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存在自体が下ネタです。

【だめ、だめだよ!! レイリアは絶対、子どもなんて作っちゃだめだ!! このままずっと純潔の乙女のままで、僕と一緒にいるんだから!! ……いや、レイリアのことは大好きだから、例え人妻になっても傍にいるけど……でも、でも、やっぱりだめえええええ――!! 僕の目が茶色いうちは、絶対そんなむっつり王子に、レイリアをあげない!! 絶対、結婚なんてさせないよ!!】


 私を庇うようにベッドの上に立ち塞がりながら高い声で吼えたのは、ラファと同じくらいの年ごろに見える、真っ白な髪の男の子だった。

 真っ直ぐにアルファンスを睨むその姿は初めて見るものだったが、私にはすぐに彼が誰か理解できた。


「……フェニ?」


 私の言葉に、男の子はハッとしたように振り返る。


 ……ああ。やっぱり、この子はフェニだ。


 彼の額には、フェニと同じ、折れた角の跡があるもの。


「……そっか。フェニ。君は人化することもできたんだね」


【……いや、その。レイリア。これは、その……】


 私の言葉に、何故かフェニは狼狽えて視線を彷徨わせだした。

 ……別に、そんな気にしなくて良いのにな。

 召喚獣と、契約者と言っても、知らないことがあって当然なんだから。

 フェニが人化の能力を隠していた所で、私は別に何とも思わないのに。


【……これは、実は、角が折れた反動で特殊能力が目覚めて……】


「嘘つけ、変態馬。どうせ馬の状態のままでいた方が、近寄って来た女に堂々とセクハラが出来るから、隠していただけだろ。完全に意思疎通が出来ているとばれたら、セクハラ行為をすっとぼけることができなくなるからな」


【―――っ!! ……へ、変態はどっちだよ!! この、むっつり王子!! こんないたいけな少年の姿をしている僕を見てそんな発想しか出てこないなんて、受け取る君の思考回路自体が変態なんだよ!! なんだい、さっきだって、子どもの話をした途端顔を赤らめてさ!! 僕のレイリアで一体どんな厭らしい想像をしたんだい!! このドスケベ!!】


「だ・れ・が、ドスケベだって? 存在自体が下ネタな、エロ馬がっ!! 大体、『僕のレイリア』って、なんだよ! レイリアはお前のものじゃないだろ!!」


【ぼ・く・の、ですー。レイリアは、僕の『契約者』だもの。形だけの婚約者である君なんかより、ずっとはっきりとした絆で結ばれているだよ。僕とレイリアは。誰かさんとは違って!!】


「……なあ、変態馬。知ってるか。西の方では、塊の馬肉の表面だけ焼いた物を薄く切って、香辛料と共に食べる文化があるらしいぞ。ユニコーンの肉は、どんな味がするんだろうな」


【いけ好かない王子を、串刺しにして焼く料理はないのかな? まあ、あったとしても絶対不味いだろうから、誰も食べないだろうけどね。……ああ、そうそう。むっつり王子。言っておくけど、君の炎で僕を簡単に焼けるだなんて思わないでよね。土は火で燃やせば、固くなる。君の炎を浴びたって、僕の土魔法は余計守りが強固になるだけだよ】


 睨み合う二人に苦笑いが漏れる。

 ……人化しても、やっぱり仲が悪いなあ。

 寧ろフェニの舌がすごく回るだけに、人化前より余計悪化している気がする。


「フェニ。……取りあえずアルファンスは放っておいて、こっちおいで」


 ……一瞬アルファンスがすごい顔をした気がするけど、今は置いておこう。


【……ええと、ね。レイリア。……だから、僕はね】


「人化出来ることを言わなかったことは、全然気にしてないよ。良いから、おいで。本当は私から君の方へ行ければいいんだけど、まだ体はあまり動かせないんだ」


 私の言葉に、どこかばつの悪そうな表情で近付いてきた。

 寝転んだ状態のまま手を伸ばして、フェニの体を引き寄せる。


「……レイリア!! おまっ……!!」


 ……アルファンスが何か言っているけど……何か言ってるというか絶句してるけど、うん。今は気にしないでおこう。


 胸元に倒れ込んで来たフェニの体を、そのままぎゅっと強く抱き締めた。


「ありがとう。フェニ……私は、君のおかげで、こうして生きていられるんだ。君が、私の為に、大事な角を投げ打ってくれたお蔭で。本当にありがとう……」


 フェニの角が無ければ、私はここには戻って来れなかった。

 ただ、あの闇の中を闇雲に駆け回って、やがて追いついてきた光の中に呑まれたか、永劫にあそこを彷徨っていたことだろう。

 フェニが自分の角を犠牲にしてくれたから、私はまた生きることが出来る。

 どれ程感謝しても、感謝しきれない。


「……ごめんね。痛かっただろう?」


 角が折れた後を指先で、撫でる。ぼこぼこと削れた切断面がひどく痛々しくて、胸が苦しくなった。


【……ううん。痛くなんてなかったよ。ユニコーンの角には、痛みを感じる神経は走っていないんだ。元々定期的に生え変わるものなんだよ】


「定期的にって……どれくらいだい?」


【そうだね……あと30年もすれば、また元通りになるかな】


 三十年……。

 フェニは笑って言っているが、かなりの歳月だ。

 そんなにも長い間、フェニは角がないまま過ごすことになるのか。……私のせいで。


【気にしないで、レイリア。ユニコーンにとって、角なんて飾りも同然だよ。元々攻撃にだって、滅多に使わないんだ。角があろうがなかろうが、僕が僕であることには何も変わらない。……レイリアの命が救えたのなら、安い代償だよ。こんなの】


「……だけど……」


【……そうだな。どうしてもレイリアが気にするって言うなら、代わりに僕が欲しい物をくれればいいよ。それで、貸し借りなしだ】


「欲しいもの?」


【うん。……レイリアだけが持っているもの】


 ……私だけが持っているもので、フェニにあげられるものなんてあるのだろうか?

 命を救ってもらったのだから、あげられるものなら、何だってあげたいけれど。


 フェニは真剣な表情で私を見据えながら、そっと手を握りしめて言った。


【――レイリアの純けt「ふざけるなっ!! この変態馬がああああああ―――!!!!」


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