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進むべき道

 絶対だと思っていた前提が崩れた途端、自分の本当の望みが、進むべきが分からなくなった。


 このまま正式に婚約して、結婚する道が正しいのか。

 それとも一度袂を分かつべきなのか。


 そしてその意志決定はきっと、私一人ですべきことでもないのだ。


『まあ、卒業まではまだ少し時間があるから、ゆっくり考えるといいよ。ただ、フェルド家の為に結婚の道を選ぶと言うのなら、それはやめておきなさい。お前の結婚一つで、築き上げた地盤が左右される程、フェルド家は脆弱ではないさ。既にエドモンド陛下にはいくつも恩を売っているから、多少の無礼は許される……というか、今までのことを考えると許さざるをえないんだよ。本当はお前の意志を聞かずに、私から婚約破棄を打診してもいいくらいなのだから。……あの、糞餓鬼。目の前で、私の大事な娘を、また死なせかけやがって。いくら今回は過失がないにしても、いい加減にしろよ』


「……お父様?」


 ……最後に、お父様らしからぬ口汚い呟きが混入した気がするけど、聞き間違いかな。

 伝言鳥が録音をする時に、何か混ざったのかもしれない。

 うん、きっとそうだ。


『まあ、王族の心象はどうでもいいが、私は愛しい娘には嫌われたくない。だから本心でははらわたが煮えくり返っていようが、それでもお前の意志を尊重しよう。……お前はあまり趣味が良くない気がするからね』


「……趣味が良くないは、余計ですよ」


 でも、流石お父様……私のことはよく分かってるな。

 多分お父様が無理矢理婚約破棄したとしても、私はきっと従っただろうけど、それ以降お父様のことを心から好きだとは思えなくなっていただろう。

 どうしようもない心のしこりを、きっと一生抱えることになったに違いない。


 貴族の政略結婚なんて、親から一方的に宛がわれて、子どもの意志なんか尊重されないのが普通なのに、それでもお父様は決定権を私に与えてくれる。

 そんなお父様の娘として生まれてきたことは、心から幸福だと思えた。


『……あ、あと。前回の伝言鳥で吹き込んでいた、幼少期にお前を死なせ掛けた少年のことだけどね』


「あ、やっぱり知っていたんですか!?」


 例の黒髪の少年のことがどうしても気になって、先日彼のことを知っているかという質問を吹き込んでおいたのだ。

 フェルド家パーティに同席したうえに、彼は暫くの間昏睡状態で目を覚まさなかった私の傍にずっとついていたのだ。

 状況を考えて、知らないはずはないと思っていたけど、やっぱり。


「一体、彼は誰なんですか?」


『もちろん私は彼の家も、名前も、よーーーく、知っているよ。嫌になるくらいね。知っているけど……教えてあげない』


「え」


 父親の心情を表すかのように、伝言鳥がぷいと横を向いた。


『大人げないと言われようが、私は十何年も経った今でも、彼のことを結構怒っているんだ。むしろ今の方が、当時よりなお、ね。……万が一彼が、レイリアと結婚なんかしたら、一生陰でいびり倒してやろうと思っているくらいに』


「……いや、さすがに幼少期出会っただけの子と、結婚までは考えてませんが」


『知りたかったら、自分で調べるんだね。……あ、貴族関係に詳しいアルファンス王子に聞いてみたら分かるんじゃないかい? 聞いてごらんよ』


 ……いや、最近のアルファンスはちょっと話しかけづらいムードだし……そもそも、もしかしたら同一人物だったりして、なんて思っているからとても聞きにくいのだけど。

 あれ、お父様がこんな風に言うってことは、やっぱり彼はアルファンスじゃない?

 いや、そんな私の反応すらも、想定内なのか?

 ……駄目だ。増々わからなくなってきた。


『それじゃあ。またそのうち、家にも帰っておいで。お前のお兄様達が、顔を見たがっているからね。……もちろん、私も。事前に日にちを教えてくれれば、それに合わせて休みをとるから』


 それだけ言い残すと伝言鳥は飛び上がって、どこかへ消えてしまった。

 私は大きく溜息をはいて、ベッドに腰を降ろした。


「卒業、かあ……」


 選択の日は、もう近い。




「……なあに、辛気臭い顔で物思いに耽っているのよ」


 マーリンの言葉に、ハッと顔を上げた。


「あれ……授業は?」


「あんたがぼおっとしている間に、とっくに終わったわよ。早く支度しなさい。帰るわよ」


 そう言いながらもマーリーンは、私の前の席に勝手に腰を降ろしていた。

 ……帰るんじゃないのか。


「で、何をそんなに悩んでるのよ」


 マーリーンの素直じゃない優しさに、苦笑いが漏れた。


「ちょっと、卒業後のことを考えていてさ」


「あー……それは確かに憂鬱だわね。でもあんたはもう、その後が決まってるも同然だから、まだいいじゃない。私は卒業したら、お見合いラッシュよ。……もう、想像しただけでうんざりするわ」


 げんなりした表情で、マーリーンは机に突っ伏した。

 両親との関係がぎくしゃくしていたせいで、とても婚約の話なんてする余裕がなかったマーリーンは、上位貴族としては珍しく、未だ婚約者がいない。

 娘を嫁き遅れにさせるわけにはいかないと、かつての仲の悪さも忘れて結託した両親により、次々に見合い写真が送られてきて、うんざりしているらしい。


「……在学中は休日もずっと学園で過ごしたいから、暫く待ってって先延ばしにしているけど……卒業したら地獄だわ」


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