15.許さない!
こんなもんじゃ済まさないぞ……!
俺は、階段を駆け下りて行く人達を、容赦なく後ろから蹴りつけた。
「うわぁぁぁぁ!」と、悲鳴をあげ、人が物の様に落ちていく。
山になった人の塊を踏み越えると、外へ逃げ出したスタッフ達を追いかけた。
一人残らず、ぶっ飛ばさないと気が済まないのだ。
靴も履かずに外へ飛び出すと、そこには友也がいた。
友也は両手を広げて、俺の前に立ちはだかった。
「お、おい翼! やめろって……」
バシッ!
俺は問答無用で、友也をホウキで、ぶっ叩いた。
「いでぇ!」と左肩を押さえて、地面を転がる友也。
その友也の向こうに、女装したおじさんが見えた。
俺の母に扮していた、滝口社長だ。
……こいつだ!
俺の心を弄んだ上、全国の笑い者にしたのは、こいつなんだ!
絶対に、許せない!
このジジイだけは、許せない!
鋭く睨み付けると、滝口社長は「ひっ!」と、しゃっくりような悲鳴を出し、逃げだした。
俺は滝口社長を、追いかけた。
滝口社長はすぐに息を切らし、こちらに身体を向けた。
もう逃げ切れないと、悟ったのだろう。
「お、おい、栗岡! や、やめろっ! 頼むから落ち着けよ!」
滝口社長は、両手を前にかざして、後ずさりを始めた。
「うるせぇぇぇぇ!!」
俺は怒鳴った。
とうとう、農道の上に尻餅をついて、狼狽する滝口社長。
俺は怒りに任せ、ホウキを振り上げた。
このクソジジイ!
思い知れっ!
俺がホウキで滝口社長を、ぶっ叩こうとした、まさにその時だった。
——翼っ! やめてっ!
背後で、女性の声がした。
どこかで聴いたような、懐かしい声だった。
その瞬間、不思議な事に、俺の身体は石のように硬くなった。
ホウキを振り上げたまま、首だけを動かし、声の主を確認してみる。
そこには、黒いロングコートを風に揺らせる、四十代後半くらいの女性が立っていた。
さっきの声は、この人だ。
女性は強張った顔で、ゆっくりと俺に近づいてくる。
そして、よく通る声で話しかけてきた。
「翼よね……? 大きくなったわね……」
俺は、この人が誰なのか直感的に分かった。
だが、すぐに首を横に振った。
……そんな訳ない。
……そんな事、絶対にあり得ない。
「あ……あんた、誰だよ」
痰が絡んだような、変な声が出た。
女性は瞬きをして、少し首を傾けた。
「私が誰だか、分からない?」
「も……」
もしかして……と言いそうになったが、寸前で飲み込んだ。
「……し、知らねえよ、誰だよっ!」
自分でも予期しない、意地を張った声が出た。
女性は、少し驚いた顔をした後、悲しそうに目を細めた。
「……栗岡真由美。あなたの母よ」
カタンと、持っていたホウキが地面に滑り落ちた。
そんな俺の様子を、尻餅をついたまま、見上げる滝口社長。
スタッフや共演者達も、遠巻きに事の成り行きを見守っているようだ。
つづく……




