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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
最終章 君と紡ぐ物語

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初めての舞踏会

 父上は定期的に小言を言って来たが、そこまで厳しく俺を諌めはしなかった。

 俺はまだ五歳だったし、そして何より王である父上にはこなさなければならない業務が山積みで、そうそう俺に構っている暇もなかった。

 俺を生んでから体を壊して伏せりがちになっていた母上は、当時は空気の綺麗な田舎で療養しており、俺の教育に携わることはできなかった。

 その事実が、当時の俺の愚かさを一層助長させた。

 俺はどれほど父に諭されようと、碌に魔法のコントロールの訓練をしなかったし、どれほど周囲に眉を顰められようと、王子らしくないと言われる自身の態度を改めようとはしなかった。


 ――そう。あの日、までは。




『……アル。今回招待された舞踏会の主催者は、貴族でありながらも、下手したら他国の王族よりも力がある相手だ。くれぐれも、生意気な態度を取るんじゃないぞ』


『はいはい。分かってますよ。父上。俺だって、時と場合くらいは弁えてます』


『……それができていないから、言っているんだ。挨拶が終わったら、席に座って大人しくしてなさい。くれぐれも、ちょろちょろ一人で動いたりするなよ』


 それは俺にとって、生れて初めて参加する舞踏会だった。

 日が暮れた後に外出すること自体初めてだったし、とうとう自分も社交界デビューかと思ったらわくわくした。

 いかに俺が優秀であるかを、周囲の貴族に思い知らせてやらないとな!

 ……そんな馬鹿なことを、その時は本気で考えていた。



 馬車が辿り着いたのは、王宮にも負けないくらい豪奢で広大な屋敷だった。

 パーティの主催者だと言う、うさん臭い笑みをした優男に(それがフェルド家の当主であり、レイリアの父親であるということを知ったのは、暫く後だ)形式ばった挨拶をした後、俺達は大広間に通された。


『アルファンス王子の為に、特別の席を用意させて頂きました。どうぞ、そちらでお好きな料理をお召し上がっておくつろぎになってください。後で、皆に対して一言ご挨拶をお願いします』


 そう言って指示されたのは、明らかに子供用の隔離席で、俺は内心憤慨した。

 舞踏会に参加しているのは、俺以外は皆成人している者ばかりで、同年代の相手が皆無だからと言って、これはあんまりだ。

 こんな、お子様扱い!


『父上……俺もダンスに!』


『参加しなくていい。というか、お前は碌なダンスのレッスンも受けていないだろう。そこで皆が踊っているのを見て、勉強しなさい』


『なら、せめて、父上と同行させて下さい! 俺だって社交の会話くらいできますよ!』


『駄目だ。アル。お前は絶対失言するからな。――今日お前を連れて来たのは、お前がいかに物知らずで未熟かを理解させる為だ。周囲の洗練された貴族の所作を見て、普段の態度を改めなさい』


 それだけ言うと、父上はさっさと舞踏会主催者の元へ行ってしまった。

 慌てて追いかけようとしたが、すぐに傍にいた給仕の召使によって捕まえられてしまった。


『――くれぐれも、席から離さないよう、エドモンド陛下から言いつけられております』


『俺は王子だぞ! 気安く触るな!』


『ええ。ですが、エドモンド陛下は、国王。貴方様よりさらに御身分が高くていらっしゃる。逆らう訳にはいきません』


 俺の何倍も大きい屈強な召使に真顔でそう言われれば、俺も従うしかなかった。




 そこからの舞踏会は実に退屈極まりないものだった。

 ただ、料理を見ながら、周囲の貴族たちの様子を眺めるだけで他には何もできない。

 貴族達も貴族達で、父上に何か言われたのか、皆遠巻きからたまにこちらを眺めるだけで、けして話しかけてこようとはしない。

 まるで、見世物の動物にでもなったようで、非常に不愉快だった。

 料理は絶品だったが、普段から豪勢な食事に慣れている身としては、今更感動もしない。

 すぐに耐えられなくなった俺は、逃走を図ることにした。


『……ねえ、お腹が痛くて、トイレに行きたいんだ』


『トイレなら、大広間を出てすぐ脇です。案内しましょう』


『いや、トイレくらい自分で行けるよ! もう五歳なんだから』


『しかし、国王陛下から……』


『父上はトイレにまで着いていけなんて言わなかったでしょう? 僕はトイレの前で誰かに立たれると緊張して用が足せないんだ。一人で行かせてよ。すぐに戻ってくるから』


 敢えて口調も子供らしいものに切り替えて、泣きそうな顔で訴える。

 父上や、普段の俺を知る召使にはバレバレの演技であるが、この家の召使には有効だったようだ。


『……5分経って戻らなければ、迎えに行きますからね』


 ――馬鹿め! 騙されたな。


『うん、ありがとう!』


 俺は駆け足で大広間を出ると、まずは一端トイレに入った。


『……えっと。声を再生する魔法は、と』


 いつか機会があれば使おうと覚えていた魔法を、記憶の引き出しから引っ張り出しながら、トイレにかけてみた。


『……よし。成功。さすが、俺。天才』


 これで、外から声を掛けられたら、弱弱しい俺の声で『……お腹が痛くて、まだ出られない……』と再生されるはずだ。

 トイレのドアを開けられれば中にいないことはすぐにばれるが、王族相手にそこまで無礼を踏み切るには、それなりに時間が掛かるはずだから、鍵までは心配しなくていい。


『後は……変装だな』


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