教皇庁の最終手段! 物理的な地脈回線の切断(破壊工作)に、騎士団とドローンで対抗します
「……来たわ。……地脈結節点(Node-Alpha)からの応答が、断続的に途切れている。……パケットロス率、12%。……これは回線の不調じゃない。……誰かが物理的にケーブル(魔力の蔦)を切り裂こうとしているわ」
夜の帳が降りたグランヴェル領の境目。
私の目の前で展開されているL-Padの画面には、大陸を覆う緑色の回線図の一部が、血のような赤色で点滅していました。
聖教国によるプロトコル戦争の敗北。その直後に行われたのは、彼らの得意とする「実力行使」でした。インターネットの海底ケーブルを爆破するテロリストのように、彼らは王国の通信網の心臓部を物理的に破壊しようとしているのです。
《警報。……国境沿いの第1結節点において、高出力の『魔導爆破兵器』の起動を検知。……敵の潜入部隊、総勢20名。……彼らは物理的に回線を断ち切り、王国を通信不全に陥れるつもりです。》
「……物理的な切断(L1破壊)か。……聖教国も随分と落ちぶれたものね。プロトコルで勝てないからって、最後は爆弾魔なんて」
私は冷ややかな笑みを浮かべ、すぐ隣で待機していた父――グランヴェル公爵に向き直りました。
「お父様。……敵の潜入部隊が、第1結節点に到達したわ。……彼らを排除して、結節点を守る時間は……あと15分」
「……上等だ、レティシア! ……論理だの計算だのという頭脳戦もいいが、結局は最後、ここに辿り着くと思っていたよ! ……パパの剣の錆にしてやる! ……騎士団、出陣!」
お父様が愛剣を引き抜くと、その豪腕から黄金色の闘気が噴き出しました。
隣に控えていたユリウス王子も、静かに、しかし鋭い眼光で剣の柄に手をかけました。
「……彼らの目的は、王国を再び情報孤立に追い込むこと。……これを許せば、せっかく手に入れた国際的な信用も、また瓦解する。……第1結節点は、グランヴェル領の玄関口だ。……ここで防衛する以外の選択肢はない」
「お二人とも、気をつけて。……ただし、ただの突撃はダメよ。……敵は、高性能な『対魔導シールド』を持っているはず。……魔法で防ごうとすれば、逆位相の魔力で相殺されてしまうわ」
私はL-Padを操作し、先日開発したばかりの「新型兵器」をアクティブにしました。
「……お父様、ユリウス様。……私が今から空中に展開する『魔導飛行体』を先兵にするわ。……これらは世界樹の枝と、高効率な魔力エンジンを組み合わせた『監視・迎撃ユニット』よ」
「魔導飛行体……? ……また、見たこともないようなものを!」
シエルお兄様が、私が作り出した、手のひらサイズで四枚の翼を持つ小さな機体が、次々と窓の外へ飛び立っていくのを見て驚嘆しました。
「……ただの偵察機じゃない。……このドローンには、敵のシールドを物理的に無効化する『周波数攪乱』機能を搭載しているの。……お父様たちが突撃する直前に、こいつらが敵のシールドを強制的に『オフ』にする。……そこを突いて!」
私はドローン群を操作し、国境地帯の地形データと、敵の潜入部隊の座標をリアルタイムでマッピングしました。
Impact_Vector = (Target_Velocity * Intercept_Time) + (Wind_Drift * Air_Resistance)
変数の定義:
・Impact_Vector: ドローンの突撃方向(敵のシールド隙間に合わせる)
・Target_Velocity: 敵の潜入部隊の移動速度
・Intercept_Time: 衝突までの予測時間
・Wind_Drift: 山間部特有の突風による偏流値
・Air_Resistance: 魔力粒子による空気抵抗係数
「――座標データ、転送開始(Send)。……ドローン部隊、目標ポイントへ急行!」
「おおお! ……視界に、空飛ぶ光の粒が見えるぞ! ……これがレティシアの兵器か!」
お父様は愛馬に跨り、王国騎士団を率いて、ドローンが先行する森の奥へと駆け出しました。
私も、シエルお兄様とユリウス様と共に、安全な本部からL-Padを通じて戦況をモニターします。
戦場は、夜の闇に包まれた国境の山道。
敵の潜入部隊は、岩陰に潜み、第1結節点に巨大な魔力爆弾を設置しようとしていました。
「――ジャミング開始。……周波数同調、完了。……シールド、バイパス成功よ!」
画面の中で、ドローンたちが一斉に敵の周囲で高周波の魔力パルスを放ちました。
「なっ……!? 魔法が効かないだと!?」という敵兵の絶叫が、通信回線越しにスピーカーから流れてきます。
「今だ! お父様!」
「――『グランヴェル流・不動の一閃』!!」
お父様の雄叫びが、森の静寂を切り裂きました。
シールドを失い、無防備になった潜入部隊に対し、黄金の斬撃が容赦なく降り注ぎます。
肉体能力の限界を超えた一撃は、爆弾の導火線に触れる前に、敵の装備ごと彼らを吹き飛ばしました。
「……制圧完了。……結節点の守備、確認。……敵、全員拘束しました!」
お父様の勇ましい報告を聞き、私は深く安堵の溜息をつきました。
「……よかった。……これで、物理的な破壊工作も阻止できたわ」
「レティシア、君の『魔導ドローン』の威力……凄まじいな。……魔法を無効化する兵器、そして魔法をブーストする君のシステム。……これが組み合わさったら、もう大陸に君に勝てる相手はいないかもしれない」
ユリウス王子が、画面の中の父の雄姿を見つめながら、少しだけ苦笑いを浮かべました。
「……いえ、そんなことないわ。……敵はまだ諦めていないはずよ。……通信規格、物理攻撃と失敗したのなら、次は……」
私は地図上で、聖教国の首都にカーソルを合わせました。
「次は、『情報操作(世論の扇動)』ね。……聖教国は、国民たちに『王国は悪魔の国であり、通信網は彼らの洗脳デバイスだ』と嘘のプロパガンダを流すはずよ。……物理的な破壊ができないなら、人々の心(認知レイヤー)をハッキングして、暴動を起こさせようとするわ」
「……民衆を操って、内側から国を壊そうとするわけか。……本当に、どこまでも汚い手を使う」
シエルお兄様が、怒りで拳を震わせました。
「……ええ。……だから、私たちはこれから、ただの『通信網』を作るだけじゃなくて、世界中の人々に『正しい情報』を届けるための、新しいメディアプラットフォーム(言論の砦)を作る必要があるの」
「メディアプラットフォーム?」
「そう。……嘘のニュースが氾濫する聖教国の古いネットワークに対抗して、レティシア・グランヴェル発の『真実のニュース配信システム』を、世界中にデプロイするのよ。……世界中の人々が、自分たちのL-Padで、自由に、正しい歴史や科学を学べるように」
私は、ただ防衛するだけでは終わらせない。
攻撃こそが最大の防御であり、そして技術による「啓蒙」こそが、最も強力な武器であることを確信していました。
「……お父様たちが帰ってきたら、作戦会議ね。……次は、情報戦のフェーズに突入するわよ。……世界をハッキングして、本当の意味での『平和』を、私たちの手でインストールするんだから!」
三歳の聖女の目は、夜の闇を突き抜けて、世界の裏側に潜む「偽りの神殿」を見据えていました。
通信、物理攻撃、そして情報操作。
次々と牙を剥く教皇庁の攻勢を、彼女はどのように論理と技術の力で覆していくのか。
物語は、いよいよ「思想と文明の衝突」という、さらに壮大なステージへと向かおうとしていました。




