女神の願い
女神の像が眩い光を発したかと思うと、安っぽいCGのように色が付き、女神様が動き始めたのだ――。
「そなたが世界を統一し、わたしを目覚めさせた者か。名をなんと申す」
「はい。魔王といいます」
美しい女神の美しい声に魔王様は……両指先までもピンと伸ばして硬直している。
「では、そなたの叶えたい願いを申してみよ」
「はい!」
――やっぱりだ。やっぱり魔王様はこれを狙っていたのだ! 国王も勇者も神父も衛兵騎士も、ここにいる全員が唇を噛み締めて睨んでいる――。
ダッ――!
「魔王と魔王軍を滅ぼしてください――!」
「「――!」」
突然手を上げて勇者が隠れていた玉座の後ろから立ち上がった――! なんてことを言いやがる!
「ブッブー、世界を統一した者の願いじゃないと聞くことはできないのよ。ゴメンね坊や」
「テヘペロ」
坊やと呼ばれて勇者が舌を出す。
「じゃあ、わ、わ、わしを二〇代に若返らせてくれ!」
「いやいや、国王なんかよりも、どうかこの神父であるわしを若返らせて下さい! わしは長年ものあいだ神様に務めてきたんじゃ。よってまだおなごを知らぬ!」
「シャーラップ! 寝言は寝て言ってね」
……女神様は微笑ましい笑顔で毒舌を吐く。
私も「首から上が欲しいです」と叫びそうになったのだが……魔王様に睨まれたからやめておいた。
チワワのような悲しい目で睨まれたから……。
魔王様はガチガチのまま一歩前に歩み出た。
「それではお願いいたします女神様、我ら魔族にも……魔物を生き返らせることができる慈悲の力を授けて下さい――。人間も魔物も命の奪い合いをしなくてもよい争い無き世界を造りたく思い……、
――そのためになら……我が命を差し出すことも辞さぬ覚悟! なにとぞ、お願いいたします!」
え、魔王様が命を差し出す覚悟って……なに?
女神様が……少し赤い頬をして、クネンクネンと体を揺らしている……。
「……やだ、キュンキュンしちゃった……」
「「……」」
「魔王と申しましたね。あなたに教えられました、命の大切さと美しさを……。魔族と人間が共に命の大切さを知り、共に命を奪い合うことを止めれば、生き返る力などはもはや不必要な力となることでしょう。
――人間にのみに与えた「蘇生の力」を奪うことこそが、全ての命を大切にし合うことにつながるのでしょう」
「「そんな無茶な――! おやめください!」」
国王と勇者がそう叫んだ。
「そんなことをしたら、ワシは職を失くしてしまう! どうやって老後を生きていけばいいんじゃ!」
……神父さんは……切実な問題になるのだろうな。知ったことではないが。
「女神様、あんた、それでも女神様かよ!」
口々に文句を言う人間ども……愚かだ。デュラハンは剣を鞘に収めた。
「……わたしの過ちは数千年もの昔、生き返らせる力を人間にのみ与えてしまったこと。その罪滅ぼしに、その力を失くし……わたしも人間になりましょう」
女神様の後光が消えていく……。本気で普通の人間になってしまったのだろう。神父や僧侶から蘇生の能力はすべて無くなり……失業者が続出するのだろう。たぶん。
「さあ、魔王。わたしをどこかに連れていってください」
「……じゃあ……予の魔王城にご案内しましょう」
魔王様の紫色の顔も少し赤い……干した梅のような赤紫色になっている。
「きゃ、嬉しい」
女神がそっと魔王様の腕に腕を絡ませる。開いた口が塞がらなかった……顔から上が無いのに……。
瞬間移動――!
こうして魔王様と元女神様は魔王城へと帰り、命ある限り幸せに暮らしました……。めでたしめでたし……。
あれ、ひょっとして置いてきぼり?
剣を構えた衛兵騎士がずらりと私を取り囲む。
……やれやれ。
「……人間どもよ、一つしかない命を粗末にすることはない。どんなに鍛えられた衛兵騎士が束になってかかって来ようとも、私に傷一つ付けることはできない……。魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンにとってお前達は、
――レベル1のスライムのようなものだ――」
実力の差を悟ったのか、騎士たちは次々に剣を収めた。……人と魔族との戦いは、今終わったのだ。偉大なる魔王様のおかげにより……。
「自己紹介が多いよなあ」
「ああ」
「……」
多くはない。たったの二回だと言いたいぞ――。
「おい、そこの顔なし!」
「……」
いやいや国王さん、「顔なし」とは呼ばないでほしいぞ……。
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