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囚われの姫君9

「……全く。俺の嫌がらせの為だけに、ずいぶんと高度な地魔法を展開してくれることだ……っと」


 ディールの背から降りたアルファンスは、伸びてきたゴーレムの手を避けながら、すぐさまその手を魔法で焼き払った。

 焼けたゴーレムの手は、硬化してぼろぼろと零れ落ちたが、すぐに地面の土を吸い寄せるようにして固まり、再び手の形に戻ってしまった。


「やっぱり、上級魔法の使い手を相手にする時は、水属性より地属性の方が面倒だな。……野外なだけに、代理の土の供給が山ほどあるうえ、焼けた部分は硬度を増すことになるからな」


 アルファンスは舌打ちをしながら、次々に火魔法をゴーレムにぶつけた。

 しかしゴーレムはその度に、再生しては、アルファンスを捕まえようと再び襲い掛かって来る。


 一般的に、火属性は水属性に弱いとされているが、ディアンヌとアルファンスの対決からもわかるように、高位魔法の使い手に関しては必ずしもこの法則が適用するとは限らない。

 水が強ければ火は消えるが、火が強ければ水は蒸発する。

 風が強ければ火はふき消されるが、火が強ければ風はさらに火の勢いを強くさせる。

 水は熱によって性質を変えることで液体のままでもその制御を困難にさせることは可能だし、酸素を運ぶ風は火属性の魔法において利用しやすい。

 だが、土は違う。

 土は酸素を遮断して火を消すことができるし、火で焼いても硬くなるだけだ。焼いて硬化させたあと、物理攻撃を加えて粉々にしたとしても、すぐ傍に粘着力がかる別の土があればすぐに結合されてしまう。

 火の高位魔法の使い手をにとって、一番やっかいなのが、実は地の高位魔法の使い手なのだ。


「さあ、アルファンス王子! 今こそ王子様の秘めた聖なる力とやらを発揮して、姫を攫った邪悪な私を倒すと良いさ! 君は王子様なのだから、それくらい簡単だろう? うん?」


 ……属性による有利を確信しながら、ドヤ顔でそんなことを口にするアイン兄上が憎らしい。


 だいたいアルファンスが私の身内に、本気で攻撃を仕掛けられるはずがないだろう……!

 我が兄ながら、本当に大人気ない……!


「……アルファンス。もう、良いよ。アイン兄上の戯れに付き合ってあげなくても良い。ディールも協力してくれるのだし、もうこのまま逃げよう?」


 既にアルファンスは逃げながら、アイン兄上のゴーレムに何種類もの火魔法をぶつけて力量は見せているわけだし、試練にしてももう十分なはずだ。

 結婚式まで、時間もない。

 正式な勝負でもないのだし、ここで引いても問題はないだろう。


「……大丈夫だ。レイリア。心配ない」


 しかし、アルファンスは次々迫ってくるゴーレムの手を避けながら、不敵に笑った。


「もうすぐ、来るはずだから」


 ……来るって……誰が。


「……全く。アルファンス王子。ようやく火魔法による攻撃を諦めたかと思えば、今度は攻撃を避けるだけかい? 逃げるだけなら、体力が尽き次第勝負が終わってしまうよ。--タイムアップが来る前に、もっと君の勇ましいところを見せてくれよ。じゃないと私は……」


「--残念ながら、アイン兄上……既に、タイムアップだ………」


「っ」


 次の瞬間、ゴーレムの巨体がどろりと崩れ落ちた。


「……王子が、ある程度パーツを硬化させていたから、接合している土の水分量を増やすだけで、簡単に崩れたな……ゴーレムがなくなったのだから、これで終わりで良いだろう……兄上」


 短い金色の髪を掻きながら、崩れたゴーレムの後ろから現れた大柄な姿は、よく知っている人のものだった。


「--ヨルド! 何故お前が、ここに!」


 ヨルド兄上……アイン兄上の味方じゃなかったのですか? 


「……王子が、ここに侵入する許可を求めて来たから、俺の所有地が荒らされないよう、着いて来ただけだ……アイン兄上……俺の土地をこれ以上荒らすなら、兄上でも許さない……」


「ちゃんと私は事前にお前に許可を取っただろう! お前だって、レイリアのことに関して思うところがあるから、黙認すると言ったじゃないか!」


「ああ言った……だが、今は事情が違う」


 眉間に皺を寄せ、ただでさえ怖いと評判の顔をさらに険しく歪めたヨルド兄上は、我関せずの状態でアルファンスの攻防を眺めていたディールに視線をやった。


「……炎龍が、王子を乗せてここに来たのなら、話は別だ……ミーアが気にかける森を、焼け野原にさせるわけにはいかない……」


 ヨルド兄上の言葉に、アイン兄上は怪訝そうな表情を浮かべた。


「……何を言っているんだ。ヨルド。プライドが高い炎龍は、守護契約を結んだ主の為でも、よほどのことでなければ動きは……っ!」


「ふん……ようやく気が付いたか」


 勝ち誇った表情を浮かべるアルファンスを、アイン兄上は睨んだ。


「っ何故、今、炎龍が、ここにいる……!?」


「……………」


「--プライドの高い炎龍が、これしきのことで、その背に人を乗せるはずがないのに……っ!!」


「…………あ」



〖……言っておくがアルファンス。今回は応じたが、ゆめゆめ我を気軽に乗り物代わりに使おうだなんて考えるでないぞ。高貴な高位の龍である我を、下級のワイバーンのように扱う気ならば、我は即座に守護契約を破棄するからな〗


 以前ディールは確かに、そう言っていたのだった。





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