みえてきた物
えと、魔法陣の光と同じで、青色の光が水の精霊、緑色の光が風の精霊、茶色の光が地の精霊、だよな?
【はじめまして。みずのこ。おはなしできるようになって、うれしい】
【だから、ちのこだって!! ね、そうだよね。ちのこ】
【ちがうよ!! かぜのこだもん!!】
【みずのこ!!】
【ちのこ!!】
【かぜのこ!!】
「あ、その……レイリア! 私はレイリアって名前なんだ。仲が良い人は皆レイって呼ぶよ。だから君達にもレイって呼んで欲しいな!!」
再び私の呼び方で喧嘩を始めた精霊達を宥めるべく、慌てて会話に割り込むと、三つの球体は一瞬動きを止めてから、やがてそれぞれが、ぴょんぴょん跳ねるように動き始めた。
【れい。かぜのこのなまえは、れい】
【ちのこのなまえは、れい。おぼえた】
【れい。かぜのこ。ずっと、れいとはなしたかったんだ。なまえがきけて、うれしい】
……か、かわいいな。
嬉しそうに、舌らずな口調でレイ、レイと呼びかけてくれる下位精霊達に自然と口元が綻んだ。
【れいのこと、みてたよ。ときどき。はなしたかった。でも、はなしかけられなかった】
【ひのだいせいれいさまが、だめだっていうから】
【れいにははなしかけても、すがたをみせてもだめだっていうから、がまんしてたの】
……やっぱり、私が精霊の姿を見られなかったのは、炎の大精霊のせいなのか。
顔の近くに近寄ってくる精霊達を撫でるように、そっと手を出してみた。
光の塊のような下級精霊に触れることは出来なかったが、精霊達はどこかくすぐたったそうな笑い声をあげてふよふよと揺れた。
「そうだったんだ。……それで君達は、どうして急にこうやって私の前に現れて、話掛けてくれたの?」
【わかんない。なんか、きゅうに、もういいっていわれたの】
【はなしたければ、すきにはなしかけていいって、くおるどからきいたの】
【はなしかけていいなら、はなしかけたかったから、きょうれいをみかけて、はなしかけたの】
どうやら、下位精霊達自身も、火の大精霊の心変わりの理由までは知らないようだった。
……フルーリエ先生の所にいるクオルドなら、知っているのかな。今度、ザイードの件も全て片付いて時間があれば、フルーリエ先生の研究室に足を運んで見ようかな。
「そうか。話掛けてくれて、ありがとう。……君達は火の大精霊のことは知っているのかい」
【しっているよ】
【しってるしってる】
【みたことも、あるよ】
【ひのだいせいれいさまは、おこるととてもこわいの】
【おこるととてもこわいけど、すごくかわいいの】
【かわいくて、すごくちっちゃいの】
「小さいって……君達より?」
蛍程の大きさしかない下位精霊が小さいと言うのは、一体どれくらいの大きさなのだろうか?
【ちがうよ。おおきさだけなら、ずっとずっとおおきいよ。だけど、すごくちっちゃいの】
【ちっちゃいから、かわいいの】
【ちっちゃいから、かわいくて、こわいの】
下位の精霊達よりはずっと大きいけど、小さくて、可愛くて、怖い?
何だか、上手く姿が想像が出来ないな。……思っていた大精霊のイメージと、随分違う。
大精霊といえば、もっと威圧感がある、神に近い存在のようなイメージだったのに。
――下位精霊達の言葉をそのまま信じるなら、まるで火の精霊が莫大な力を持つだけの、小さな子どものように思えてしまう。
「……まさか、ね。仮にも大精霊なんだし」
頭に浮かんだおかしな想像を、いったん振り払った。
取りあえず、今は火の大精霊のことは置いておこう。
今は、ザイードのことが先決だ、
「ねえ、君達。もう一つ質問してもいいかな?」
【いいよ。れい。いくらでも、しつもんをして】
【こたえれることなら、なんでもこたえるよ】
【れいがききたいことは、しっていることなら、おしえてあげる】
「ありがとう。……君達は、闇の精霊のことは知っているのかい?」
それぞれの属性には、それぞれの精霊が存在していて、精霊と同じ属性でかつ、その中でも適正がある人間にしか精霊を見ることは出来ない。
だから、そもそも属性適性がある人自体が一族外にはほとんどおらず、なおかつ他属性の人間に自分たちのことを語りたがらない闇属性の人間と、闇の精霊達の関わり方は謎に包まれている。
高位の精霊は、一部の例外を除いては、大抵の同属性の生き物よりも強い力を持っている。
もし間接的にでも闇の高位精霊の助力請うことが出来れば、ヘルハウンドのことも解決できるのではないか。闇属性の素養がない私はともかく、闇属性に適正が強いザイードのことだったら協力してくれるかもしれないし。
そんな期待を込めての質問だった。
【やみのせいれい? しってはいるけど、はなしでしかしらないよ】
【やみのせいれいは、しんしょくするちからがつよすぎて、たぞくせいのせいれいにも、にんげんにも、ちかづかないもの】
【やみのせいれいにちかづけるのは、ひかりのせいれいだけだから。ぼくたちじゃ、むりだよ。ひかりのせいれいはひかりのせいれいで、あんまりちかくにいすぎると、やみのせいれいをよわらせるから、たまにしかちかづかないし】
「……そうか」
返って来た答えは、望みの答えとは程遠く、思わずがっかりと肩を落としてしまった。
……やっぱり、アルファンスの言う通り、ただザイードを信じて待つしかないのかな。
そう思ったところで、ふと精霊達の言葉に引っかかる部分があることに、気が付いた。
「……闇の精霊は、人間にも近づかない……? それは、闇属性の人間に対してもかい?」
【あたりまえだよ。やみのこなんて、ほかのにんげんよりももっとだめだよ】
【ただでさえ、からだのなかのやみがおおいのに、もっとおおくなっちゃったら、こわれちゃうよ】
【にんげんだったら、たえきれないよ。そんなの。それがわかっているから、やみのせいれいも、どれほどすきでも、やみのこにはちかづかないんだよ】
「闇の精霊達は、近づかなくても闇属性の人達のこと好きなんだね」
【そりゃ、そうだよ。おなじぞくせいがつよいにんげんを、せいれいたちはみんなすきだもの】
【しょうかんじゅうと、おなじだよ。すきだから、はなしかけたいとおもうし、やくにたちたいともおもうんだ】
【だから、ぼくは、れいがすきだよ。れいはみずのこだから。れいがこまってるときは、たすけるよ】
【だから、かぜのこだって!! れい。れい。こまったことがあるなら、いつでもいって。たすけるよ】
【だからちのこだって!! れい。れい。たよるなら、まずぼくにたよってね? ゆにこーんだって、そっちのほうがよろこぶよ】
「ははは……ありがとう。みんな」
一斉に顔の辺りに押し避けて来た精霊達に苦笑しながら、私は今聞いた情報を反芻していた。
闇属性ならではの特質と、それ故に闇属性の人々に近づかない闇の精霊。
主と認めた相手だけに力を与えるヘルハウンドと、選ばれなかったものの末路。
……ヘルハウンドに主として認めさせるための条件が、もしかしたら分かったかもしれない。




