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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第四章 子どもが大人に変わる時

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人道というものは

「……いや。何もないぞ。ただ、フェルド家当主殿が、あの後改めてお前の危機管理の甘さについて、諭してくれたのかが気になっただけだ」


 一瞬。一瞬、アルファンスの目に動揺が走ったような気がしたのは気のせいだろうか。

 アルファンスは呆れたような表情で、腕組みをしながら溜息を吐いた。


「常々、レイ様だ、白薔薇の君だ、何だと言われて得意になっているようだけどな。ファン心理というのは、些細なきっかけで他者やお前自身を傷つける攻撃的な感情に変わるんだ。今回のカーミラ・イーリスの件でそのことが身に染みて分かっただろう? 今更その王子様ごっこをやめろとは言わないが、自衛の意識だけは常に持っておけよ。カーミラ・イーリスより思い込みが激しいストーカーだっていないとは限らないんだからな」


「……流石に、もうないとは思いたいけど」


「そんな風に楽観視しているから駄目なんだよ。お前は。世の中、お前が思っている程善人ばかりじゃないぞ。特に、魑魅魍魎蔓延る貴族社会に生きるような人間はな、取り繕うのが上手い分、余計厄介なんだ。お前みたいな甘ちゃんのお人よし、油断するとすぐ騙されていいように使われるぞ。お前は近づく人間はみんな疑ってかかるくらいで、ちょうどいいんだよ」


 アルファンスの言葉に、何も言い返すことが出来ないまま黙り込んだ。

 今回のカーミラの件で、自分の求めるあり方が、いかに子どもじみたものであるのかを身に染みて分かった。

 だから、アルファンスの言っていることもきっと正しいのだろう。

 それでも、やっぱり信じないで後悔するよりも、信じて裏切られる方がいいのではないかと思う私もいて。寄せられる好意は、変に邪推することなく、今まで通り素直な気持ちで受け止めたいとも思ってしまうのだ

 胸に抱く理想と、自らの心の要求と、想定すべきたくさんの可能性。

 考えれば考えるほど、それらが複雑に入り混じり、何が正しいのか分からなくなる。


「……取りあえず、お前は極力一人になるな。誰も傍に人がいない時は、あのいけ好かないユニコーンを召喚して傍に置いておけ。大して役に立つとも思えないが、いないよりはましだろ。そうやって少し気をつけるだけで、防げる事態もあるのだから」


 それだけ言うと、アルファンスは私から背を向けて、さっさと行ってしまった。

 ……本当に、アルファンスはこのことが伝えたくて、私を探していたのかな。

 アルファンスを嫌っていて見掛ける度攻撃を仕掛けようとするフェニを、わざわざ傍に置いておけと言うのも、何だか少し違和感があるし。


 ――本当に、何もなかったのか?


「そろそろ行くわよ。レイ。食堂の席、埋まっちゃう」


「……あ、そうだね。行こうか」


 私はアルファンスが去って行った方向と、先ほどまでラファがいた場所を交互に視線をやってから、マーリーンに追い立てられるままに、その場を離れた、




【アルファンスー……】


「……また、いるな」


 私の呟きに、同じく炎の大精霊が見えている筈のフェニもまた、呆れたように鼻を鳴らした。

 ……お、フェニ。少し元気が出たかな。

 カーミラの一件以来、フェニはすっかり塞ぎこんでしまっていた。どうやら、悪魔の力に簡単に弾き飛ばされてしまって、私を守れなかったことが相当応えたらしい。

 大好きな女の子にも反応を示さず、召喚する度神経を張り巡らせて、私を必死に警護するフェニの姿は見ていて少し辛かったから、こうやって少しずつでも前のように戻ってくれると嬉しいな。

 そもそも私もアルファンスも歯が立たなかったのだから、フェニが自分を責めることもないのにさ。

 私はフェニの前にしゃがみ込むと、角が刺さらないように気をつけながら、フェニと鼻先を合せて鬣を撫でた。


「フェニ……炎の大精霊のあれ、絶対私に向けて何かアピールしているよね」


 私の言葉を肯定するように、フェニは小さく鼻を鳴らした。


「多分、私が話しかけるのを待っているんだと思うけど……正直私、何て声を掛けていいのか分からないから、見なかったことにしたいんだ。……ひどいと思うかい?」


 フェニは、静かに首を横に振った。


「……無視して、いいと思う?」


 再び、フェニは鼻を鳴らす。


 ……フェニも、このまま何も言わずに去ることに賛同してくれているし、泣いているラファを見なかったことにして、来た道戻ろうかな。

 うん、それが良い気がする。


 私はそのままラファから背を向けて、静かにその場から離れ……


【――何で、主は泣いているわらわを、慰めないのじゃ!! はよう、こっちに来て、話掛けんか!! うつけもの!!】


 ……る、ことは出来なかった。

 ……まあ、こっちが気付いているんだから、当然向こうも気づいているよな。それは。


「……いや、その。君は嫌っている私に話しかけられたくないのかな、と思って」


【この状況で、わらわが主を嫌いか好きかは、関係なかろう!! かように可愛らしい、いたいけな幼いおなごが、一人で泣いておるのじゃぞ!? 理屈でどうのこうの考える前に、普通はまず真っ先に慰めるものじゃろ!! 人としてな!!】


 ……ええー。


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