大切なもの(3)
…
ログインすると、ミラージュワールドのセーブポイントに現れる。現実世界からログインするときは、どこからでも可能だが、逆にミラージュワールドからログアウトするときは、基本的にセーブポイントに戻らなくては行けない。
つまり、モンスターにヤラれそうになったからと言って、すぐに現実世界に逃げるというのは不可能なのだ。
ユウトはC地区の北の方のセーブポイントに姿を現した。
地区というのは、フィールドの場所の表し方で、現在A地区からJ地区までが確認されている。
ミラージュワールドのフィールドは、現実世界の街の外見を模しており、『ミラーワールド』という言葉がふさわしい。ただし、すべての場所がフィールドになっているわけではない。例えば、同じ街の中でも、北はフィールドになっていても、南はそうではないという場合もある。
ユウトの服装は、高校の制服ではなく、白いシャツに赤み掛かった黒いズボンというに変わっていた。一見するとただの私服だが、防御力を備えた『装備』である。
さっき見たのが本当にモンスターのウルフなら、現実世界の小学校とリンクしているこのあたりのフィールドにウルフタイプのモンスターが居るはずだ。
白い光りを放つセーブポイントから足を踏み出す。
周りを見渡すと、学校の形をしたの建物が目にはいる。
そこに向かって駆け出した。
…
最初の鳴き声が聞こえたのは、学校の敷地内に入ってすぐのことだった。
それと同時に、弓を取り出して、構えるユウト。
「グァ!」
短く吼え、横から狼が走ってくる。ユウトは、それに向かって性格に矢を放った。命中し、狼のHPゲージを2分の1以上減らす。
大きく後ろに跳び、さらに矢を放つ。「ァ!!!」と短い断末魔をあげたあと、狼は消え去った。
だが休む間もなく、校舎の影から同時に2匹の狼が飛び出してくる。
ユウトは素早く矢を放つ。矢はクリティカルヒットし、狼のHPゲージをゼロにしたが、それと同時に、もう一匹が飛び掛ってきた。
迎撃は無理と判断し、狼が跳び上がった直後に、横に大きく跳んだ。
着地と同時に矢を連続で引いて放つ。2本の矢で狼が光りになって消滅する。
完全にそっちに気を取られていた。だから、後ろからこん棒を振りかざしてくる狼男に気がつかなかった。
「!」
咄嗟に目を瞑る、だかその前に、少女の声が響き渡った。
「ブレイズエンド!」
炎の弾は勢い良く狼男にあたり、その体を吹き飛ばした。
ブレイズエンド──炎系魔術の奥義だ。
ユウトは呆然と、狼男が炎に包まれながら光に代わるのを見つめていた。
そこに声の主が歩み寄ってきた。
「ハルカ──」
声の主は、ハルカだった。
「──強化結晶使ったんだから感謝しなさいよね」
…
「何で……お前がここに」
「お前って呼び方止めてよ。ハルカ。ちゃんと名前で呼びなさい」
そう言われて、ようやく我に帰った。
「……先輩。助けてくれたことには礼を言います。助かりました」
「そう」
「でも、先に言っておきます。俺の考えは変わりません」
「──」
ハルカの透き通った目に見つめられると、思わず「ハイ」と言ってしまいそうだ。
「ふーん。まだ言うんだ。でも分かったでしょ? 無関係じゃないのよ。あなたの弟さんが危険に晒されるわ」
「……」
言われずとも理解していた。
だが──次の言葉はまったく予想外だった。
「C地区に『ダンジョン』が現れたわ」
彼女は冷静に、しかしはっきりと事実を告げた。