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虚無王ザラビスは退屈している  作者: 釘宮・連
ザラビスの起源に関する注釈
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第19話: サイド:空を揺るがす痕跡

多元虚演舞 ―― 霊石の間


水晶の都・虚演舞は、完全に滅びたわけではない…が、無事でもなかった。


建物全体に、まるで血管のような亀裂が走っている。普段は安定している霊的な光も、今は不規則に脈動し、まるでこの世界自体が、つい先ほど通り過ぎた何かを未だに記憶しているかのようだった。


都の中心に、古びた石の殿堂が立っている。黒い柱が空に突き出し、その表面にはルーン文字が刻まれ、ゆっくりと絶え間なく動いていた。


そこに八つの影が集っていた。


彼らの気配は、爆発するような激しさはない。むしろ…濃密すぎるほどだ。周囲の空気は乾ききり、重たく、まるで現実から引き剥がされているかのようだった。


フェルダが前に立つ。表情は穏やかだが、隠しきれない威圧感が漂っていた。


彼女は手を少しだけ上げる。


「奴はどこだ?」


声は大きくない。だが、その一言で空間が狭まったように感じる。


「あの龍魔族の野郎、借りがある」


沈黙が降りる。


ミロアが少し俯き、ひび割れた床を見渡す。


「彼…今、行ったところだよ?」と小さな声で問う。


部屋の暗い隅から、何かが動いた。


アゼロスが歩み出る。


その体はまるで凍りついた溶岩のようで、黒い表皮の隙間から赤い光がにじみ出ていた。


「直撃を食らったのは俺だ」


声は重たい。


「奴が通ったせいで、俺たちの拠点は半分崩れた」

「直せって言っておいたのによ… ついでに飯も持って来いって」


彼は薄く笑う。


「名乗りもしなかったが、気配だけは…まあまあだったな」

「だが、詰めが甘い」


フェルダは大きく反応しない。ただ頷くだけだ。


「方角は?」


アゼロスは短く答える。


「西だ」


長い議論はない。


フェルダが即断する。


「ミロア。第一班を頼む」

「西へ向かう」


レインジュが顔を上げる。


「助けに行くの…? それとも、取り立て?」


フェルダは真っ直ぐ前を見据える。


「我ら原初の悪魔」

「借りを作ることはあっても、作らせることはない」


彼女は一瞬言葉を切る。


「それに…俺は、終わってないことが嫌いなんだ」


合図もなく、八つの気配が忽然と消える。

速く動いたのではない…


まるで空間そのものが、彼らを別の場所へと移し替えたかのように。




星間戦域 ―― 誰も見ていない戦い


文明の痕跡すらない、西方の果て。


ヴェルドラは今、自分なりに理にかなった行動をしていた。


星に体当たりをすることだ。


銀色の鱗が宇宙の光を反射させながら、彼は突き進む。目的もなく、ただ楽しそうに笑っていた。


そしてついに――


巨大な恒星に激突した。


爆発が起きる。


単なる光ではない。空間を掻き乱すエネルギーの塊が周囲の構造を木端微塵に砕いていく。


そして――何かが目覚めた。


砕け散った光の中心から、巨大な存在が現れる。


その体は肉ではない。通常のエネルギーでもない。


凝縮された「光」そのものだった。


ソルン・スピリティア。

太陽神たる存在。


その熱気は制御不能に暴れることはない。完璧に収束され…だが、絶対的だ。


ヴェルドラは空中で動きを止める。


「…おや」


彼は鎌を構えなおす。


「こいつは面白くなりそうだ」


激突


ヴェルドラが先に仕掛けた。


鎌が震え、次の瞬間――


一閃。


そして、数百閃。


たった一秒の間に、斬撃の残像が幾重にも重なる。


深淵弦月アビサルクレセント


周囲の空間が裂け、次元に無数の傷が刻まれていく。


だがソルンは慌てない。


彼は剣をゆっくりと掲げる。


刃の先に、極限まで収縮した光が集約される。


『ヘリオスクリーヴァー』


二つの力が激突した瞬間――


周囲の現実がひび割れた。


木端微塵になるのではない。まるで割れる寸前のガラスのように、ギリギリと軋む。


周辺の惑星が崩壊し始める。世界の破片が弾き飛ばされるが、すぐに――


ソルンの放つ熱によって再び編まれ、修復されていく。


戦いは続く。


ヴェルドラの動きは奔放で、予測不可能。


対照的にソルンは――


全ての動きが…精密で、リズミカル。


まるで、必ず定刻に訪れる夜明けのように。


力の差


ヴェルドラは次第に理解し始めていた。


自分の攻撃が、通らない。


鎌の一撃は光の鎧を弾き返すだけで、傷一つつけられない。


そして、たった一発の反撃が――


ドン!


ヴェルドラの体が遥か彼方へと弾き飛ばされる。


空間の層を突き破り、星系の外へと放り出されてしまった。


ヴェルドラは抵抗しない。


ただ――


「…はあ」


ため息をつく。


そして、そのまま流されるがままになった。


静寂の後


ソルンは、歪んだ空間の真ん中に一人佇んでいた。


彼は辺りの惨状を見渡し、ゆっくりと手をかざす。


修復が始まる。

穏やかに、着実に。


彼の心の中に、一つの疑問が浮かんだ。


「あれは…一体何者なのだ?」


彼は追わなかった。


この世界の均衡を取り戻すことこそが、何よりも重要だったから。


次元の狭間 ―― 短い接触


フェルダたちが現れた。


音もなく、光もなく。


彼らは…ただ、そこに「在った」。


ソルンは即座に剣を構えなおす。


だがフェルダは手を振って制した。


攻撃で封じたのではない。


霊的な圧力で、衝突する気配を和らげたのだ。


「我々は戦いに来たのではない」


ソルンが警戒の目を向ける。


フェルダは続ける。


「四つの角を持つ者を探している。龍魔族の気配の男だ」


ソルンは少し黙した後、頷く。


「奴ならば…宇宙の彼方へと弾き飛ばした」


フェルダは軽く頭を垂れる。


「十分だ」


彼女は背を向ける。


「行くぞ」


威嚇もなければ、プライドのぶつかり合いもない。


ただの情報の交換。


そして彼らは、再び姿を消した。


異星 ―― 静かなる捕縛


ヴェルドラが落ちてくる。


激しくもなければ、劇的でもない。


彼は奇妙な緑に覆われた大地に降り立った。


空気は重たく、得体の知れない感覚がある。


ゆっくりと体を起こす。


「…腹減った」


動き出そうとした、その時――


周囲の空間が変質した。


フィールドが形成される。


エネルギーの流れが拘束され、


そして――彼の鎧が…消えた。


壊れたのではない。


どこかへ移されたのだ。


ヴェルドラは自分の手を見つめる。


「…は?」


周囲に存在が現れる。


メガホープス。


その肉体は極めて頑強で、まるで生きた鋼鉄のような構造をしている。


彼らは襲っては来ない。ただ…監視しているようだった。


ヴェルドラは抵抗もせず、その場に座り込む。


「食ったら…後でちゃんと返すから」


反応はない。


彼はため息をつく。


半分、退屈そうに。


半分、面白がるように。


本気の一言


見慣れぬ空を見上げながら、


ヴェルドラは、今までとは全く違う声音で呟いた。


「もし…俺の主に手を出そうものなら――」


彼は一瞬だけ黙る。


「この世の全て、消し飛ばす」


言い終わると、すぐにいつもの気だるげな表情に戻る。


まるで、先ほどの言葉が幻だったかのように。




エピローグ


一方で――


フェルダたちは、更なる西へと進路を取る。


一方で――


ソルンは、壊れた世界を編み直し続ける。


そして、見知らぬ星で――


ヴェルドラは、訳も分からぬ監視下のもと、ただ座っている。


弱いからではない。


理由はただ一つ――


まだ本気を出す必要を感じていないだけ。


空は依然として静かだ。


だがその裏で、


三つの異なる道が、一つの同じ地点へと向かって動き始めている。


彼らが再び相まみえる時――


それは単なる邂逅ではない。


二つの物語が、激しく衝突する瞬間となるだろう。

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