⑧-10
「あらあ…三上杏奈さんね。棄権したと思ったけれど…?」
大石のばあさんが舌舐めずりをするかのように、粘ついた声で問いかける。
杏奈は俺の顔を見てから「き、棄権しました!」と即答する。
よおし!いい子だ、杏奈…。俺はにんまりする。
なんだかんだ、俺の言うこと聞くところが可愛かったりする。
…まあ俺の…義妹だから、な。
杏奈は、その場で少し下を向いてから。
「でも、どうなったのかなって……誰が選ばれたのかなって…」
気になって…と消えそうな声でつぶやいた。
そうか…オーディション結果が気になって来たパターンか。
杏奈は申し訳なさそうに俺の方を見ながら、足をモジモジさせている。
俺は(いいんだよ)というように首を縦にふった。
大石のばあさんが、答えようとして口を開きかけたとき…。
「私に…決まったのよ」
飯村さんがずいっと杏奈の前に移動する。
あれ? なんか飯村さん、ちょっとキャラ変わってる?
なんか自信に満ちあふれたオーラが、むんむん…してるなァ。
飯村さんは髪をほどいていて、いかにも大人っぽい雰囲気だ。
「私は巨乳でもないし、あなたのような美少女でもない…。
なんのとりえもない、ただの大学生だったの。今までは…。
でもこれからは、歌って踊れる…先生。そう……アイドル先生として、
闇闇ガールズの一員になることにしたの……」
「……」
「私は…倒すべき敵はももてぃんではないの。マリアンヌでもない。
誰かは、わかってるわよね?」
杏奈が飯村さんをにらむ。
「あなたたちになくて、私たちにあるもの……。そう…魔法」
飯村さんは俺を見て、ぎゅっと胸に手をやって…。
「恋する女はみんな……魔女なの。だから…変身するの」
おおお…!俺は感動してしまった。恋する女は魔女かぁ。いいないいな♪
いっそ闇闇ガールズのキャッチコピーにしたらどうだろうか。
ももてぃんの恋する人は……?
ももてぃんが困ったように俺の方を見る。
「そこにいる人です…きゃっ言っちゃった」俺を指差して、ももてぃんが顔を隠して
照れている。
カメラマンたちが「君か! ももてぃんを魔女にした男は!」
俺は舌打ちした後、ももてぃんの腕をとって「逃げるぞ、桃子!」と走る。
「待って瞬!」ももてぃんが走りながら俺の横顔を見て言う。
「大好きだよ瞬…」
YEAHHHHHHHHH!!
ムヘヘヘ……よだれを垂らしながら妄想していた俺の額にデコピンが打たれる。
「いたっ!」
誰だよ!と怒りながら見ると、大石のばあさんが遠く離れた場所から……
デコピンのマネをしている。
魔法だぁ~~エアデコピン…なんてこともできちゃうの?びくびく…。
てか、読まれてたの?俺の思想…。さあああ…と血の気がひく。
「飯村さんの熱意はよおく伝わりました。
あなたは、冷静でおとなしいお嬢さんだと思っていたけれど、案外熱い情熱をお持ちの人だったのね。うん…なんの妖怪にするか、決めたわ……ふふふ」
飯村さんは、大石のばあさんの方を見て言い放つ。
「どんな妖怪にしてもらってもかまいません…。
ただひとつ、条件があります……。…私を巨乳にしてください!!!」
なあああんだとぉおお??
飯村さんが巨乳でっか……ポインポインの巨乳でっか……?
ごくり…。まあ…見てみたくないといったら嘘になる。
揉んで…いやいや……なに言っちゃってんだ。揉むって揉むって…。
俺はぷるぷると首を振る。
「それはオプションってことでいいかい?」
「はいっ」
オプションって…いくらするんだよおお!
高いぞ!ぼられるぞ!
「私……持田くん……ううん、なんでもないです。
頑張ります!」
「私もやってもらおうかな…」
杏奈がぼそりとつぶやく。
運よく、大石のばあさんは聞こえていなかったようだ。
俺は杏奈のそばに寄って、口をふさぐ。
「辞めろ……対抗意識出して言うな」
「対抗意識じゃないもん。にいにが巨乳好きって言ったから…杏奈も」
「いいからいいから…お前はそのままでいいんだ」
「でも……」
「でも…も…へちまもないっ」
「へちま? でも胸大きくなりたいぃ~」
「揉めば大きくなるんだ!!」
「どうやって?」
杏奈が胸をずいっと俺の前に出す。
「揉んでみせてよ!!」
俺は両手を杏奈の胸に乗せてから…はたと気づく。
あれ・・・・俺ってただの変態?
しーん…となっている周囲。俺は杏奈の胸から手をのけると同時に、
「「変態だよ!! やっぱりあの先生、変態なんだよ」」
「ご、誤解だ……!! ほら、杏奈からも言え!!」
杏奈はツンと向こうを向いている。
「今のはただの兄妹のじゃれあいよねえ? ね、三上さん……じゃなくて持田さん?」
飯村さんが余裕の笑みで、杏奈に問いかける。
「三上さんのお母様が、持田くんのお父様と再婚されて、ご家族になったんでしょ?」
「えーそうなの?」とざわめく外野たち。
胸の前で腕を組んで、笑う飯村さん。
今までの……飯村さんの印象とは違っている。
「負けないから…」
「のぞむところよ…」
かくして、アイドル対決が……幕を開ける!!
にしたって、飯村さんはなんでここまで杏奈を敵対視するのだろうか…。
俺にはさっぱりわからん…。




