29話 望んでいない"チカラ"
★主な登場人物★
・ベル (本名 ???)
現代人。鈍感な本の書き手/164cm
・来栖恭介
未来人。爽やかな医者/177cm
・百目鬼弓月
未来人。真面目な護衛兼リーダー/185cm
・七彩七海
未来人。チート級つよつよギャルの護衛/155cm
・服部半蔵
過去人。???/172cm
嘘。そんなに、大変なことになっちゃうの――?
詳細までは聞いてなかった。ただ、私に絶対こうしてね、絶対黙っててねってしかメッセージに書いてなかったから……。
「見て、病院の屋上。アレ、佐山。銃の弾が的確に半蔵くんを狙ってんだよ。時間を止めなかったら今頃は……」
服部さんは自分の心臓のあたりを触った。
今のを聞いて、怖いって思わない人はいない。
王子くんは服部さんの背中をぽん、ぽんって優しく触れた。「半蔵くん、もう大丈夫。大丈夫だから」
服部さんを落ち着けるために、ぽんぽんしながら王子くんは話す。
「アイツは改心した"フリ"をしてた。本当はね、山神の命令で"本"を奪って、ベルちゃんの本名を見ようとしたんだ」
「絶対駄目っス!」
ナナは本を隠してるお腹に手を当てた。
一番強いナナが一番守れるからだ。
「わっキョウっ……」
キョウは手を握ったけど、悩んでから離して私を抱き寄せて白衣で覆うようにした。
「キョウくん、ベルちゃんが時間を止めてるから今は安全だよ。――でもベルちゃんがそれで安心できるならそうしてあげてね」
「ああ、王子くん。行儀が悪いが俺達はこうして話を聞いて良いか?」
「いいよー! すっかり仲良しだね。ナナちゃんもオレのところおいでよー……ってアレ?」
ナナは白衣に包まれた私の前に立って、銃を構えた。ユヅさんはライフルを持ってクロストレックの上に乗ってる。服部さんはもう既にキョウの後ろにいて、手裏剣を構えてた。
「僕達がベルを守る為にいるのは知ってるだろう? 危険が及んでいるのなら、どんな安全な場所でも気を抜けないんだよ」
「わかった。でもこれからすごく疲れることをたくさんしなきゃいけないから、休めるのは今だけだよ? 本当にいいの? 大丈夫? 安全はオレが保証するけど?」
すると、切り替わったように、ナナはバナナを食べ始めて、服部さんにもあげて、ユヅさんは車の鍵を開けて「この中で寛ぎながら話そう」って提案した。
あの王子くんが呆気に取られてる!
「いいね♪ そうしよっか!」
運転席に王子くん、助手席にユヅさんがいて、そのお膝にはナナが座ってる。キョウと服部さんが私を挟むように座ってる。キョウはやっぱり私の腰に手を回して、必死に守ろうとぎゅってしてくれてた。キョウ優しい〜〜〜! でも、私もキョウを守りたいんだからねっ!
私は大好きって言う代わりに遠慮なく寄りかかると、キョウは笑って見せた。
それにしても……ステッキが80cmくらいあるから邪魔っ!
「ぶっちゃけると、レナちゃんは今日までの命だったけれど、生き延びるんだ。総理も長く任期を務める。それはめでたしだよね。でもさ、それが未来でわかって、山神にチクったヤツがいた。……で、山神を怒らせる火種になったんだ。さらに悪いことに、しめしめと手を組もうと差し伸べたヤツがいて――それだけならまだ良かった」
「と、いうことはまだ誰かが暗躍して、痛っ」
ナナが重厚なクッキー缶を取ろうとしてユヅさんの足元に落としたらしい。あれは痛い!
「ごめんなさいッス……」
「こらっナナちゃん! ユヅくんにごめんなさいしなさい! ほら、オレが開けてあげるから」
ナナがペコペコ謝って、説教は後だというお約束の言葉が返ってくる。ご立派なクッキー缶のテープをなかなか剥がせない王子くんが、格闘しながら続きを話した。
「今、未来ではベルちゃんの能力について議論されてるんだ。くっ……開かない……! そこで、ベルちゃんの利用価値の高さに注目された。ベルちゃんの尊厳を守る派も負けじと反対してるけど……。テープがっ見つからないッ! 利用したいヤツらはもう行動に出てる。"黒の読み手"と"黒の書き手"を用意して、悪夢を見せて操ろうとしてる。うぐぐ……その為にはどうしたらいいのかというと……」
「王子くんは説明に集中してくれ、な? 貸してくれ」
キョウは、王子くんからクッキー缶を受け取ってすぐにテープを綺麗に剥がして戻すと、王子くんは感動してる。
「すごっ! ありがとうキョウくん! はい、ナナちゃん」
王子くんがめっちゃお兄ちゃんだ〜!
ナナは、ぱあっとした表情になって目をキラキラ輝かせた。まずは自分が食べてから、ユヅさんに渡してクッキー缶をみんなに回し始めた。
ナナ、気を遣ってくれてる――。
だっていつもは独り占めするのにね。ありがとう、ナナ!
「言うのが憚られるが……そこでベルを守る俺達が邪魔だから命を取りにくるってところか?」
「流石キョウくん。そゆこと。もう暗殺者は特定してるよ。オレは天才だからね! その地点に行って、みんなで拘束して、ベルちゃんが今から二年後の未来に転送する。そこでは――今集まってるメンバーとうさぎ仮面が待ってるから、彼らに任せることになってるんだ。自分達の味方は自分達しかいないからね」
クッキー缶が回ってきた服部さんは迷いながら二枚だけ取って、私に渡してくれた。うわっ美味しそうなのばかり!
「王子くん……ベルの負荷が大きくないか? 時間を止めながら転送もするなんて倒れてしまうよ。せめて時間停止措置だけでも上に相談を――まさか、駄目なのか!」
ユヅさんが声を荒げるとナナがビクッとした。
不安にさせないように、慌てて大きな手でツインテールを撫でてあげると、ナナはほっとしたみたい。ふう。
ユヅさん、お兄さんがいるから、いつもの"なでなで"とかしにくいよね……。
「ユヅくん、そうだよ。そうなんだ……。何度も掛け合ったけど駄目だった。オレはクビになって自由の身ってワケさ。だから好きに動くことにしたんだ。伝わったかな? もし動けるなら、今もベルちゃんは能力で消耗してるから、一番近い佐山を捉えて転送しよう」
「ウチがやるっス!」
ナナが勇ましく手を挙げる。
「ナナちゃん。みんな。集団行動にしよう。絶対に離れないこと。いいね? 効率は落ちるけど、安心できるっしょ? 時間が止まってる空間は怖いし、精神が蝕まれちゃうからね」
みんながクッキーを頬張りながら頷く。
「えっみんな食べてるじゃん! オレも食べたい!」
「ほい。アニキ」
王子くんはナナからクッキー缶を受け取って、一気に食べる。でも、ナナと同じで上品に、綺麗に早く食べるんだね。
「そうと決まったら行こうか。"黒の読み手"と"黒の書き手"については移動しながらベルに話してくれ。頼んだぞ恭介」
キョウは、王子くんが持ってるクッキー感から追加で一枚取って食べて、頷いた。
ユヅさんが車を降りると、みんなも降り始めて病院に向かうことにした。
ナナと王子くんはギリギリまでクッキーを口の中に詰め込んでた。
「ハ、ハムスター兄妹だあ……!」
私が言っちゃったら服部さんがツボったみたいで「うけ、うけるでござるっ! べ、べるどの」ってお腹を抱えてた。笑い上戸なんだね!
キョウは私をエスコートしてくれた。ステッキを右に持ってるから、左手を握ってくれる。
「ねえ、キョウ、手を繋いで動きにくくない?」
「俺は……ずっとこうしていたいからいいんだ。……ベルは、その、嫌だったか?」
「そんなことないもん! キョウの手大好き!」
あっやば、赤くなってる。
「わーキョウくん赤くなってる。かわいいね!」
王子くんが茶化すと、ユヅさんとナナがバッテンをして、やめて、ストップ! って必死で止めてた。
みんなで話してるけど、何も音のしない病院は二度目なのにすごく不気味……。集団行動に徹することにした王子くんの判断は合ってるんだ。
沈黙が無いように気を遣ったのかキョウが話しかけてくれた。
「そうだ、ベル、説明しとくな。"黒の読み手"と"黒の書き手"は、それぞれのルールを破る人達の事を指すんだ。特に"黒の書き手"は自由自在に"本"を書くからタチが悪い」
「え、だって。絶対駄目なんじゃないの?」
「だめだよ? そーれーがさっ、ルールを破ると寿命が縮んだり、命を落としたりするんだけど、それでもやる人がいるんだよ……。誰かを助けたい、とか優しい人もいるんだけどね」
キョウと、ナナ、ユヅさんも服部さんも暗い顔をした。も、もしかして……過去の私もそうしたのかも。
「ベルは誰かを助けたくなってもしないでくれ……。頼む」
キョウが握っている手に力を入れる。
「しないよ、一緒に生きよう! 私は過去の私と同じことをしないよ」
ナナがびくっっってして、取り繕うとしてくれた。
「べべべべるっちはかかかか過去にっそそそ、そんなことしてないっスよ!?」
もう、わかりやすいなあ。心配かけちゃったんだね。
「ナナ、私のことだからわかるよ。約束するからね、本当に、本当だよ」
「ベルっち〜〜〜〜!!」
ナナが階段を飛んで私に飛びつこうとしたけど、ユヅさんが足を掴んで止めた。そのまま逆さまになって「シャーッ」って怒る。
「七海! 話が進まない! お前は無駄な動作が多い」
「ごめんね、ユヅくん。オレの妹がいつもお世話になって」
「ああ、王子くんがしつけしてくれてたらって何度も思うよ」
「はーい……」
うわ、彼氏(?)とお兄さんの会話とは思えない! お兄さん押されてる!
みんな足が早いから、屋上で構えてた佐山のところにすぐに到着した。追いつくの大変だったーっ!
ナナが「こいつめっ許さないっス!」と手錠を出して一目散に走ると、王子くんがツインテールを掴んで止めた。
「あぎゃにゃクソアニキッ」
「ナナちゃんっストップ! オレ、ナナちゃんの早さに追いつけなくて髪握っちゃった……ごめんね。みんなも止まって聞いて!」
みんな危険を察して一斉に王子くんの背中に隠れた。
言っとくけどオレが一番弱いのにな……おかしいな、って言って凹むけれど、説明責任は果たすらしい。
「触れたら駄目なんだ! そいつは能力者によって触れると爆発するようになってる! 佐山も他の奴らも、任務を失敗したら殺すって脅されてるんだ! 今ナナちゃんが拘束しようとしたら触っちゃうでしょ? そうしたら、ベルちゃんが時間停止を解除したその時に佐山は爆発するんだ!」
「じゃあどうしたらいいんだ!?」ユヅさんが叫ぶ。
「ベルちゃんのステッキは、かなり万能なんだ。能力解除を望んで、ステッキで佐山に触れると――爆発の能力は解除される」
「なん、で……ベルにそんな力があるんだ……?」
キョウは、絶望しながら、泣きそうになりながら、王子くんに訊いた。
「"前"のベルちゃんが願ったから……だよ。みんなを守れるように、大好きなみんなと一緒に居れるように、そんな自分を望んで力を与えたんだ。だから――ベルちゃんは、未来人の能力も解除できてしまうんだ」
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