表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第二章 紫月花の非情

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/54

紫月花の非情――54

紫月花の非情――54


庁内に非常警報が鳴り響き、

俺は会議室を飛び出して、走っていた。


胸騒ぎが、消えない。

 

理由は分かっているはずなのに、

言葉に出来ない。

 

呼吸が乱れる。

視界が揺れる。

それでも足は止まらない。

 

嫌な予感がする。

 

――遅れるな。

 

誰に言われたわけでもない、


それでも、その言葉だけが、

頭の中で繰り返されていた。


ゲートを越えて、エレベーターのボタンを押す。

ただでさえ、長いエレベーターが妙に長く感じた。

横のモニターを弄ると、フロア直通のエレベーターだけが止まってる。


「チッ……」


並ぶエレベーター全てのボタンを押して、扉が開くと同時に乗り込む。

中のパネルを操作して、非常事態モードに切り替えた。


各階に停止せず、47階で降りると、俺は走って、非常階段を駆け上がった。


間に合ってくれ。



「………っ、ハレッ!」



50と書かれた非常階段の扉を空けた瞬間――


あり得ない、リビングの惨状を見て、


膝から、崩れ落ちた。


聞かなくても、分かる。


ハレが、連れて行かれた。


強引にした結果。


扉が開きかけて、強制的に。


「レイ………」


「ごめん………」


俺に声を掛けてくる二人。


だが、


問い返す気力も沸かない。


「ハレ、…………で、」


「け…………が、ハレ…………」


音が、上手く聞き取れない。


色が、ぼやける。


手の震えが止まらない。


また――


守れ、なかった。




***



俺は立ち上がった。

崩れたままではいられない。


そんなことを考えたわけじゃない。

ただ、身体が勝手に動いていた。

 

直ぐにエレベーターに乗り込み、研究開発部門へ向かう。


奪われたなら、取り返せばいい。

それだけの話だ。

 

15階の連絡ブリッジを走って渡る。

靴音が、やけに大きく響いた。

誰もいないはずの通路が、妙に長く感じる。

 

――遅い。

 

無意識に、足に力が入る。

 

階段を駆け下りる。

手すりを掴み、勢いのまま身体を落とすように降りていく。

 

呼吸が乱れる。

それでも、止まらない。

 

11階。

検査フロア。

 

扉の前まで辿り着いた瞬間、

空気が変わった。

 

いる。

 

分かる。

 

この先に、ハレがいる。

 

俺は迷わず、扉に手を掛けた。

 

「お引き取りください」

 

低い声。

 

視線を向けると、

数名の職員が扉の前に立っていた。

 

道を塞ぐように。

 

意図的に。

 

「退け」

 

自分でも驚くほど、

声は静かだった。

 

だが、空気がわずかに軋む。

 

「レイさんを通さないように命が下ってます」

 

一瞬、思考が止まる。

 

「……誰だ」

 

「………」

 

答えない。

 

目だけで分かる。

 

――言えないんじゃない。

 

言わないだけだ。

 

「誰がハレの検査の許可を出した!」

 

押し殺していた声が、僅かに滲む。

 

それでも、職員は動かない。

 

「長官命令です。」

 

 

――その一言で、全てが止まった。

 

頭の中で、何かが音を立てて崩れる。

 

覆せない。

 

理解してしまう。

 

ここから先は――

 

俺の手の届く場所じゃない。

 

「………っ。」

 

言葉が、出ない。

 

扉に掛けた手に、力が入る。

 

開けられるはずの扉。

 

だが――

 

開けられない。

 

ほんの数歩先にいるはずなのに。


手を伸ばせば、届く距離のはずなのに。


――遠い。


 

俺は、扉から手を離した。

 

奥歯を噛み締める。

握った拳が、僅かに震えていた。

 

……終わっていない。

 

それだけを、確かめるように。

 

俺は、踵を返した。



***



ハレがいなくなって、三日が経った。

 

共同リビングは、妙に広く感じる。

 

いつも座っていたソファが、ぽつんと空いていた。


私はその隣に座って、PCを開く。


庁の空気は変わった。


どこか、殺伐としてて、前みたいな空気は無い。


レイは、あまり喋らない。

元々喋るタイプでは無いけど、

仕事以外はずっと部屋に籠もって何かを調べてる。


でも、前とは違うのは、私やカイが声を掛ければちゃんと返事をする。

余裕が無いからか、前より仕事を振られることも増えた。


もちろん、レイも、カイも私も、ハレを取り戻すことは諦めてない。

カイから村での話のことも聞いた。


その話が事実なら、検査を受ける正当性は理解できる。


でも、引っ掛かる。


今まで、半月に一度。

数時間の検査で済んでいたのに、三日も隔離されたまま。


レイを含む、S級全員が検査フロアには入れない。


扉が開きかけたなら、慎重になるのも分かるけど、


意図的に私達が関わらない様に、


誰かが企んでるのは確実。


最も目ぼしいのは、長官。


だけど――


「はぁ………」


一つ息を吐いて、思考を整える。


キーボードを叩く音が響く。


考えろ、止まるな。


今は出来ることをやる時だ。



***



ハレが連れて行かれてから、一週間が経った。

 

二日前。

ハレが目を覚ましたと、報告を受けた。

 

霊力の波は安定している。

本来なら、もう外に出ても問題ない数値。

 

――それなのに。

 

ハレは、出てこない。

 

レイも、カイも、私も。

検査フロアへ足を運んだ。

 

分かっていた。

 

それでも、行かずにはいられなかった。

 

だが――

 

やはり、ハレに会うことは出来なかった。



そして、今日。

 

私達三人は――

 

長官の元へ向かう。

 

ハレを、取り戻すために。



***



長官室の前。

 

重たい扉の前に、三人並んで立つ。

誰も、口を開かない。

分かっている。

 

ここを越えれば――

 

もう、引き返せない。

 

「……行くぞ」

 

レイの声は、低かった。

 

短く、頷く。

私達は、扉を開けた。


部屋に入った瞬間、空気が変わった。

 

広い室内。

整えられた机。

その奥に、長官は座っていた。

 

こちらを見るでもなく、

ただ、書類に目を落としている。

 

「……来たか」


「ハレを解放しろ」

 

間を置かず、レイが言った。

 

空気が、凍る。


「――却下だ」

 

即答だった。

一切の迷いも、感情もない。

ただの、事実のように。


「現状、彼女は最も危険な存在だ」


「なん、だと……」

 

レイの声が、低く落ちる。


 

「一度でも完全に開けば、この国の霊核は消滅する。理解出来るはずだ」



レイは引かない。



「だから閉じ込めるのか、人として扱うこともせずに」



だが、長官は動じない。



「これは、必要な選択だ。一人を取るか、国を取るか」



世界よりハレを取るレイと、

個人より、国を取る長官。


真逆とも取れる価値観。

交渉の余地はない。



レイは、一つ息を吐いた。

 

その動作が、やけに静かだった。

感情を押し殺すための呼吸。

そう分かるくらいには、今の空気は張り詰めていた。

 


「生活の保証。ある程度の自由。それを俺は条件に出した筈だが」

 


長官の眉が、僅かに動く。

その一瞬の反応を、私は見逃さなかった。

 

――届いている。

 

何の話かは分からない。

でも、レイは確実に、長官の“想定の外”を突いている。

長官は手にしていた資料を閉じ、机に置いた。

 

その音が、小さく響く。

ゆっくりと、視線が上がり、

そして、真っ直ぐにレイを捉えた。

 

空気が、変わる。

さっきまでの受けの姿勢ではない。

 

――来る。

 

「レイ、君に三つの条件を出そう。返答次第では即彼女を解放する」

 

その声音に、迷いはなかった。

最初から、この流れを用意していたかのように。

 

「なんだ」

 

レイもまた、一切揺れない。

 

「一つ、常祈戸村の破壊」

 

「はぁ?村を破壊しろって!?」

 

カイが思わず声を上げる。

 

当然だ。

 

あまりにも、現実離れした条件。

 

だが――

 

長官は、まるで気にしていなかった。

 

「君達が村に出向いたのは報告を受けている。聞いたんだろう?

我々と村との関係を。君達が村側では無いと証明して欲しい。」

 

淡々とした口調。

 

だが、その内容は重い。

試している。


レイを。

そして、私達全員が――

どこまで捨てられるかを。

 

長官は続ける。


 

「二つ目は、君には総監を降りてもらう。村を破壊したら、そのままそこに身を置くこと、必要な物品の購入以外は、出ることを許さない。」


 

「そんなっ…………」


 

思わず、声が漏れた。

 

それはもう、処分。

 

隔離と、何も変わらない。


 

「そして三つ目は、レイ、君は彼女との接近を一切禁じる。」

 


空気が、止まった。

 

一番、来てほしくなかった言葉。

 


「なぜだ」

 


レイの声は、低い。

 

押し殺したままの、感情が滲んでいた。

 


「君達は、距離が近すぎる。これまで君達の問題にどれだけ我々が振り回されて来たか。これは私を含めた幹部陣ほぼ全員の意見だ」


 

正論。

だからこそ、反論が難しい。


 

「ちょっと酷すぎないか?」

 


カイが食い下がる。

 

だが――

 


「そうかな?」


 

長官は、僅かに口元を緩めた。

その表情に、嫌な予感が走る。

 

「もし、どうしてもと言うなら………。レイとハレ。

2人で首輪を付けていた頃に、戻ると言うことはどうかな?」


 

その一言で、空気が凍り付いた。

 

――最低だ。

 

過去を、抉る。

それを、選択肢として提示する。


レイは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

 

それでも、

 

「………分かった。条件を飲む」

 

レイは、答えた。

迷いなく。

まるで、最初から決めていたかのように。


 

「レイっ!!」

 

「お前っ!正気か!?」

 


カイと声が重なる。

 

だが、レイは振り返らない。

 


「だから即、ハレを解放しろ」


 

その視線は、長官だけを見ていた。

 


「分かったよ。今晩くらいは、許してあげようか」

 

誰も、すぐには言葉を返せなかった。


軽く言う。

まるで、施しのように。

 

その言葉に――


戻れない場所まで来たと、理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ