いち
アルファポリスさんにも投稿しておりますお話になります。
この国の第一王子の立場は微妙である。
正室、つまり王妃になかなか子が授からなかったために、側室を設けたのだが、側室との子が出来てすぐに王妃も身ごもってしまった。
大変おめでたい話であるものの、第一王子の母親が側室であり、また正室の子とは同年ということもあり、次期王位を継ぐ王太子の選別には第二王子を支持すべきか、それとも第一王子を支持すべきか、家臣である貴族たちは悩んだ。
だが第一王子は病弱だった。
寝込みがちの第一王子、しかも側室の子ということもあり、王太子には正室の子、第二王子が指名されるだろうといわれるようになったのだ。
そんな第二王子の形だけの婚約者になったアイリス・エクシロンは、目の前の婚約者、ウィリアム・ディオルの言葉に驚愕のあまり目を見開き、言葉を失っていた。
「俺はエミリーじゃなく、お前が好きなんだ!」
顔を赤く染め、逃がさないとばかりに両手を壁につき、アイリスの逃げ場を塞いだウィリアム第二王子は叫ぶ。
一方アイリスは何故?一体いつから?と疑問符を頭の中に敷き詰めていた。
確かにウィリアムはエミリーに恋をしていた。
権力と能力から婚約者として選ばれたアイリスは、エミリーに一目惚れをしたウィリアムに嫌われていたはずだ。
婚約早々に円満に婚約破棄をするため、第二王子の恋を応援すると約束したアイリスは、第二王子を立派な王子として育てながら健全な友情を育んでいた。
そのはずだった。
決して男女の関係にはなっていない。
そんな雰囲気にだって一度もなったことはない。
アイリスはただ、“断罪される運命の悪役令嬢”にならないために、必死に善行を心がけていただけだ。
それなのに何故、と考える。
返事を求めるウィリアムの熱い視線をアイリスは受けながら、ごくりと唾を飲み込んで慎重に答えた。
◇
私アイリス・エクシロンは人には見えないものが見えていた。
それに気づいたのは2歳の頃だ。
自分の小指にだけ赤い色の糸がなかったことが不思議で、どうして自分にだけ赤い糸がないのかと、嫌だ嫌だと騒いでいた時だった。
私の言葉に不思議そうに首を傾げる大人たち。
『なにいってるの?』『そんなのないよ』と私の言葉を否定する7歳年上の兄たちに、私はやっと自分だけにしか見えていないことを知った。
それからはいわゆるイヤイヤ期も過ぎ去り、“普通”の子供らしく過ごしてきた私は、赤い糸の話もせず、変な子を見るような目で見られることもなかった。
だけど見えるものはどうしようもないわけで、私はついつい人の小指についている赤い糸を観察し、そして赤い糸が何なのか、その正体を導き出した。
赤い糸。
それは結ばれる男女の運命の糸だ。
生憎私のお父様とお母様は赤い糸で結ばれてはいないが、赤い糸の正体を導き出した頃、つまり5歳になった私は二人が政略結婚で結ばれた夫婦だってことを勿論知っている。
それでも二人の中には愛情がちゃんと芽生えているし、二人の娘として生まれた私は不満なんてものはない。
だけど思うのだ。
赤い糸で結ばれた二人を見る機会はあまりないが、それでも全くないわけではない。
運命の赤い糸で結ばれた二人は引き寄せられたかのように巡り合うと、恋をし、そして幸せそうな表情を浮かべる。
そんな様子を私は片手で足りる数ではあったが実際に見てきた。
だからつい、おせっかいを焼くようになった。
「ねぇサリー、あなたベルにきがあるのよね」
「ほぇ!?」
私の言葉に顔を真っ赤に染めた侍女見習いで日頃から私の世話をしているサリーは「え、え」と挙動不審気に目を彷徨わせる。
私はそんなサリーをみてくすりと笑った。
だって面白いし可愛かったのだ。
普段は優しいお姉さんのように私の世話を必死にこなすサリーが、ただ一言、気になっている男性の名前を告げただけで顔を真っ赤に染めることに。
サリーは12歳で私専属の侍女見習いとして働いている。
つまりお兄様たちと同じ年齢ね。
本当はお兄様たちのように学園に通っている歳なのだけれど、サリーは平民の身分で、しかも入学に必要な学費を納めることが出来ないから学園には通うことが出来ない。
え、なんで平民が公爵令嬢の私の侍女見習いとして働いているのかって?
あ、その前に私のことをちゃんと話していなかったわね。
私はエクシロン公爵家の娘でアイリスというの。
つまり公爵令嬢ね。
家族にはアリスという愛称で呼ばれているわ。
私とサリーの出会いは、私がまだ赤い糸がなんなのかわからず一人調査をしているとき、お母様たちと街にお出かけした際に公爵家に伸びる糸に気付いたの。
それからなにかと理由をつけてお兄様たちやお母様と一緒に街に出かけ、そしてサリーにたどり着いたわ。
『このこつれていっていいでしょ!?』『このこがひつようなの!!』と駄々をこねる私の最適案として、侍女として仕えさせることで許された。
ちなみに平民の間では貴族の家で働けることは光栄の極みといわれていることもあり、サリーの両親は幼いサリーが貴族令嬢の私に求められたことを手放しで喜んでいた。
そしてベルという男性は公爵家の庭師として働いている男性だ。
サリーの4つ上の16歳。
少し不愛想だけど、花を愛でるまなざしはとても柔らかいから、優しい人だっていうことは保証するわ。
というより、そもそも家で働く人で悪い人はいないのだけどね。
お母様がちゃんと選別しているから。
そしてベルも私の侍女見習いとして常にそばにいるサリーが気になっているのか、ちらちらと視線をサリーに向けていることも私は知っている。
流石は赤い糸で結ばれた二人ね。
私は真っ赤に顔を染めたサリーにうんうんと頷くと、にこりと微笑んだ。
そして告げる。
「わたし、ぜったいうまくいくとおもうの!ねぇ!こくはくしてみてよ!」




