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囚われの姫君2

「今までアルファンス王子が、レイリアにしたことに対する仕打ちを全て水に流すと交換条件をつけたら、陛下は喜んで協力してくれたよ。全ては息子の不始末が招いたことだから、これくらいの嫌がらせは甘んじるべきだと。……しかし、私も挽回のチャンスも与えず、レイリアの結婚式参加を阻止するほど鬼ではない。アルファンス王子がちゃんと気づきさえすれば、お前を迎えに来られるだけのヒントは置いてきてある」


「アルファンス王子と妹御の優秀さならば、式の予行練習がなしでも問題ないであろうことを踏まえたうえで、奪回するには十分余裕を持った時間を与えていますしね。流石、我が主。お心が広くていらっしゃる」


「トネルの替え玉に気づかないなら、それはそれでよし。気づいても、この場所が分からずお前を連れ戻せないなら、王族として責任を持ってトネルと共に結婚式を遂行してもらう。……どっちにしろ、アルファンス王子が一生忘れられない思い出を作ることになるに違いないな」


「私だって忘れられませんよ! そんな悲し過ぎる結婚式の記憶!」


 どうやら、身内が揃って敵に回っているようだ。この分ならおそらく間違いなく、お父様もアイン兄上に協力しているのだろう。

 他者を巻き込んだ問題に発展しないで済む範囲の見極めが明確で、既に事前に色々手が回されているから、余計たちが悪い。……アルファンスに対する嫌がらせ、一点特化じゃないか! そんなことに無駄に優秀な脳みそを使わないでくれ……!


「それでは。私は今からアルファンス王子と顔を合わせなくてはならないので、これにて失礼しますね。あまり遅くなりますと、アルファンス王子の猶予時間が短くなりますし」


「ああ。頼んだ。トネル。しっかりな」


「御意に。……ああ。その前に妹御」


 トネルは私の顔でにっこりと微笑むと、その場に片膝をついて私の手を取り、手の甲に口づけた。


「……レイリア。君はいつも美しいけれど、今日の君は一段と素敵だ。君の夫となる人が、とても羨ましいよ。……君の幸せを心から祈ってる」


 ………………。


「……私って、そんな軽薄な感じなんですね」


 改めて見ると、何だかとても居たたまれない。トネルの服装が、今の私と全く同じ、ウエディングドレス姿だからなおさらだ。

 しかし……自分自身に甘い言葉を囁かれているというのは、ぞっとしないな。以前闇蛇の中で見た、もう一人の私はこんな気持ちだったのだろうか。


「口調や声は君の物に寄せているけれど、告げた内容自体は私の心からの言葉さ。君は私の主の妹御だけど、私にとっても妹のような存在だからね」


 トネルとアイン兄上と守護契約を結んだのは、私がアルファンスと仮婚約を結んでから、少し後のことだった。

 理想の王子様を目指すべく奮闘する私を、トネルは呆れ混じりの優しい目で見守りながら、色々世話を焼いてくれたものだ。

 私にとってもトネルは、種族は違えど、兄か姉のような(トネルは性別不詳なので、その辺りは何とも言えない)存在だ。


「そう言う言葉は、元の姿の時に言ってもらいたいですね」


「それはまた、ね」


 ……またの機会があるのか。

 そんな突っ込みをする余裕もなく、トネルは一度ウインクすると、くるりと一回転して消えてしまった。転移魔法を展開して城に戻ったのだろう。

 


 そして私とアイン兄上だけが、その場に残された。


「それじゃあ、レイリアは私と二人の時間を堪能しようか! とりあえず、まずは写真撮影だな。私の天使の輝くばかりの晴れ姿を、残すだけ残して置かないと」


 うきうきと映写魔具を用意しはじめたアイン兄上を横目で見ながら、私はこっそり水魔法を展開させ、自身の顔に向かって放った。


「………どい。……様……」


「うん? レイリア。なんか言ったかい?」


「……ひどいです……っ! アイン『お兄様』!………お兄様は、私のことを、お嫌いなのですか……」


 敢えて「兄上」ではなく、「お兄様」と呼びかけながら、先ほど水魔法で作った偽の涙をぼろぼろ零してみせる。


「この日をとても楽しみにしていたのに……こんな仕打ちはあんまりです!」


 私だって、シスコン兄上と伊達に18年過ごしていない。

 ある程度、兄上の操作の仕方くらいわかるさ。……色々と不本意ではあるが。


「……わ、私の天使! そんな顔をしないで。お前に涙は似合わない。どうか笑っておくれ」


 案の定狼狽えはじめたアイン兄上に、次の出方を算段する。

 ……さて、どうやったら、私が城に戻ることを納得してくれるかな。


「……笑えません! こんな状況で笑えるわけないでしょう! ……お兄様は私の夢を壊したんです……」


「レイリア………」


 できるだけ嘘泣きがばれないように、両手の平で顔を覆い隠しながら、首を横に振る。


「私は……私は結婚式で、アインお兄様にエスコートしてもらうことが夢だったのに……!」


 わが国の結婚式では、入場の時に花嫁は男性親族によって、花婿のエスコートしてもらうのが一般的だ。

 男性親族は花嫁の身近な家族だったら誰でも良いことになっているが、一般的には当主である父親であることが多く、特別仲が良い兄弟の場合は次期当主に該当する兄が役目を果たすともある。

 ……私も当然、お父様にお願いするつもりだったし、お父様もそのつもりだったとは思うのだけど。

 アイン兄上がずっとエスコート役をやりたがっていたことは知っているし、この場合背に腹はかえられない。

 アイン兄上にエスコートをお願いしてでも、早く城に戻らせてもらおう。



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