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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第三章 はりぼての理想

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伝言鳥

 私の言葉にアルファンスは頷く。


「悪魔の召喚は、犯罪だ。俺達だけで解決するには手に余る。だからこそ、しかるべき対応をする必要があるだろう、より、適切な相手に頼って」


 しかるべき対応……。適切な、相手……。


「それじゃあ、今回こそ、先生達に相談を……」


「……だから何で、そこで真っ先に相談しようと考えるのが、教師なんだ。まず真っ先に報告すべき相手が、他にいるだろうが」


 そんな呆れた眼で見られても、私には他に誰に相談すべきか分からない。

 学園で起こった事件なら、まず教師に報告するのが一番ではないのか?

 例えそれが権力の濫用だと言われても、他に頼るべき相手なんて……。


「分からないか。……よくよく考えて見ろ。悪魔召喚がまだ憶測に過ぎない今の状況で、まず真っ先に誰に報告するのが適当なのか。真剣に俺達の言葉に耳を傾けてくれて、俺達よりもずっと権力も知識も、視野も持っていて、それでいて万が一憶測が間違っていたとしても、代償を求めるでもなく許しているような存在なんて、他にいないだろう」


「っそんな人がいるのか!?」


「ここまで言っても分からないか。お前は」


 答えられない私にアルファンスは呆れたように大きく溜息を吐いて、回答を口にした。


「……俺達の【親】程、最適な人間はいないだろうが」


 親。……親ってそんな……。


「……君は、お父様に泣きつけと言っているのか」


「まあ、フェルド家当主殿の協力が得られるのに越したことはないが、一番報告すべきなのは、俺の親の方だろうな」


「君の親って……現国王じゃないか!! 王様に報告するだなんて、それこそ大事になってしまうよ!!」


「大事にするか否かは……報告を王として受けとめるか、ただの父親として受けとめるかは報告を受けた父上が決めることだ。……俺達じゃない」


「だけどっ……」


「俺は、父上を尊敬している。父上は王としても父としても立派な方だと胸を張って言える。……父上ならば公私を混同することなく、一番相応しい判断を下してくれる筈だ。俺達よりもよほどな」


 そう言ってアルファンスはポケットから、紙製の魔具を取り出した。

 アルファンスはベッドの傍らで器用に魔具を折りたたんで、鳥の形を作ると、息を吹きかけて宙に飛ばした。

 紙製の魔具は途端に、生きている鳥のように羽ばたいて、アルファンスの鼻先の辺りで止まった。


「【伝書鳥】だ。伝言を届けたい相手と、伝えたいメッセージを口にすれば、当人だけに言葉を運んでくれる。……俺の父親で、現国王であるエドモンド・シュデルゼンに伝言を頼む」


 アルファンスの言葉に反応したかのように、伝書鳥は白く光りだした。


「……父上。アルファンスです。学園内に、悪魔を召喚したと推測される事件が発生したので報告します。被害者の名前は、マーリーン・ベルモッド。俺と同学年の生徒で、婚約者であるレイリアの親友である女です。この三日間で、飼い犬の死、領地の豪雨被害、地震による親友レイリアの怪我と言った三つの不幸に見舞われており、その度右手の甲に逆五芒星を象っているのではないかと思われる傷のようなものが一本ずつ増えていったということです。本日は彼女の手は確認出来ていませんが、レイリアの報告によれば最初の不幸の前に既に一本線が浮かび上がっていたということなので、恐らく現時点では傷は四本。明日、ベルモッド嬢が何らかの不幸に見舞われれば、逆五芒星が完成すると思われます。至急の対応が必要です。明朝までに、俺とレイリアに今回の事件の調査権限を付与すると共に、その旨を学園側に伝えて下さい。相応しい人物を派遣して頂いても結構ですが、時間的猶予と、犯人に王家が動いていることを気付かせたくないことを考えると、やはり俺達が動くのが得策かと思われます。至急ご回答お願いします」


 伝言を口にしたアルファンスが再び伝書鳥に息を吐きかけると、伝書鳥の纏っている光は今度は金色に変わった。

 そのまま伝書鳥は光の中に呑まれるようにして、一瞬で姿を消した。


「……これで、よし。長くても一時間も待てば、父上に伝言が届くはずだ」


「………」


「レイリア。お前も親に連絡をしておけ。織り方は分かるか?」


 アルファンスの手順を見ていたし、何度か伝言鳥は使ったことがあるから、やり方は分かる。……だけど、差し出された魔具を受け取ることにはどうしても、躊躇いがあった。

 ……お父様を巻き込んで、本当に良いのだろうか。

 ただでさえ不肖の娘の私は、自分の意志を貫きたいが為に、お父様には今まで散々迷惑を掛けて来た。それなのに、また迷惑を掛けることになってしまうのではないか。

 そんな思いが、どうしても頭に過ぎってしまった。


「……レイリア。誰にも迷惑をかけず、一人ですべてを解決出来るのは最も理想的で格好良いかもしれない。だが出来ないのだろう? そんなこと。……だったら、頼れる相手は、全て頼るべきだ。あの赤毛の女を救うことを第一に考えるなら、誰かを巻き込むことに躊躇するな」


 アルファンスの言葉に、ハッとした。

 ……そうだ。今、何より考えるべきなのは、マーリーンを救うことだ。

 その為には少しでも多くの協力が必要だ。

 迷惑だとか、そんなことを考えていたら、手遅れになってしまう。

 躊躇っている時間なんかない。

 私は慌てて伝書鳥を織ると、息を吹きかけて飛ばした。


「……私の父親であり、フェルド家当主であるレイモンド・フェルドに伝言を」


 伝書鳥はアルファンスの時と同じ光を宿して光り出した。


「……お父様。レイリアです。既に学園から報告が行っているかもしれませんが、地震によって倒れた本棚の下敷きになり、現在治癒結界による治療を受けています。明日の朝にはまた歩けるようになるとのことです。……つきまして、今回の地震は悪魔の呪いが原因であるのではないかという可能性が出てきました。呪われているのは、私の友人であるマーリーンで、彼女の周りで不幸が起こる度に、手に逆五芒星を作っていると思われる傷が、一本ずつ浮かび上がっています。現在、婚約者であるアルファンスが、エドモンド陛下に調査権限の要請を行っています。もしお父様も、悪魔のことや、悪魔の呪いについて何かご存じであれば、教えて下さい。……私は、マーリーンを救いたいのです」


 再び息を吹きかけると、私の伝言鳥もまた、金色に輝いて消えて行った。


「……これで、いい。あとは、返答を待つだけだ。お前は明日の朝までは、ここで怪我を治すことだけに専念していろ」


「分かった。……ありがとう。アルファンス。君のおかげで、一歩進めたよ。君がいなければ、私は何も出来なかった」


 もしアルファンスが来てくれなければ、きっと私は今もまだ、何も出来ないまま一人でただ悩んでいた。

 ただただ迫り来る時間制限に脅えながら、明日を迎えていたかもしれない。

 まだ何も解決はしていないけど、今こうして少しだけ安らかな気持ちになれたのは、アルファンスのおかげだ。


「まあな。……お前は俺がいないと、駄目だからな。本当」


 アルファンスは得意げに口端を持ち上げて、目を細めた。


「――仕方ないから、俺が傍にいて助けてやるよ。これからも、ずっと」


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