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囚われの姫君4

「フェニ、いるかい?」


 駄目元で声を掛けてみたが、案の定返事はない。

 ……流石にフェニの使役は封じられているか。

 あるいは、アルファンスに対する嫌がらせの為に、フェニ自ら協力しているのかもしれないな。基本的に、フェニの思考はアイン兄上に近いから、あり得る話だ。


「フェニの協力なしで脱出か……。となると、扉の鍵は、私の魔法じゃどうやっても解除できなそうだし、やはり窓から出るしかないか」


 アイン兄上は、敵には容赦はないが、何だかんだ言って身内には甘い人だ。

 アルファンスに、私の軟禁場所のヒントを与えたことからもわかるように、こう言う時には必ずどこかしら抜け道を作ってくれている。

 簡単とまでは言わなくても、少し頭を使って体をはれば何とかなるような、そんな抜け道を。


「--ほら、やっぱり。窓は封じられていない。ベランダもあるし、この部屋から脱出すること自体はあまり難しくなさそうだな。……この高さだと、ここは二階か。そのまま飛び降りても、まあ何とかなりそうな高さではあるけれど」


 上手く脱出出来たとしても、うっかり足を骨折してしまったのでは、結婚式が台無しだ。ここは、万全の対策をもって脱出しよう。

 私は窓にかかったカーテンを取り払うと、強化魔法をかけて手すりに結びつけた。カーテンの長さだけでは、とても地面には届かないが、それも想定内だ。


「こう言う時、複数属性でよかったと思うよ。つくづく」


 私は地魔法を唱えて、足元一帯の地面をできるだけ高く隆起させると、カーテンの端をしっかりと掴んだままベランダから身を投げた。

 落下速度を軽減する為に、下から吹き上げる風魔法を唱えることも忘れない。

 着地が可能だと確信すると同時に手を離し、しっかり足がついたのを確認して、ゆっくりと足元の地面を元に戻していく。


「--せっかくのウェディングドレス、無事汚さず済んだな。裾ばかりはどうしようもないけど」


 城に戻りさえすれば、洗浄魔法でどうにかしてくれるとは思うけど、間違いなくとんでもない金額のドレスだろうから、できるだけ綺麗に保っていたい。

 私はドレスの裾を持つと、一刻も早く王宮に戻るべく駆けだした。




「……しかし、走るのは良いけど、闇くもに走ってもな。森の中なんだから、下手したらこれは迷うぞ」


 木が生いしげっていて遠くを見渡せない為、断言はできないが、どうもこの森はなかなかの規模のもののようだ。

 方向も分からないから出口を探すつもりで、森の奥へと進んでしまう可能性もある。


「しかし、この森……どこかでみたいことあるんだよな……多分、私ここに来たことあるぞ」


 まず間違いなく、フェルド家の領地ではない。辺りに生えている植物を考えれば明らかだ。気候も水はけも、全然違う。

 しかし、フェルド家に何の縁もない地を、このような内輪の嫌がらせの為に、アイン兄上が借りるとも思えない。醜聞沙汰な事態でもあるし、トネルと私のすり替えが第三者に知られる可能性があるのはあまりにもリスクが高い。

 となると、考えられる候補地は一つしかない。


「……先日ヨルド兄上が買い取った、セドウィグ家の領地か……!」


 ディアンヌとアーシュが住む、あの森以外、考えられない。




 アーシュ・セドウィグなき後、セドウィグ家は「水」に嫌われた。

 記憶を奪ってなお、ディアンヌはセドウィグ家がアーシュにして来た仕打ちが許せなかったらしい。……自らが長兄ディックを殺めざるを得なかった背景には、セドウィグ家がディックの婚姻を押し進めていた事実があったことも、怒りの一因かもしれない。

 領地の水精霊に悉く嫌われることは、代々水属性を誇りにして来たセドウィグ家にとっては致命的なことでもあった。アーシュのことを忘れてしまっているが故に、原因が分からないからなおさらだ。

 結局彼らは、ディアンヌとは別の上位水精霊の寵愛が深い分家の人間に家督を譲り、代々受け継いだ土地を手放すことにした。

 その際、この森林地域一帯の土地の購入に手を上げたのが、ヨルド兄上だ。


『……ミーアが、この森を、気にしている……いつでも、彼女が、足を運べるようにしたい……』


 年下の可愛らしい新妻に甘いヨルド兄上は、別荘地として、セドウィグ家の屋敷ごと森を買い取った。ストイックな朴念仁で、騎士としての給与も生活費以外ほとんど手を着けていなかったヨルド兄上だけに、フェルド家に頼ることもなく個人資産だけで十分賄えたとのことだ。

 ヨルド兄上は幸いにして水属性が強いし、妻はアーシュの友であるミーアだ。ヨルド兄上達は森の水聖霊にも歓迎され、兄上の長期休暇の度に、元セドウィグ家の屋敷である別荘に足を運んでいると聞いていた。


 ……なんでヨルド兄上まで、アイン兄上に協力しているんですか、とか言いたいのは山々だが、ここが旧セドウィグ家の森だというなら、話は簡単だ。


【……あ、みずのこだ】


【ぼく、しってる。あーしゅのおともだちの、みずのこ】


【あーしゅ、おともだちきて、よろこんでる。わかる】


【みずのこ、しろいね】


【しろくて、ひらひら。きれい】


「……良い所に来てくれたね。君達」


 わらわらと集まって来た水の下位精霊達に、にっこりと微笑みかけた。


「ディアンヌの元へ連れて行ってくれないか? この森の出口について、聞きたいんだ」



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