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【完結】地つなぐ者  作者: 駿河晴星
最終章 変転

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最終章 変転

 船から身を乗り出そうとしたイサセリは、ネホコに頭を押さえつけられた。


「もう少しじっとしてろ」


 港に近づくにつれ、船を出迎える人々の喧騒が増す。


 懐かしいキビの浜辺を目にしたイサセリは胸が熱くなるのを感じた。


「イサセリヒコ様!」


 群衆の中で手を振る女が一人。


 ウメだった。


 小さな男の子の手を引いている。


 船底が砂浜を削る。


 イサセリは船から飛び降りた。


「ウメ!」


 駆け寄ると、ウメは満面の笑みで迎えてくれた。


「おかえりなさい」


「ただいま戻った」


 慕わしい仲間の姿に心癒されていると、足元から視線を感じた。


 ウメの背後に男の子がいた。


 目が合うと、彼はさっと身を隠した。


 イサセリは腰を落とし、話しかけた。


「フジタケ、ちょっとは大きくなったか」


 しかしすぐに、ウメの呆れた声が頭上から降ってくる。


「違いますよ、イサセリヒコ様。この子は次男のナガタケです」


「なんと。もう二人目がいたか」


「相変わらずとぼけた奴だな」


 小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら近づいてきたのは、ワカタケだった。


 彼の後ろには、五つくらいの男の子がぴたりとくっついている。


「父上、この人は?」


「覚えてないか? 伯父のイサセリだ」


「この人が?」


 フジタケはイサセリを値踏みするような目で見つめた後、ワカタケと同じ顔をして笑った。


「母上が言うほど、立派そうじゃないね!」


「まあ!」


 ウメが怒りそうになったのを察したのか、フジタケは船の方へ走って逃げていった。


「お前にそっくりだな」


 イサセリが睨むと、ワカタケは得意げに鼻で笑った。





 数日が過ぎ、イサセリの帰還を耳にしたタケルとトメタマがキビを訪れた。


 イサセリ、ワカタケ、ウメ、タケル、ツァーマ、トメタマ――久しぶりに五人と一匹で火を囲んだ。


 ウメが口火を切った。


「イサセリヒコ様。カン半島はいかがでしたか?」


「すばらしかった。あの高度な技術が渡ってくれば、国はさらに栄えるだろう」


 商人特有の鋭い目つきで、トメタマが尋ねた。


「大陸の品は? もちろん持って帰ってきたんだよね?」


 身を乗り出すトメタマに、タケルが便乗した。


「なんかきれいな櫛とかねえか?」


 タケルはついに妻を娶ったらしい。


 頬が緩んでいる様子を見れば、幸せなのは一目瞭然だった。


 隣でツァーマが催促するように吠えた。


「あ、こいつの相手にもな」


 タケルの補足に、一同はどっと笑った。


 心地良い静寂が広がったあと、ウメが声を上げた。


「しばらくはキビに滞在されるのですか?」


「いや、ネホコと共にヤマトへ行ってみようと思う。マキムクがどう変わっているか見てみたいしな」


 大王となったクニクルは、元いた拠点から南東にあるマキムクの地に連合国家を築いた。


 モモソヒメの神託が示した地であり、ウラやカラヒサとともに六年の歳月をかけて築き上げてきた場所だ。


 今でも国は少しずつ広がりつづけている。


「そうなのですね」


 ウメがわかりやすく肩を落とすと、隣にいたワカタケの表情が歪んだ。


「なんでおまえが落ち込むんだ」


「だって私、ずっと気がかりだったのですよ。大陸の情勢が悪いと聞いていたではありませんか。ただでさえ危険な航海なのに、戦に巻き込まれでもしたらどうしようかと……」


 イサセリは眉を下げた。


「気を揉ませてしまったようだな。すまない。航海は島伝いに進めば意外と安全だったんだ。まあ、ネホコのような熟練の海人と一緒だったからだと思うが」


「漢の国には行った?」


 トメタマはくにに興味津々だった。


「ああ、少しだけ。民衆の不満が沸々と高まっているようだった。やはり、近々大きな反乱が起きそうだ」


 ウメは儚げなため息をついた。


「漢の国のような大国でも、とこしえには続かないのですね」


 ワカタケが薄く笑った。


「マキムクも案外、数年でなくなるかもしれねえぞ」


 偏屈な夫の頬を、ウメがつねる。


「そんなことばかり言って、モモソヒメ様に怒られますよ」


 イサセリは笑い声を漏らした。


 二人のやりとりが愉快だったからではない。


 弟と自分の考えが同じだったからだ。


「隆盛とは儚いものだからな」


 ウメが怪訝な表情を浮かべる。


「イサセリヒコ様までそのようなことを?」


「大王を討ち取った私たちも、いま作り上げている連合国家も、後の世では消えていく存在かもしれない。


 でも、それでいいと思うんだ。栄光には終わりがつきものだと思うから」


「そういうものでしょうか」


 唸るウメの横で、タケルが叫んだ。


「あー、やめようぜ! そんな難しい話。先のことなんてわかんねえよ。今が楽しけりゃそれでいいんじゃねえの? ってことでな!」


 タケルはトメタマの腕を引っ張った。


「酒もらってくる!」


 しばらくして戻ってきた二人は、酒がなみなみと注がれた水瓶を抱えていた。


 長い酒宴になるだろう。


 口元を緩めたイサセリは、仲間一人一人に杯を配った。



                          了

最後までお読みいただきありがとうございました!


イサセリたちの物語はいかがでしたか?

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