88 家族との決別
手を振り払われたことに、アメリアは茫然としていた。
「アメリア、出て行ってくれないかしら?ここは私の家で、あなたが自由に出入りしていいような場所じゃないのよ」
「お姉様、何を言っているの?私たちは家族よ?ここもアンダーソン家の別邸なわけで……令嬢である私が入っても何の問題もないはずでしょう?」
アメリアはきょとんと首をかしげた。
どうやら本気でシーラの発言の意味がわかっていないようだった。
「私はあなたたちアンダーソン侯爵家の人間とは決別したの。二度と関わることはないわ」
「そ、そんな……お姉様、冗談でしょう!?」
アメリアは驚き、狼狽えた。
シーラを本邸に戻ってこさせたかったアメリアにとって、彼女の言葉はショッキングなものだった。
「お姉様、私たちは血が繋がっている家族なのよ!?どうしてそんな残酷なことが言えるわけ!?」
「家族?家族だと思ったことなんて一度もないでしょう?」
アメリアの嘆きを聞いたところで、シーラの意思は揺らがない。
彼女はローガンを除くアンダーソン家とは決別した。
「私に帰ってきてほしいって言ったわよね?一体誰の意思かしら?お父様?お義母様?」
「誰でもないわ……今日ここへ来たのは、私の独断で……」
誰かがアメリアをけしかけたのかと思ったが、そうではなかったようだ。
ならば、話は早い。
「アメリア、帰ってちょうだい。あなたと話すことは何もないわ」
シーラは邸の騎士を呼ぶと、アメリアをつまみ出すよう命じた。
騎士は彼女の腕を掴み、半ば強引に引きずって行った。彼はローガンの部下であるため、アメリアを丁重に扱うつもりはないようだった。
「お、お姉様!ちょっと待ってよ!話くらい聞いてくれてもいいじゃない!あの日からお父様もお母様も、みんな塞ぎ込んじゃって……私、とっても辛いのよ!お姉様がいなくなってからよ!」
「だからといって、私に帰ってこいと言うの?私があの家でどんな仕打ちを受けていたか知ってるでしょう?」
アメリアもまた、虐待を黙認していた加害者だった。
彼女があの日、真実を言っていれば、シーラがあそこまで辛い思いをすることはなかったかもしれない。
「お姉様……悪かったわ。何でもする、何でもするからお願い……お姉様……!」
「……さよなら、アメリア」
シーラは彼女の謝罪を受け入れることはなく、騎士に引きずられていく妹をじっと眺めていた。
その瞳は、どこか複雑そうだった。
「……終わりね」
シーラはポツリと呟くと、部屋の扉を閉めた。
学園を退学になったアメリアと会うことは二度とない。父や義母ともだ。
彼女は彼女なりに、自分のために生きていく。
***
翌日、アカデミーへ登校したシーラは朝から不快な光景を目にすることとなる。
「やだぁ、アルヴィン様ったらぁ」
「デイジー……君は本当に愛らしいな」
第二王子アルヴィンが、公衆の面前でデイジー・キャンベルの肩を抱いていたのだ。
つい最近まで、そのポジションにいたのはヘンドリックなはずだった。
しかし今はヘンドリックではなく、アルヴィンになっている。
(噂には聞いていたけれど……どうやらかなり仲が深まっていたようね)
最近は生徒会の集いにも行っていないようだった。
そのせいで、ダミアンやサイラスは困り果てている。横にいたダミアンが呆れたように口を開いた。
「アルヴィン、最近はいつもあんな感じなんだ」
「不思議ですね……殿下はああいうことをする人ではないと思っていましたが」
「ああ、俺もあんな愚かな姿は初めて見たよ」
長らく初恋の相手を忘れられなかった彼が次に見つけた愛。
別の相手なら応援してあげられただろうが、他でもないデイジーだった。
(卒業まで時間もないっていうのに……あんなことをしていて大丈夫なのかしら?)
ダミアンと別れたシーラは、アルヴィンの姿に疑念を抱きながらも、教室までの廊下を歩いていた。
その道中、突然彼女は何者かに腕を引かれて空き教室の中へ引きずり込まれた。
「キャッ!」
肩を強い力で掴まれたかと思うと、そのままシーラは壁に背中を押し付けられた。
目を開けると、予想外の人物の顔が視界に入った。
「……ヘンドリック?」
「シーラ、ようやく会えた」
そう言いながら頬を緩ませたのは、シーラの元婚約者であるヘンドリックだった。
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