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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
最終章 君と紡ぐ物語

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君の理想になりたい

 その後、すぐにフェルド家の人々が駆けつけてきた為、俺はその場から離れた。

 家族との感動の対面に、俺は邪魔だ。

 そして、しばらく経って、レイリアの体調が完全に快方に向かったという話しを聞いてから、もう一度俺は病室を訪れた。




『……よお』


『あら、貴女。また来てくれたのね。嬉しいわ』


 にこにこと笑うレイリアの顔を見た瞬間、胸がぎゅうぎゅうと苦しくなって、思わず俺はそっぽを向いた。

 顔が、熱い。

 俺はレイリアから視線を背けたまま、持って来ていた見舞いの品を差し出した。


『……これ。見舞いだ』


『わあ。綺麗なお花。ありがとう』


 華やかな赤色が、お前の金色の髪に似合うと思って、採って来たんだ。

 髪に挿してみたら、きっと似合う。


 ……スマートに花を渡してそう言うつもりだったのに、ああ、とかうう、とかそんな唸り声しか出て来ない。

 せっかく散々吟味したうえで、最高級の花束を、手配してもらったのに。


 ……しっかりしろ! 俺! ここで男を上げないで、どうする!

 ただでさえ、最初の好感度最悪だから、少しでもここで挽回しておきたかったのに。


『良い香り……部屋に飾らせてもらうわね』


 レイリアは花の香りを吸い込んでから、ベッドの傍らに置いた。

 ……ああ。何も言えない間に、会話が終わってしまった。

 俺の根性なし……。


『その……改めて、謝罪と礼を言わせてくれ』


 甘い言葉を口にするのを諦めた俺は、せめてもの誠意を示す為、深く頭を下げた。

 どれほど緊張していても、これだけは言っておかないといけない。


『俺が未熟だったせいで、あんな目に遭わせて、本当に悪かった。……今、俺がこうして無傷でいられるのは、お前が庇ってくれたお蔭だ。お前がいなければ、それこそ俺はあの時死んでいたかもしれない。感謝する……否、ありがとう』


 たまたま、レイリアは戻ってこられた。

 だけど、それは本当ただ幸運だっただけだ。

 一歩間違えれば、死んでいてもおかしくなかった。

 ……そして、もしレイリアが俺を庇っていなければ、俺は同じ運命をたどっていた所だったんだ。

 レイリアと、火を止めてくれた下級精霊達には、感謝してもしきれない。

 ……そして同じだけ、謝ってもあやまりきれない。


『……気にしないで。私が好きでしたことだもの。あなたがこうして元気でいてくれるだけで、もう十分だわ』


 そう言ってレイリアは笑ったまま首を横に振った。

 ……本当、どこまでお人良しなんだ。

 また、少し泣きそうになった。

 俺はにじみかけた涙を、首を横にふることで、誤魔化した。


『……なあ。俺、お前に聞きたいことがあったんだ』


『なあに?』


 ……ようやく今、お前に聞ける。


『俺を庇った時に言っていた、王子様がどうの、お姫様がどうのって言葉は、一体どういう意味だったんだ?』


 レイリアは俺の質問に少しだけ目を丸くしたあと、小さく苦笑いを漏らした。


『……私ね、絵本の王子様に憧れているの。勇敢で気高くて、きらきらした王子様に』


 うん。それは、最初会った時に俺に対して抱いていた幻想から、何となく分かっていた。


『絵本の王子様はね、お姫様がピンチになると助けに来てくれるの。だけど、それはね、ほとんどが最後の最後であることが多いんだ』


『最後?』


『うん。それまではね、お姫様が一人で一生懸命、か弱い民を助けようと頑張っているの。で、たくさんたくさんがんばって、国民からも慕われているお姫様に、自分ではどうしようもできない事態が起こった時に初めて、王子様が現れてくれるのよ。頑張ったお姫様だからこそ、王子様が救ってくれて、好きになってくれるの。だから王子様と結ばれるには、その前に自分よりか弱い人たちをたくさん救わないといけないのよ』


 ……王子様が出てくる話って、そんな話だったかな。

 正直女が好むような話はあまり読んだことがないから、知らなかった。


『……まあ。どれほど頑張ったって、本当の意味で私はお姫様になんてなれないのだけどね』


『……どうして? なれば、いいだろう。王子様に愛されるお姫様とやらに』


『貴方は、まだ小さいから分かってないのね。……お姫様っていうのは、王様の娘に生まれなければ、なれないのよ。王様の息子である王子様は、外国の王様の娘であるお姫様としか、結婚しちゃいけないの。……私は一応大貴族の娘だけど、それでも王様の子どもではないから、お姫様を夢見ることしかできないわ』


 ……そんなこと、ないだろう。

 外国との姻戚関係を求められるような状況じゃなければ、フェルド家の娘ならば、王家に嫁ぐ身分としては十分だ。

 国内勢力の強化だと主張すれば、何とでもなる。


 そう。――王子である俺が、求めさえすれば。



『……レイリア。聞いてくれ』


『な、なに?』


 俺は、ベッドに投げ出されていたレイリアの手を、ぎゅっと握りしめた。

 困惑するサファイアの瞳を真っ直ぐに見据える。


『――俺は、もっともっと強くなる……。身長もお前よりずっと高くなって、勉強ももっと頑張って、お前の隣にいるのにふさわしい男に絶対なるから……その時は――』


 今よりもっともっと大人になって、お前の理想の男になれるよう、努力するから。

 その時は――。


『――その時は、俺を、お前の王子様にしてくれないか?』


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