3.アリスの真実(1)
「ダンジョン……それはホントですか?」
その問いに答えたのはハルカではなく、別の声だった。
「本当よ」
幼く澄み切った声。歩み寄ってくる少女。
昨夜ユウトが助けた少女──アリスだった。
「この目でしっかりと確認した。間違いないわ。分かってるんでしょ? もう無関係じゃないわよ。放って置けば、いずれ小学校にモンスターが現れ、あなたの大事な弟さんを襲うわ」
「……」
ユウトは、拓斗が襲われる場面を想像してしまった。
「ふざけるな! ……あんた達が攻略するんだろ? なら問題ない」
「しないわよ」
ハルカが冷たく想言い放った。
「……なんだって?」
「あなたは弟を守りたいんでしょ? ならあたし達の仲間になれば良い」
「……質問に答えてない。どうして攻略しないんだ?」
「こういう手段は取りたくないけど、あなたの気持ちを変えるためよ」
「何故俺なんだ? ちょっと強いだけだ。他でも良いだろ?」
「あたしも知らないわ。兄さんの命令なのよ」
「兄さん?」
「ええ、ギルドのリーダーよ」
「なら、伝えてくれ。俺は弟を守ることで精一杯だと」
「……ならあたし達の仲間になれば良い。そうすれば弟を守れる。良い? この先モンスターが増えれば、弟が何時までも安全だという保証は無いのよ?」
「どういうことだ? あんた達が倒してくれればそれで解決じゃないか」
「知ってる? ダンジョンにはレベルがあるの。現在確認してるのはレベル1と2。これ何を意味するか分かる? だんだん難しくなっていくのよ。いつか攻略できないダンジョンが現れれば現実世界が襲われる」
「……だけど俺がやる必要は」
「そうね。他のヒトでも良いわ。でもあなたは弟の安全を他人に任せるの?」
「それは……」
「他人に任せるよりは、自分が強くなって守るほうが確実だと思うけど」
そう言い放って、ハルカは踵を返した。
「明日夜7時。ダンジョンの入り口で待っているわ」
そういって、ハルカはセーブポイントに向かっていった。
…
取り残されたユウトとアリスは、近くのベンチに座った。
「調べたんだ。ユウト君のこと」
隣に座るアリスが喋りだした。
「両親が居ないユウトにとっては弟さんが唯一の肉親だもんね」
「……君は何でプレーヤーをやってるんだ? 危険を冒してまで」
隣に座る少女。どうみてもユウトより幼い。それが、何故ゲームクリアのために命を掛けているのかが分からなかった。
「……他にすることが無いから。私……この世界から出られないんだ」
「なんだって?」
この世界から出られない……意味が分からない。
「あたしは偽者。本当のアリスは……もうずっと眠ったままなんだ。病院のベッドで」
「そんな馬鹿な……体が動かないのに、どうしてここにいるんだ?」
「私は、まだアリスが動いてこの世界に居たときの、『残りかす』みたいなものなの」
「それじゃぁ君は……」
「ええ。私はNPCってこと」
アリスは悲しそうに言った。
NPC──ノンプレーヤーキャラクター。
「私は偽者なんだよ。こうしてここに存在している私は偽者。どんなに楽しいと思っても悲しいと思っても、笑っても、泣いても。私は偽者なの」
なんと声を掛ければ良い。そんなのって無いじゃないか。
「偽者だから、他にやることなんて無いんだ」
…
優斗はアリスに慰めの言葉を掛けることは出来ず、ただ『明日まで考える』とだけ言ってミラージュワールドを後にした。
自分が偽者──それはどんな気持ちだろうか。
ミラージュワールドのNPC、例えばアイテムショップの男。彼は自分がNPCだということを自覚はしているが、それについて考えてはない。ただ、店員という役目を与えられ、その範囲内で動くだけだ。
だがアリスは違う。
彼女には喜怒哀楽がある。だけど、結局アリスはアリスの偽者でしかない。
それを自覚しているなんて──俺なら耐えられない。
結局、優斗が眠りに付いたのは、新聞がポストに入れられるころだった。




