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【フェアリーキス大賞二次通過記念番外編】囚われの姫君1

 女の子なら、誰でも憧れる一生に一度の晴れ舞台。

 純白のドレスを身に纏い、荘厳なチャペルの鐘の音を聞きながら、皆の祝福の中で愛する人と共に永遠を誓う。

 どんな身分の女の子も、その日だけは世界でただ一人のお姫様。

 自分だけの王子様と共に、幸せな未来へと一歩足を踏み出すのだ。




「ああ、美しい……美しいよ。私の天使。お前は世界で一番美しい、私のお姫様だ。さあ、ベールに隠された愛らしい顔を見せておくれ」


「……いい加減にしてください。アイン兄上」


 私は視界を隠す邪魔なベールをたくしあげると、目の前で蕩けるような微笑みを浮かべる長兄を睨みつけた。


「--何故結婚式当日に、私は兄上から軟禁されているのです!? というかここはどこですか!? フェルド家の領地じゃありませんよね!!」


 ようやく迎えた、アルファンスとの結婚式。

 用意されたドレスを身に纏い、王宮専属のメイドに化粧を施してもらって、後は予行演習を済ませれば本番を待つばかり……というタイミングで、突然現れたアイン兄上に眠り魔法を噴射され拉致された。……意味が分からない。


「兄上なんて呼び方はおやめといつも言っているだろう? 昔のように、お兄様と可愛らしく言っておくれ」


「呼び方なんて、今はどうでも良いでしょう!」


「どうでも良いわけないだろう! 父上のことは、お父様と呼ぶ癖に、何で私のことはどれ程懇願しても、お兄様と言ってくれないんだい? 私はもう、悲しくて悲しくて……」


「ヨルド兄上のことだって、お兄様なんて呼んでませんから!」


「良いんだよ。ヨルドは体も精神も、無駄に頑丈だから。だけど私は……」


 ……ああ、もう話が進まない!


「兄上っ、自分がなさっていることの意味を理解されてますか!? これは貴女の妹の結婚式である前に、王族の結婚式です!! それを妨害すると言うのは立派な国家反逆罪、王家を敵に回すことになるのですよ!!」


 アルファンスと私の結婚は、既に国中に通達されている決定事項だ。式には、他国の王族だって招待している。今さら覆す等あり得ない。

 それなのに、まさかアイン兄上が、こんなとち狂った行動に出るなんて。下手したらフェルド家が取り潰されてもおかしくないようなことを、このシスコンを拗らせきってはいるが、優秀な兄がしでかすとは思わなかった。


「--もちろん。わかっているとも」


 しかし、アイン兄上は私の言葉に動じる様子もなく、そのつり上がった目を細めた。


「……トネル。おいで」


「は」


 アイン兄上の言葉に、何もない空間から銀色の狐が現れ、軽やかにその場に着地する。

 兄上が「銀狐」と渾名されるのは、長い銀色の髪と狐とよく似たつり上がった目も関係しているが、彼の守護獣であるトネルの影響も大きい。

 高い知能と魔力を持つ狐の魔物であるトネルは、何を気に入ったのかアイン兄上に心酔していて、いつも従者か執事のように兄上に付き従っている。フェルド家の領地経営の為に色々働いてくれる上に、兄上の妹である私も色々と世話を焼いてくれる、頼りになる守護獣だ。……兄上が暴走さえ、しなければ。


「例のあれを」


「御意」


 トネルはその場で飛び上がり、空中でくるりと一回転したかと思うと、一瞬にして変化した。


「……アイン様。如何でしょう?」


 花嫁衣装を纏った、私の姿に。


「うーむ………やっぱり、レイリアの内側から滲み出る愛らしさまでは、再現できないか。だが、まあ外見だけなら完璧だ。流石トネル。相変わらず見事な変化の術だ」


「私が未熟が故に、妹御の愛らしさを表現しきれていないというのに、身に余るお言葉をありがとうございます。それでは、式は私めに任せて、アイン様は妹御と楽しいお時間をお過ごし下さいませ」


「ああ。ありがとう。任せた」


「……ちょっと待って。ちょっと待って下さい。トネル。アイン兄上」


 状況を理解した私は、一人頭を抱えた。


「貴方達、王族を謀る気ですか………!?」


 花嫁を、守護獣とすり替えるだなんて……王家を侮辱し過ぎだろう……! ばれたらどうするつもりなんだ……!

 

「王族と言うか、正しくはアルファンス王子、お一人です。結果的に他国の王族をも騙すことにはなりますが、他国の方々は妹御を存じませんし、万が一事態が露見しても『国内の反対勢力により花嫁の命が狙われる可能性があった為、替え玉を用意した』と王様自ら釈明してくれることになっております。偽りの犯行予告の手紙も用意しました」


「まあ、トネルの変化能力の高さを考えれば、入れ替わりが露見することはまずあり得ないだろうが。万が一だろうが億が一だろうが国際問題に発展させるわけにはいかない。万全な準備は整えてあるから、安心しておくれ」


「……え? あれ?」


 つまり、これは………。


「私の天使。何も脅えることはないんだよ。……今回のことは、現国王陛下は全てご存知なのだからな」


「寧ろ、かなりのりのりだったかと。妹御の結婚支度をしていたメイドにまで、話を通しておいてくれましたしね」


 --エドモンド陛下ー……っ!!

 貴方の息子の結婚式ですよ!?

 一体何を考えていらっしゃるんですか!?


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