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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第二章 片想いな対抗心

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交錯するそれぞれの想い

 そのまま控えの場まで下がると、ちょうど決勝の準備をしているアルファンスがいた。


「……試合見てたぞ」


 兜を身に着けながら告げられたアルファンスの言葉に、ちくりと胸が痛んだ。

 武芸大会でこそ、私に勝つと宣言していたアルファンス。

 だけど、私が準決勝で敗退したことで、直接勝負する機会はなくなった。

 元々決勝まで残らず途中で敗退する可能性も大いにあると思っていたし、アルファンスに勝つことを切望しているザイードのことを考えても、これが一番良い結果だったのだと思う。

 だけど、いざアルファンスの前に立つと、真っ直ぐに彼を見ることが出来なかった。

 どうして俺と闘う前に負けたんだ、と責められるかと思った。

 それか、お前の力はこの程度だったのかと馬鹿にされるかと思った。

 もしかしたら、自分の忠告を聞かず手を抜いていたかと疑われるかもしれないとさえも思った。


 けれども、アルファンスはそんな私のネガティブな予想を裏切り、すれ違いざまに、ただ俯く私の頭をぽんぽんと優しく二度はたいただけだった。


「どちらが勝ってもおかしくない、良い試合だった。……ヘルハウンドの件も含めて、後は俺に任せておけ。今はただゆっくり休んでろ」


 思いがけないその態度に驚いて私が顔を上げた時には、既にアルファンスは歩いて先へ行ってしまっていた。

 遠ざかるその背中と足取りには、一切の迷いも感じられなかった。




「――お疲れ様。試合見ていたわ。貴女、とても強いのね。どきどきしたわ」


 急いで武具を外して、試合の場所から一番近い観客席に行くと、ネルラ先生が声を掛けて来た。

 大会の間、ずっとそこでザイードの同行を伺っていたネルラ先生は、青白い顔で無理矢理笑みを作った。


「負けた貴女にこんなことを言うのはひどいかもしれないけれど、ザイード君が勝ってくれて安心したわ。……このまま優勝して、ヘルハウンドに主として認められれば一番良いのだけど」


 だけど、そううまくはいかないわよね……。と消え入りそうな声で続けたネルラ先生の声は震えていた。

 ……やっぱり、ネルラ先生だって、本当は魔力を失いたくないのに無理をしているのだと、改めて実感させられる。


「……ネルラ先生。大丈夫ですよ」


「……え」


「ザイードは、大丈夫です。理性を失って、化け物になったりなんてしません。……アルファンスが、いますから」


 その言葉は本心から出たものだった。

 ザイードは大丈夫だと、今の私には不思議と心からそう思えたのだ。

 だって、アルファンスが俺に任せろと、そう言ったのだ。迷いなく、そう言い切ったんだ。

 だから、私はアルファンスとザイードを信じる。

 ……根拠なんて、何もないけれど。


「……だと、いいわね。そうなることを祈っているわ」


 私の根拠のない太鼓判に、ネルラ先生はただ寂しそうに苦笑するだけだった。




「……アルファンス。ついにこの時が、来たぞ。衆人環視の中でお前を打ち倒せる機会を、俺がどれほど望んでいたか……!!」


 ザイードは大剣を構えながら、私との試合が終了してから変わらない真っ赤な瞳で、アルファンスを睨み付けた。


「お前をこの手で倒す……その為に俺は、危険を承知でヘルハウンドと契約を結んだんだ……!!」


 殺気を露わにするザイードに対し、アルファンスは動じる様子もなく、ただ溜息した。


「やっぱり、以前の剣の授業で敵意を向けていたのは、レイリアじゃなくて、俺の方だったか……」


 アルファンスの言葉に、ザイードは嘲笑するように口端を上げた


「残念だったな……お前はレイリアが決勝に来ることを望んでいたようだったが、俺の方で……っ」


「……正直、そうでもない。……寧ろ俺は、きっと準決勝で勝って決勝に来るのは、お前だろうと思っていたからな」


 アルファンスの言葉が予想外だったのか、ザイードは一瞬虚をつかれたように目を見開いた。

 だが、すぐに眉間に深い皺を刻んで、射抜くような鋭い視線をアルファンスに向ける。


「……戯言を。お前は、確かにあの時、レイリアとの決勝しか想定していなかっただろうが」


「あの時はな。だけど、その後のお前の試合を見て、考えが変わったんだ。……否、違うな」


 アルファンスはこめかみのあたりを掻きながら、少しの間考え込んで、こう言った。


「……俺は、お前が必ず勝つだろうと思っていたわけではないな。……ただ、お前が勝って、最後の勝負をすることが出来ればいいと、そう思っていただけで」


「……っ」


 ザイードの顔に、明らかな狼狽の色が走った。


「レイリアとの勝負は、その気になればこの先いくらでも個人的に機会を設けることが出来るが、お前は違う。互いに最終学年を迎え、こうしてこの学園にいるのも、今年で最後だ。きっとこの試合が、お前と勝負する最後の試合になるだろう。……それを考えたら、決勝にはレイリアよりもお前に残って欲しかった。お前が、ヘルハウンドと契約を結んでまで俺に勝つことを切望しているなら、猶更決着をつけたかった」


「………」


「レイリアには悪いが、お前が勝ってくれて良かったと思う。俺の気持ちからしても……今、お前が立たされている状況からしても」


 ザイードに続きアルファンスもまた剣を構えると、その剣先をザイードに向かって突きつけた。


「――さあ、決着をつけるぞ、ザイード。今までの勝負の集大成となる最後の試合だ。俺はお前が負けを認めるまでは、何があろうとそのまま試合を続行する。とことん、最後まで付き合ってやるよ。……だから、ザイード。けして俺を幻滅させてくれるなよ」


「…………俺は……」


「――それでは、これからザイード・レパーディアと、アルファンス・シュデルゼンによる決勝戦を始める……礼!」


 ザイードが小さく言いかけた言葉は、試合の開始を告げる先生の言葉によってかき消されてしまった。

 即座に身を正して合図に合せて一礼したアルファンスから、一拍遅れてザイードも頭を下げ、そのまま互いに立ち位置についた。


「……ザイード。話は後回しだ。まずは剣と魔法で語ればいい」


 アルファンスの言葉に、ザイードも静かに頷いた。


「……そうだな。今は試合に集中しよう」




「準備は……良さそうだな。……それでは、始め!」


 ――そして、運命の決勝戦が始まった。


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