7 お茶会
私は女性としての立場で初めてのお茶会に参加することになった。
ニコラス様に招待されたお茶会だ。
前世の記憶が戻るまでは、たまに両親や兄にくっついて参加することもあった。
レベッカと入れ替わってから、お茶会だったり、社交の場に出ることはほとんどなかった。
レベッカは社交に力を入れているわけではなかったのも影響している。
女性として初めて参加のお茶会は緊張する…。
私はアル先輩と一緒に公爵家へ向かう馬車に揺られていた。
2人とも、それなりに服装を整えてきた。
私は緑色のデイドレスに、色味を考えた小物を合わせ、
メガネではなくカチューシャで瞳の色を黒く変えている。
髪色は目立つことを避けるため、いつものように薄茶色に変えている。
アル先輩は、黒いスーツと地味な色の小物で揃えて、
ところどころに差し色は金色を使っていた。
最初、私を見るなり
「今日の風子はかわいいね」と褒められた。
「褒めても何も出ませんよ。
あの…アル先輩もとってもお似合いです」
そう返しておいた。
実際、先輩は“美青年”って感じなんだよね。
本来の私なら、一緒に行動するのも緊張するような相手なのだけど、
中身は元女性だとわかっているから、緊張しないだけで。
女たらしのニコラス様から身を守るためには、今日はアル先輩から離れてはいけない。
気合いを入れ直した。
公爵家は、レベッカの実家の侯爵家よりさらに大きなお屋敷だった。
敷地も広いし、王城から近いなど、立地も良い。
上には上がいるんだなとぼんやり考えてしまう。
広い庭を抜けると、玄関先でニコラス様が出迎えてくれた。
私の事を見つけると、ハッとした様子だったけれど、
すぐに嬉しそうな笑顔を見せた。
「ようこそいらっしゃいました」
自然と手を取られ、手の甲に口付けられた。
私は情けないことに、咄嗟のことに何も反応ができなかった。
王子様っぽいキラキラしたスマイルと、慣れた感じに圧倒されてしまったのだ。
相手は年下なのに、情け無い…。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
アル先輩が一通りの挨拶を済ませ、一緒にその場を離れると、
「レベッカ、大丈夫?
顔、めちゃくちゃ赤いよ?」
そう言ってきた。
はぁ。穴があったら入りたい。
こんなことでは社交界なんてとても無理だよなと思って、
他の女性の招待客をさりげなく観察していると、
同じような対応をされて、やはり皆、顔を赤らめていた。
良かった。私だけじゃないみたいだ。
そして、その後はアル先輩とくっついて回った。
先輩は博識で、話題が豊富だった。
途中でアラン兄様も会場に現れたりして、一緒にいろいろ挨拶に回ったりだとか、
私もレベッカとして、ドラゴンの話題を少し話したりして、
思っていたよりも楽しく過ごすことができた。
心配していたニコラス様とは、ほとんど接触もなかった。
離れたところで女性に囲まれて談笑しているのを見かけた。
私と先輩が中庭に面したテラスで、のんびりしたムードで寛いでいると、
入り口の方でザワザワした声が聞こえてきた。
「王女が…」という声が聞こえてきた。
……王女?
お姉ちゃんが来たのだろうか?
ニコラス様繋がりで?
過去に婚約者だった…ということから…だとしても、
今は公にはなっていないようだし。
そういえば、アル先輩はこの事を知っているのだろうか?
今回のお茶会に参加するときもそのあたりのことは話題にも出なかったけど。
私はアル先輩の様子を見た。
彼は緊張した雰囲気で、真剣になにかを考えていた。
「先輩?」
「ごめん。一緒にいてあげられなくなるかもしれない」
数秒後、会場にアイリス王女が現れた。
出迎えられたのだろうか。
ニコラス様と一緒に部屋の中に入ってきた。
王女は一瞬こちらを確認した後、他の招待客に慣れた雰囲気で軽く挨拶して回る。
その後で私たちに近づいてきて、先輩のことを見つめて言った。
「アルバート様。少々お時間をよろしいでしょうか?」
「いいですよ」
お姉ちゃんは微笑みを浮かべていたけれど、
なんだか迫力があって怖い感じに思えてしまった。
「あの、王女様…?」
私は勇気を出して声をかけた。
「今は遠慮してもらえるかしら?
説明はまた次の機会にします」
アル先輩は、私の肩をポンポン叩いて、
王女と一緒に中庭の方面に去って行った。
どうしよう。
1人になってしまった。
室内を見ると、ニコラス様と目が合ってしまった。
ああいう目を知ってる。
明らかにこちらを狙っている。
私はなるべく自然に見えるように、中庭の方に抜け出した。
壁際の誰もいない場所で認識阻害魔法を発動させてその場を離れたのだった。




