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虚無王ザラビスは退屈している  作者: 釘宮・連
ザラビスの起源に関する注釈
1/101

第1話:楽しみを求めて ―虚無観測編 ―

ザラビスが目を覚ました。


それは、人間のように眠りから覚める感覚ではない。


ただ――再び“存在した”。


十メートルを超える巨大な玉座の上。


そこに座るのは、身長四・七メートルの存在。


ザラビスはゆっくりと瞼を開いた。


紅い光が、静寂に満ちた空間を照らす。


ニリオン王国。


すべては、変わっていなかった。


静かすぎるほどに静かで、


完成されすぎたまま――止まっている。


誰も動かない。


何も起こらない。


ザラビスは違和感を覚えなかった。


どれほどの時間が経過したのかも、知らない。


三十億年という歳月が流れていたことも。


外の世界が、すでに現代という時代に変わっていることも――


彼は知らない。


ただ、次の瞬間が訪れただけ。


しかし――


わずかな“ズレ”があった。


ザラビスは自らの手を見下ろす。


変化はない。


異常もない。


だが、内側に――


“何か”がある。


「……これは」


それは脅威ではない。


異質な力でもない。


もっと単純で――


そして、未知のもの。


ザラビスはそれを観測し、解析する。


だが――


理解が、即座に完了しなかった。


わずかな沈黙。


そして。


「……退屈?」


その言葉は、静かに零れた。


まるで、自分のものではないかのように。


だが同時に――理解する。


これが“感情”。


存在して以来、初めて得たもの。


怒りでもない。


悲しみでもない。


ただ――退屈。


ザラビスは無言のまま、空間を見渡した。


何も変わらない。


何も起きない。


すべては完成されている。


だからこそ――


何も残っていない。


ゆっくりと、玉座から立ち上がる。


音はない。


視線の先――


アーマゲドンの門。


その一つが、わずかに開いている。


そこに立つ守護者は――


眠っていた。


動かない。


だが、消えてはいない。


他も同じ。


多層宇宙ニリオンの守護者たちも、


すべてが眠りについている。


戦いはない。


侵略もない。


すべては終わっている。


完璧に。


そして――空虚に。


「……そうか」


ザラビスは目を閉じる。


その時――


別の“欠落”に気づいた。


「……何かが、足りない」


世界ではない。


法則でもない。


“誰か”。


ぼんやりとした像。


女性の輪郭。


近いはずなのに――思い出せない。


「……誰だ」


答えはない。


ただ、静寂だけがある。


一瞬だけ――


すべてを解析する存在の影がよぎる。


だが、それも消えた。


ザラビスは再び目を開く。


退屈は、消えない。


それどころか――広がっていく。


思考する。


もしこれが“退屈”ならば。


他にも、あるはずだ。


もっと多くの感情が。


だが彼は知っている。


すべてを理解することは可能だ。


一瞬で。


経験すら必要とせず。


これまでのように。


ザラビスは静かに否定した。


「……違う」


「理解するだけでは――意味がない」


その言葉は、自然に出た。


結論だった。


もし知るならば――


体験しなければならない。


そのために。


彼は自らを“制限する”。


存在が、わずかに縮小する。


ほとんどの力が、奥へと沈む。


残されたのは――


感じるための最低限。


「……これでいい」


一歩、踏み出す。


ニリオンを離れ、


既知の現実を越え、


さらに外へ。


そして――感じた。


生命。


無数に。


混ざり合い。


不安定で。


奇妙なほどに――生きている。


ザラビスはその中の一つへ向かう。


最も強く、最も複雑な反応。


到達する。


青と緑の惑星。


薄い大気。


人工の光。


秩序と混沌が混在する構造。


「……興味深い」


小さな存在たちが動いている。


弱い。


非効率。


不完全。


それでも――


彼らは“生きている”。


ザラビスはゆっくりと降下する。


さらに存在を抑えながら。


この世界に――入るために。


だが。


着地の瞬間――


わずかな誤差。


「――ゴンッ」


鈍い音。


ザラビスの身体は、


金属製の容器に突き刺さっていた。


沈黙。


「……何だ、これは」


動こうとする。


角が引っかかる。


「……」


止まる。


考える。


真剣に。


「……呼べば、来るか」


口を開く。


「は……は……」


不自然な音。


通行人が足を止める。


「ママ、ゴミ箱がしゃべってる」


「見ちゃダメ!」


去っていく。


沈黙。


「……拒絶された」


ようやく抜け出す。


容器が転がる。


ザラビスは自分の手を見る。


「……偽装」


身体が変化する。


縮小し、人間の姿へ。


黒髪。


普通の外見。


力は抑制。


名前が浮かぶ。


レイジ・レン。


彼は歩き出す。


光。音。人の流れ。


すべてが新しい。


その中で――


一つ、異質な存在。


少女。


周囲とは違う気配。


「……何だ、それは」


ザラビスは見つめる。


初めて――興味を持った。


「……これは、退屈ではないかもしれない」


そして――


彼が気づかない場所で。


何かが、


彼を見ていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


この物語は、圧倒的な存在であるザラビスが、

「力」ではなく「日常」や「繋がり」を求めて歩む物語です。


更新はできる限り丁寧に進めていきますので、

気に入っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。


どうか、最後まで見守ってください。

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