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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第二章 片想いな対抗心

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戦闘開始

 重い足取りで、控えの場に向かい、武具をしっかりと身に着ける。

 先ほどまで身につけていた筈の武具が、やたら重く感じた。

 ……もし、私の想定が正しいならば、この試合の勝敗事態でヘルハウンドが、ザイードを主に相応しいか否か判断したりはしない筈だ。

 だけど、あくまで想定は想定。間違いなく、そうだとは言えない。

 それにもし想定が正しかったとしても、私が勝利した時点で、ザイードが人ならざるものに変わってしまう可能性が一層高まることも確かだった。

 不安な心を鎮めるように大きく息を吸い込んで、ちょうど私の手の大きさに合うように作られた愛用の剣を握った時、試合を終えたばかりでまだ武具をつけたままのアルファンスが、私の元に駆け足でやって来た。


「……良かった。間に合ったな。……レイリア。お前が先にザイードと闘うことになったのは、お前にとってもザイードにとっても、運が良かったのか、悪かったのか俺には分からない」


 私の複雑な胸の内を知っているアルファンスは、少し荒れた息を整えると、私の顔を真っ直ぐに見据えながら、はっきりとこう口にした。


「だが、俺がお前に言うことは先日と何も変わらない。――ヘルハウンドのことを気にせず、全力でザイードと闘え。手を抜くことは、勝利を求めるザイードに対する侮辱だ。勝負の時は、変な雑念を捨てろ」


 ……やっぱり、アルファンスはぶれないな。

 君がそう口にしてから今までの間、私はずっと悩みながら心も揺れっ放しだったというのに。


「……分かってるさ。アルファンス」


 苦笑と共にそれだけ口にすると、私は苦い表情を隠すように。兜の可動部を下ろして額を覆った。


 分かっている。本当は自分がどうするべきなのか、重々分かってる。

 ……だけど、それでも、どうしても、本当にこれでいいのかと迷ってしまう私がいるんだ。




 フェニに跨って指定の戦闘の場に進むと、私より先に武具をつけ終えたらしいザイードが、大剣を片手に立ちずさんでいた。

 全身を真っ黒な武具で覆ったザイードは、その高い身長と恵まれた体格もあって、恐ろしいまでの威圧感を放っている。

 その背後には、ちょこんと子犬の姿で控えるヘルハウンドの姿もあった。

 ヘルハウンドは通常のように姿を隠すこともなく、はっきりと誰からも目に見える姿のまま爛々と赤い目を光らせていた。

 私は一端フェニの背から降りると、一歩前に出てザイードの目の前に立った。

 兜の隙間から除く黒い瞳が、真っ直ぐに私に注がれる。


「それでは、これからザイード・レパーディアと、レイリア・フェルドの試合を始める……礼!」


 先生の言葉に合せて、同時に深く一礼をした。

 そのまま、再びフェニの元へと戻る。


「それじゃあ、フェニ……この試合も、よろしく頼むよ」


 首元を撫でながらそう口にすると、フェニは私の言葉に応じるように高く嘶いた。

 小さく笑みを浮かべてフェニにお礼を述べると、その背中に飛び乗って、剣を構えた。

 少し離れた場所では、ザイードもまた姿勢を正して大剣を構えていた。


「準備はいいか? ……それでは、始め!!」


 高らかな宣言と共に、試合は始まった。

 私は試合開始と同時に水魔法を発動して、巨大な水の玉をザイードに向かって投げつける。

 だが不意打ちを狙って放った魔法は、同じように開始同時に闇魔法を発動させていたザイードによって作られた、真っ黒い蔦のようなものによって弾かれた。

 ザイードの体を覆うように発生した黒い靄から伸びる三本の蔦は、まるで意志を持っているかのようにうねって、私とフェニの方に向かって来た。


「……【闇蛇】……!? しかも、三匹も……!!」


 迫る蔦を避けながら、必死に頭の中の情報を整理した。

【闇蛇】は、自身の中に宿った魔力を具象化して、生き物のように操る闇魔法の上級魔法だ。

 魔力で出来た蛇は、実体はない為当たっても物理的なダメージを負うこともないが、もしかしたら物理攻撃以上に致命的になりうる嫌な性質を宿している。……精神汚染だ。

 闇蛇は、その身が触れた相手の中に宿る負の感情を引きずりだし、人を虚無に導く。悲しみや苦しみ、憎しみや、恐怖。怒りに、絶望。忘れたつもりで、見ないふりをして来た、心の奥底に眠らせてきた感情を思いだしてしまうと、人間はもうそれしか考えられなくなる。感情に耐えることが精一杯で、身体そのものはすっかり無防備になってしまうのだ。相手が状況も忘れて、湧き上がる感情に苦しんで隙だらけになっている間に、他の攻撃によって相手を打ち倒すと言う、いやな補助系の効果を持った魔法だ。

 向けられる側には、実に恐ろしい魔法ではあるが、上級魔法なだけあって展開も難しく、また持続するのもよほど高い魔力の持ち主でなければ無理だと言われていた。実際ザイード自身、今までは戦いの合間に、ごく短時間……それも一匹だけを使用するくらいしかしていなかった。

 それなのに、こんな開始早々に、しかも三匹も使役してくるだなんて。


「……なるほど……っ。……確かに、普通の成長速度ではありえないくらいに、強くなっているな……」


 これが、ヘルハウンドがザイードに与えた強さの結果なのか。

 そんなことを考えながら、迫りくる闇蛇を避けた。

 実体がない闇蛇は、体にぶつかれば武具くらい簡単に貫いてしまう。

 武具は魔法を軽減させる効果を持っているが、完全に体を貫いてしまったら、それで一体どれくらい精神汚染の進行を制限できるだろうか。

 廃人になったり、狂ったりというところまでは流石にいかないとは思うが、何にせよそれが脅威であることには変わりない。

 フェニの背中に跨りながら、時折風魔法や剣を使って闇蛇の矛先をずらしつつ、次々にに向かってくる闇蛇たちを交わした。

 だけど、私が避けなくてはならないのは三匹の闇蛇だけではなかった。


「どうした、レイリア。かかって来ないのか? 逃げるだけでは俺には勝てないぞ……!! お前がかかってこないのなら、俺から行くぞ……!!」


「……っ」


 闇蛇の間から姿を見せた大剣を、何とか受け止めることに成功した。

 すぐさま顔に向かって飛び込んできた闇蛇を、首を傾けることで何とか寸で回避した。


 三匹の闇蛇と、ザイード自身。実質4つの動きを見極めながら動かないといけないのだ。


 ……正直、手なんか抜かなくても勝てる気がしない!!


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