おまけ
それにしてもこいつら、本当によく飲むな……。
聡介は財布の中に入っている現金だけで間に合うだろうかと、少し不安になってきた。
一つの事件は無事に解決し、捜査は完了した。そこで今夜は部下達の労をねぎらうために、あえて流川ではなく、駅前の居酒屋で宴会を開いた。
ほとんど飲めない聡介はウーロン茶を啜りながら、大騒ぎをしている部下達を見つめていた。
皆、解放感と達成感に浸って高揚している。
「聡さん、お願いがあるんですが」
急に和泉が膝をついて顔を近づけて来た。眼が据わっている。
「な、何だ?」
「……もう少し、聡さんのところで居候させてください……」
動物に例えると間違いなくネコ科と思われる和泉が、捨てられた犬みたいな顔でそう言うと、なんだか落ち着かない。
「わかっている、好きなだけいればいい」
少なからず酔っぱらっている息子は、
「ありがとう、聡さん! 大好き!!」と、抱きついてきた。
気持ち悪いが、突き離す気にもなれない。
が、やっぱりネコ科の息子はふいと聡介から離れると、日下部や友永、三枝達の元に言って下品な話を始めた。
ふと聡介はさっきから隣で黙っている駿河を見た。
彼のグラスはさっきからあまり減っておらず、そうかと言って箸が進んでいる訳でもなさそうだ。
「……大丈夫か?」
「はい……」
彼はぐいっとグラスに残っていたビールを飲み干した。
「僕、あまりお酒は好きじゃありません」
「そうか……悪いことをしたか?」
駿河は顔を上げて聡介を見上げてきた。
少し酔っているのだろうか? 眼が潤んでいる。
「本当は班長と二人で、美味しいケーキ屋さんに行きたかったです」
「……」
なんだ? 今のは。ドキって……。
「和泉さんが羨ましいな……いつも班長と一緒にいられて」
駿河はいつにない口調でそう言った。
「なんだったらお前も来るか? 一応、部屋はもう一つあるぞ」
聡介は冗談のつもりで言ったが、彼は半分本気にしているようだった。
まずい。
誰か何とかしてくれ……。
もう二度と、全員を連れて飲みに行ったりはしない。
事件解決のお祝いは、刑事部屋の片隅でひっそりと茶碗酒、それだけでいい。
聡介はそう心に決めた。




