第5話 美由の優しさ
美由の連れ去り事件から数日。
美由もだいぶ落ち着いた様子だけど平和だと思っていたのは俺だけだった…。
あれからなるべくなら美由の傍にいるようにしている。
俺は放課後、美由に声をかけた。
「美由、帰ろうぜ」
「・・・・・」
「美由?」
「えっ? な…なぁに?」
「一緒に帰ろって言ったんだけど」
最近ボーッとしている時がある。本人は明るくしているが俺には無理しているように見える。美由に何が起きているのかわからなかった。
私は思い出していた…。
ある日、クラスメイトが数人からイジメを受けているのを目撃してしまう。
その時は怖くてその場から逃げてしてしまった。
イジメって初めてみたけど怖いなぁ…って思うだけで何もできずにいた。
その数日後の放課後にまた同じ子がイジメを受けている場面に遭遇してしまう。
臆病な美由には何もできないと思い立ち去ろうとした時、彼女の顔が…瞳が私の視線に入ってきた。
その顔にははっきりとこういってるのが分かる…。
「椙野さん、助けて」
必死で助けを求めるクラスメイト心の声。
でも…でもここで臆病な私が助けられる筈はない。
その場から視線を外せず動けずにいたら友達を囲んでいた一人が近づいて来て一、私の腕をつかみその輪の中に連れていかれた。
「アンタもコイツみたいになりたいの?」
「いえ、偶然通りかかっただけです」
「運が悪かったな。バレちまったから諦めな」「・・・・・」
怖くて何も言えない美由。たた怯えて「やめてください。ごめんなさい」を繰り返すだけの美由。こんな日が何日も続き、美由の心が壊れかけていくのをイジメられるきっかけを作ったと責任を感じている友人。
何もできず話も出来ずに過ごしていた日々が続き、美由は心を閉ざしていくようになっていた。
そんな中で雛月先生からクラスメイトが交通事故で亡くなったことをクラスのみんなに話してくれた。
学校からの帰り道でその友人は不慮の交通事故に遭い亡くなったのだ。
でも美由のはすぐにそれが事故なんかじゃないと悟った。
心の中でつぶやく
[ねぇ…コレが原因だよね?]
誰にも言えない言葉が、更に美由を苦しめ心を闇の中に引きずり込もうとするのだった。
そんな美由の異変に慶が気づかないわけがない。
「美由?」
「へ!?」
「俺に隠してる事あるだろ?」
「な、なにも…ないよ」
眼を見ればわかる。
明らかな美由のウソ。
「ただ…友達が亡くなって悲しいだけだよ」
「それだけじゃないだろ?」
「それだけ…だよ…」
すがる様な眼をした美由。
美由の俺を頼るような瞳に考えるよりも先に言ってはいけない事を言ってしまった俺。
「俺が…なんとかしてやろうか?」




