロウ!」


 誰かの声を聞きながら、俺は眠りにつく。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「どうして……なんでこんなことに」


 子どもたちが眠ってから、少し様子を見に来た。だが、そこで目にしたのは腹に穴をあけたカゲロウの姿だった。


「すぐに助けてあげるからね!」


 私は回復魔法をかける。だが、損傷が激しく、すぐには治らない。


「このままじゃ、カゲロウが死んじゃうよ」


 何度も何度も同じ魔法を繰り返す。だが、カゲロウの血は止まらない。


「嫌だよ。これじゃあ……アリスの時と……」


 その時、私の中で込み上げる物を感じた。


「絶対に助ける。カゲロウを助けるんだ!」


 私の耳から狐のような耳が生えてきた。それは私がキツネの亜人であることを表している。


 そして、私は特殊能力を発動する。それは『一点に着目する能力』だ。これを使うことで細胞レベルの細かい物体が見えるようになる。


 血をまず回復魔法で修復してから、小さな血管を回復させる。このように危険な場所から優先的に傷を治す。目に見える場所は特殊能力を使い、見えない場所は亜人の力、すなわち磁場を感じとって把握する。


 正直、うまくいくかはわからない。私は医者ではないから、この修復の仕方があっているものなのかもわからない。


 でもアリスの時の後悔を……もうしたくないんだ。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「う……ん……」


 俺は目を覚ますと、目の前にベルがいた。


「あれっ? ベル。お前何やってんだ?」


 ベルはその質問を聞かずに俺に抱きついてきた。さすがに俺は女に抱きつかれることなどあまり無いので、照れる。


「おい!? どうしたんだ。なんで急に」


「良かった……。本当に良かったよお! もう死んじゃうかと思ったんだからね。目覚めるかすごく不安だったし……」


 そうか……。こいつが俺を治してくれたのか……。


 俺はてっきり自分でも助からないと思っていた。そんな俺を助けた彼女には、昔のやりたいことがあったら、どんなことでもやろうとする彼女を感じた。


 アリスが死んでからは……そんなベルを俺は見なかった。


「ベル……。覚えてるか? 二人で駅の地下に初めて行った時のことを」


「……うん」


「あの時……そこで俺たちと同じ境遇のガキどもを見つけた時、俺たちは約束をした……」


「うん……約束をした」


「俺たちはこの子どもたちを守っていこうって。なのに、俺はしだいにあいつらに対し、罪悪感を感じていたんだ」


「………?」


「俺だけ外に出ていていいのかって。俺だけあの青い空を見ていいのかって。……そのうち、俺はあいつらに申し訳なくなった」


「……カゲロウ……」


「でも……くだらない考えだったんだなって、今気がついたよ。お前は俺を助けてくれた。大事なのは何をしなくちゃいけないか……よりも何をしたいかなんだって」


 俺はベルの頭を撫で、微笑みながら言う。


「ありがとな。俺を助けてくれて」


 ベルはそんな俺の顔を眺め、言葉を発する。


「……ううん。こちらこそ、いつも守ってくれてありがとう。カゲロウ」


 俺は立ち上がり、さっきの男のところに向かう。


 どうやら、まだ生きているようだった。本当に亜人の力というのは恐ろしい。


 ふと、俺はたった一つ戦いの中で疑問に思ったことを問いかける。


「……お前。どうしてあの子どもを外に出した後に攻撃してきたんだ? その前にいくらでもチャンスはあっただろうに」


「……く……くっくっく……わからねえか」


 男は夜の空に手をかざしながら言う。


「俺の……信念に……関わるからだ。民間人を……巻き込んで……いいはずがねえだろうが」


 その手は力を失う。そして、その男から魔素が消滅していく。


「……死んだか……」


「カゲロウ……」


 後ろからベルが心配そうに見つめるのに気がつく。そんな彼女に俺は笑みを見せる。


「大丈夫だ。こんなことはもう慣れてる」


 そう。慣れているんだ。


 さっきの廃墟の中に入り、人形のぶら下がった風船を見つける。そして、その建物の横にある路地裏にはあの少女がいた。


「……まだいたのか? お前」


「うん! ちゃんとお兄ちゃんにお礼がしたくて」


 俺はその少女に風船を渡す。そして、少女からベルに視線を移すと、ベルは俺の考えを理解する。


「わかった。その子のことは任せて。カゲロウはサクラザカくんのところに行ってあげて」


「頼む。助かる」


 俺は路地裏から道路に出る。その時、後ろから声がした。


「カゲロウ。がんばって!」


 その言葉を理解すると、俺も微笑み言葉を返す。


「おう。行ってくる」


 俺はその道を疾走する。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「あなたはどんなお家に住んでいるの?」


「赤い屋根のお家に住んでるんだよ!」


 少女は元気良く言う。ベルもそれに対し、笑顔を返す。


「もしかして、あのお家かな?」


「あっ! うん。あれだよ!」


 少女は勢いよく走り出し、家に入る。やがて、家から出てきた母親に抱かれる。


「もう、どこに行ってたの? あなたの人形ならさっき見つかったわよ」


「本当!? ……あれ?」


 少女は振り返る。そこにはベルの姿は無かった。

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