⑤-3
小走りで学校に向かう俺たち。
智毅がボソボソと何かを言ってきた。
「んあ? もっと大きい声で言えよ」
ボリュームのつまみを上げるように智毅の声が大きくなった。
「だから……最近の瞬って、雰囲気が変わった気がするって言ったんだよ!」
「……そうか?」
「なんか男くさくなってきた。昔はあんな……首絞めるような野蛮なことはしなかったのにサ。それに……さっきだって赤西と話してただろ。俺と住む世界が違くなっちゃったのかと思って、さびしくなったよ」
下を向いて拗ねている様子の智毅。
俺は頭をかきながら、どういったもんかな~と悩む。
いやいや、赤西とは相変わらず相容れないぞと言うべきか。
第一、俺はあんなに自信満々にマウンティングはできないぞ。
それと…男くさくなってきた……ていうのは、よく俺にはわからない。
つまりイカ臭いってことか? やだな、それ。
「妹ができたからだと思うよ。
守るべき存在ができたというか? だから、俺にもともと眠ってたオスの本能がめらめらと燃えてき」
「違う!!」
俺の話をぶったぎって、智毅がにらみつけた。
「正直に言えよ! 彼女ができたんだろ!! 去年のあの合コンの後あたりから瞬、おかしくなったよ!!
ぜったい杏奈ちゃんじゃない女が、お前のこと……好きとかなんとか言ったんだろ!!」
ギクッ。鋭いな……
俺は思わず目が泳いでしまう。
「瞬は昔からいいことがあると、なにもないところでスキップする癖があるんだ! お前は年末年始から、そう……100回以上はスキップしてるんだよ!!」
やだな、それ(泣)
智毅とは中学のときから知っている仲だ。高校から、同じクラスになってよくつるむようになった。だから、俺のことをよく知る人物であることは確かで……。
それに、俺にとっても智毅は大事な友達であるわけで……。
そうなると、正直にいうべきだという結論に落ち着いた。
嘘偽りなく、ももてぃんという年上の彼女の存在をいうべきなんだろう!!
よし!!言おう!!
「そうだ。俺には彼女ができた! バレンタインにはキスもした!」
あ、さっそく嘘ついちゃった……てへぺろ。
「キスっ!! わ~」
智毅が両手を口にあてて、きゃいきゃいと興奮している。
だからその「萌えっこ」の影響はやめろって!!
「そうか! 瞬。お前もついに大人の階段のぼっちゃったか」
「そ、そうだよ。お前もリリカさんばっかじゃなくて、生身の人間の女の子とだな……」
「俺、キス苦手なんだよね~」
「キス苦手ってな、そういうワガママを……って、智毅なにおまえ、キスしたことあんの?」
「うん」
「に、ににに、人間と? 犬とか猫とかじゃないよな?」
「しっつれいだな~。瞬。ぷんすかぷんぷんだぞ! 中学んとき、まあ、俗に言う家庭教師のお姉さまと……くふふ。まあ……禁断の恋だよな……」
俺はその場に崩れ落ちる。
ま、まさか……魔法使い一直線仲間(いわゆる童○)だと思ってた智毅が……。
中学に初体験してたとは……。
「そこからだな、俺の年上属性は。年上の女の方が優しいぜ。ときどき、可愛いしな。まあ……リリカさん以上のひとは現れないかもって、最近は軽く絶望してる。なんでも完璧なんだもん、リリカは」
うなだれる智毅。
それ、俺のセリフなんだけど!!リリカさんのところを、ももてぃんに変えて、そのまま智毅に言いたかったことなんだけど!!
「キスはさ、唇にちゅっがいいよな。舌入れたりとかしたくないわ。ぐちゃぐちゃ口の中で舌が動くなんて、気持ち悪かったよ。アッチの方も、なんかすべてがあっと言うまで、よくわかんなかった」
はい……話が高度すぎて、ついていけてませんが何か?
俺の彼女はね…キスをすると1万円とられちゃうって言ったら、智毅笑ってくれるかな……。S○Xすると、魔法がとけちゃうから借金返し終えるまではできないっていったら、智毅……笑って。
あははは…あ、俺が笑っちゃった。
「とにかく、おめでとう! いろいろ聞きたいけど、また今度話してくれよな。それか、会わせてよ。お前に彼女とか……まじ…嬉しいし」
智毅がぐずぐずとし始めた。
「瞬、お前いい奴だもん。お前の良さがわかってくれる女の子ができて、俺も嬉しいよ」
智毅……。ありがとう。お前も本当にいい奴だ。
「だから……俺にも紹介してな。というか一緒に静蘭で……教育実習しような」
「……ああ……」
最後はなんだか、丸めこまれたような気がしないでもないが、とりあえず返事しておいた。
静蘭でなんて…教育実習できるわけない。俺の成績もアカンし、いろいろ…その他いろいろで絶対ひっかかる。
面接でも「できません」といおう。俺には県立あさひやま高校が待ってるのだから!
大学の正門に着く。
ゼミ開始前5分前。
今度こそ走って、熊谷ゼミの教室に向かった。




