58 ベンジャミンさん
私は、王都の伯爵邸での一室で、クロウに迫られてしまった。
ちょっとどうなってもいいかな…
なんて思ってしまった自分にショックを受けていると、
カチャっと鍵が開くような音がして、部屋の扉が開いた。
「兄さんやめて。
風子が困ってるでしょ」
ベンジャミンさんだった。
なんだかわからないけど、助かった。
「兄の暴走を止めるのも弟の役割よね〜」
今日のベンジャミンさんは、黒髪のクロウとは対象的に、
銀髪で眼帯をし、サラサラした前髪の間から青い瞳を覗かせていた。
髪色は、変化の指輪で簡単に変えられる。
おしゃれで色々な色に変えているのだ。
クロウは私から身体を離した。
「ありがとうございます」
今日も麗しいベンジャミンさんに窮地を救われ、私は感激した。
ベンジャミンさんはオーラの弱い私には興味はない。
でも、私のことは記憶の復元を依頼した依頼者として気にかけてくれていて、
また、私がどれだけ美しいものを見る目で彼を見ても気にしないので
(むしろ嬉しい様子なので)
こちらも遠慮しないことにしている。
「あら、いいのよ。
私の与えた情報のせいでもあるんでしょ?」
「会話を聞いてたんですか?」
「まぁね〜」
魔法で盗聴していたらしい。
でも助かったから気にしないでおこう。
クロウが部屋を出ていき、ベンジャミンさんと2人になった。
「ああ見えて、兄さんはたぶん私が止めるってわかってたと思うわよ。
魔力はないけど、人の気配を察知する能力はあるのよね。
私が近くにいるのも気づいてたはずよ。
とにかく、あなたにレベッカとして存在してて欲しいんでしょう。
男としてではなく、ね」
そうか…本気で迫ったのではなく、
恋愛の舞台から降りるなという警告のようなものだったのかな。
(でも、私は降りる気満々ですけど)
「そういえば、ベンジャミンさんはレベッカとは仲がいいんですか?」
「仲がいいというよりも、
実は私もレベッカと頻繁に入れ替わっていた時期が少しあったわね。
あの頃の兄さんは怖かったわ。
噂によると、レベッカに振られた後だったみたいでね」
「そんな時期があったんですか」
「そうよ。
実家は貧乏だからずっといるわけにはいかないし、長兄もいる。
クロウ兄さんの伝手で私も王都に出てきて。
私もレベッカと入れ替わるのは早々に辞めて、一緒に魔物討伐に出てレベルを上げた。
その後は魔導師団に入ったのよ。
最近は地方を巡っていることが多かったんだけどね。
今回は久々に王都でのんびりしたかな」
しばらくたわいもない会話を楽しんだ。
ベンジャミンさんは男性っぽくなくて、話しやすい人だった。
次の日、アラン兄様とも話をした。
ヒナタとの婚約の件だ。
「婚約を解消したい?」
「はい。いろいろありましたが、やっぱりコリンとして生きたいんです」
「意気込んでるところ悪いが、それは無理だ」
「えっ?」
どうやら、ヒナタの家との繋がりが強すぎて、
今さら結婚しないとは言い出せない状況らしい。
侯爵家から言い出すならまだしも、立場が下であるうちからは言えないそうだ。
なんか、ずっと前にもこういう会話があったような気がする。
「わかりました…」
私はそう言葉で言いつつも、全然納得していなかった。
こうなれば、ヒナタ本人に交渉するしかないと思ったのだった。




