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拒否された加護

『……いや、大精霊なら、なおのこと自分の下の者を見てやらないとならないだろ。長なんだから』


【なぬ?】


 意味が、分からん。

 そんな面倒なことは、長老の役目じゃ。

 わらわはただ、火属性で一番強い存在でい続ければいいだけじゃ。

 数多いる、力弱きチビ共のことなんて、気にしてなぞいられるか。


【愛し子は、変な物の考え方をするのう】


『……いや変なのはお前の方……でも、ないのか? 精霊の常識は、人間のそれとはまた違うからな……』


 一人でぶつぶつ悩みだして、変な奴じゃの……じゃが、面白い。

 わらわを大精霊と知ってなお、変わらないこの態度も。


【ふむ……】


『……っ!? 近い!! 離れろ!! 何のつもりだ!?』


【……ただ、顔を覗いただけじゃろ。減るもんでもないのに、いちいち大げさの奴じゃ】


 わらわは振り払うように手を動かす愛し子に眉を顰めた。

 本当失礼な奴じゃな。わらわが寛大でなければ今頃消し炭にしているとこじゃぞ。

 しかしまぁ……なかなか愛い顔をしとるものじゃな。

 きらきら光る金色の髪も、翡翠のような瞳も、けして悪くない……寧ろ、好みじゃ。

 人型の精霊というのは、大抵顔立ちが整っているものじゃが、人間である筈の愛し子も精霊に勝らずとも劣ってもおらぬぞ。

 愛し子だけあり、火属性の適正も十分じゃ。傍にいると、落ち着く。こんな人間は初めてじゃ。


 ……これはなかなかの拾いものかもしれぬな。

 そうと分かれば、話は早い。


【――のう。愛し子よ。主の名前は、何ていうのじゃ】


『……アルファンス・シュゼルデンだ』


【そうか。アルファンス。わらわの名はラファじゃ。特別に、主にはラファと呼び捨てで呼ぶことを許してやろう】


 アルファンス。

 アルファンス・シュゼルデン。

 口の中で今しがた聞いたばかりの名前を呟くと、自然と口端が上がった。


【アルファンスよ……大精霊のわらわを前にしても動じない、その剛毅な態度気に入ったぞ!! 主に、わらわの加護を与えてやろう!!】


 ふふん。火属性の人間なら喉から手が出る程欲しがる、大精霊様の加護じゃ。

 心して受け取れ!!


『……いや。結構だ』


【なぬ!?】


 完全に予想外のアルファンスの反応に、思わず変な声が漏れた。

 い、今アルファンスはなんて言ったのじゃ……?

 わらわの加護を、拒否しなかったか?


【な、何故じゃ!? 大精霊様の加護じゃぞ!? そこか感謝感激して、大喜びで受け取るのが普通じゃろ!!】


『……大精霊を前にしても動じない態度が気に入ったというわりに、大精霊扱いされることにはこだわるんだな。普通に接して欲しいのか、敬って欲しいのか、どっちなんだ』


【……っわ、わらわの心情はどうであれ、わらわが大精霊であることには変わりあるまいっ! だからそれに相応しい態度を取るべきじゃないかと言っているだけじゃ!!】


『ふん……お前が大精霊様なら、俺はこの国の王子で、愛し子だ。お前が人間の階級制度なぞ知らんというのなら、俺も精霊の階級制度なぞ知るか』


 ……ああ、ああ言えばこう言う!!

 本当、生意気な人間じゃの!! 言っているのがアルファンスじゃなければ、この辺り一帯ごと燃やしてる所じゃ!!


【……まあ、良い。……良くはないが、今は主の態度は大目に見ておいてやろう。わらわは、寛大じゃからな。……それで、何で主は、せっかくのわらわの申し出を断ったのじゃ?】


『さっきの下級精霊との話を聞いていたんじゃないのか?……俺は、精霊の加護がなくても、元々人間にしては十分過ぎる程の火属性の適正と魔力を持っているんだ。そんな元々持っているものですら、今の時点では完全には使いこなせていない。そんな状態で、お前の加護なぞ貰っても、意味がないだろ』


 ……そう言えば、そんな話もしてたの。

 じゃがアルファンスの言うことは、やっぱりわらわには良く分かんな。


【魔力も、属性適性も、多ければ多い程良いものじゃろ。実際わらわは生まれ落ちたその瞬間から、他のどの精霊よりも多く持っているが、持て余したことなぞ、一度もないぞ】


『……お前、魔法を使ったことはあるのか』


【……そう言えばあまりないの。魔法なぞ使わずとも、大抵はわらわが纏う大精霊オーラだけで十分じゃったからな。じゃが、前にお遊びで何度か使ったぞ。至極簡単じゃった。ただ魔の前の邪魔のものを焼き尽くすだけじゃからの。わらわの炎に敵うものなんぞ、そうそう存在しておらぬしな】


『ただ強いだけの炎を作るのなら、俺だって出来る。……だが、実際魔法を使う場合に必要なのは、いかにその状況にあった火を作り出せるかだ』


【………?】


『どれほど強い火を放つことができても、それが罪のない人間や、自分の大切な人間まで傷つけるような事態を引き起こすのなら意味がない。確実に敵だけを仕留める火を作り出す為には、鍛錬が不可欠だ』


 そう言ってアルファンスは苦々しい表情で唇を噛んだ。


『生まれながらに与えられたものだけに胡坐をかいていたんじゃ、今度もまた「あいつ」を守れない。……だからこそ、俺は自分で努力しなければならないんだ。あいつを守れるだけの力を、得る為に』


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