⑤-1
あのバレンタインの夜から、数か月……。
季節はもうすっかり初夏になりつつある。
おれも無事に大学4年生になって、6月の教育実習への準備に追われる毎日だ。
2月15日の朝、どんな風に杏奈と顔を合わせていいものか…とベッドの中でもんもんと考えていた俺に、
「にいにっ!! おっはよ~ん!!」
となにごともなかったように、杏奈が俺にベッドに突進してきた。
「布団にもぐるなあああ~~////」俺は絶叫して、跳ね起きたのだった。
アイツがなにを考えてるのかわからん。
だから俺もそのまま……何も考えないようにして、日々を過ごしている。
あれは、モテない俺に神様がくれた、ミラクルイリュージョン(キッス)!!
だったにちがいない。
俺は99パーセント、うん、そう思っているのだ。
あとの1パーセントは……うん、事故…にちがいない。
ももてぃんとの交際も順調だ。
ただ、新年度ということもあって、OLのほうの仕事が忙しくなってきてしまったらしく、LINEの返事がこないこともしばしばある。
俺の考えとしては、ももてぃんには、OLを辞めてもらい「闇闇ガールズ」の方に専念してほしいところだが……。
なぜなら、早く借金を返してほしいからだ・・・(涙)そうしないと…。
しかしそんなわがままはいえない。
俺が早く教師になって、ももてぃんを養えるまでになったときに初めて言えることなんだと思う。
それに……俺だって、グッズを買って貢献すればいいわけだ。
だけどももてぃんグッズはあらかた買ってしまったし……こんなんじゃいつまでたっても、ももてぃんとできない…。
そんな堂々巡りめいたことを考えて、黒山大学へ向かっていた俺に……。
意外な人物が、後ろから声をかけてきた。
「ハロ~!! もっち~!」
気安く俺の肩に手を置く人物、そう……それは赤西太一だった。
いつものとりまきたちはいない。
なんと返事をしていいものか、口をパクパクしている俺に、
「あ! もっち~じゃなくて、シュンシュンの方がいいかな??」
キランと白い歯を見せて笑いかけてくる赤西。
顔を俺に寄せてくる。
てか、距離近い…ってばぁ//// ってなに照れてんだよ、俺…(絶望)。
「いや……普通に持田でいいんだけど」
「おっけーおっけー! もっち~ね!」
って…人の話きけよ。
「教育実習のガッコ、決まった?!」
「まあ一応、申込みはしたから返事待ちかな……」
「そーなんだ…ふ~ん。てか、静蘭も申込みしてたっしょ?」
静蘭…? ああ、杏奈の学校か…。てか、申込みってなんの話だ?
「静蘭希望者リストに、もっち~の名前書いてあったヨ」
はいぃぃぃ?
「厳しいガッコだからさ、成績とかいろんな書類みて選考して、面接して最終決定すんだってさ。そろそろ……書類選考結果くる頃だよね」
「…………」
呆然としてる俺に、赤西が失笑する。
「もっち~! なんだよ~。リストの一番上に書いちゃって、やる気あるくせに~。自信ないわけ? だいじょうぶだいじょうぶ。
もっち~も…まあイケメンの部類じゃない~。よくわからんけど。
女の子たちの目はシビアだからね~。もっち~よりも俺の方がカッコいいなんて、理解不能なことをいうかもしれないしネ。
あ、俺は全然かっこよくなんてないよ? みんながそう騒ぐだけであってさ。
神様のこと恨むよ(笑) 俺、もっち~みたいに平凡な容姿した平凡な男の子の方が良かったからさ~。もっち~だからいうけどさ、俺じつは騒がれるの苦手」
早口でそうしゃべると、「んじゃ、またあとでな!」と風のように去っていった赤西。
よく聞こえなかったんだが、つまり「俺ってかっこいい!!」ってことだよな。
あそこまで極めると逆にうらやましいくらいだ。
「はあ~」自然にため息がもれる。
それにしても
赤西が最初の方で言っていた「リストの一番上に名前を書いた」って……
なんのことだ??
「瞬……」
呼びかけられて振り向くと、バツの悪そうな顔をした智毅が立っている。




