⑨戦慄
外は、すっかり日が落ちて、夕闇がその深さを増し始めていた。
同時に、少し肌寒さも感じた。
ふと、遠くに家の灯りが見えた。
俺はその灯りを目指し、鈴虫の鳴く狭い農道を、小走りに駆け抜けた。
家に着くと、すぐにドアホンを鳴らす。
ピンポーン!
数秒後、玄関の明かりが点き、廊下を歩く足音が近づいてきた。
「はいはい、どちら様?」
引き戸を開け、出てきたのは四十代の女性だ。
初めて見る俺を見て、少し警戒しているようだ。
俺は「あのぅ、突然、すいません……」と、頭を下げた。
「変な質問なんですけど、今って何年ですか? 2023年ですよね」
女性は無言で、瞬きを繰り返した。
この人、何を言っているの?
そんな心の声が、聴こえてきた。
息苦しい沈黙が続く。
女性は何か考えた後「……今は1995年よ。平成七年。これって、何かのクイズなの?」と言った。
……その言葉に、俺は絶句した。
戦慄が走るとは、この事だ。
ジワリと、背中に冷や汗が滲む。
女性の側に貼ってあるカレンダーがまた、容赦なく俺に追い討ちをかけた。
1995年の物だったからだ。
それでも諦め切れない俺は、道で人を見かける度、今年が何年かを尋ねた。
恐ろしい事に、誰もが「1995年、平成七年」と答えた。
ついでに日付は、10月26日との事。
あぁ……。
俺は血の気が失せて、立ちくらみがした。
鏡がないので分からないが、そうとう青ざめた顔をしているに違いない。
とうとう、暗く冷たい畑道に、へたり込んでしまった。
あり得ない……。
あり得ない……。
そんな事、絶対にあり得ない……。
でも、もしかしたら……本当に28年前にタイムスリップしたのかも……。
そう言えば、あのアナウンサーが言っていたではないか。
「28年前の1995年、未来からタイムスリップしてきた男が、神社の本堂から現れた」と。
その男とは、つまり……。
つづく……




